“CDを知らない世代”にCDを知ってもらうために――「CD聴こうよ。」に込められたミセス大森元貴の真意

2025年7月10日 / 21:35

 2025年7月8日にMrs. GREEN APPLEがメジャーデビュー10周年記念日を迎え、アニバーサリー・ベストアルバム『10』を盛り上げるべく、東京都内を中心に様々な施策がはじまっている。その名も「CD聴こうよ。」プロジェクト。サブスク普及により、CDからデジタルで聞くスタイルがすっかり定着したこの令和に、ストリーミング王者であるMrs. GREEN APPLEが提示するのが「CDで音楽を楽しもう」ということ。そこには音楽の長い歴史とそれを支えてきた先輩アーティストたちへの尊敬、そして音楽を次世代へ継承していくいち音楽家として責任が深く関わっていた。

 先日Billboard JAPANでも発表されたように、Mrs. GREEN APPLEは国内累計ストリーミング数100億回を超える史上初のアーティストになった。2022年3月から始まったフェーズ2以降、短いスパンで発表されていく彼らの楽曲は、各音楽配信サービスで軒並みトップ10入り。『10』は早くも70万枚近く売り上げており、2020年代を代表する国民的バンドであると言っても過言ではない。

 バンドのフロントマンでもあり、統括、プロデューサーでもある大森元貴(Vo. / Gt.)とともに、この壮大なキャンペーンを構想・実現させたのが、クリエイティブディレクター/コピーライターの有元沙矢香氏率いるクリエイティブチームだ。有元氏は、これまでに『M-1グランプリ』や映画『君の名は。』の地上波放送の際に展開されたキャンペーンなどを手がけてきた。大森が有元氏の広告作品を見て、スタッフを通じて、一緒に仕事ができる機会を作れないか連絡を取ったという。「今の10代の子とかって、CD聴いたことあるのかな?」――大森との会話で出たこの発言をきっかけに、「CDを聴くという体験自体を広告するのがいいのでは?」というコンセプトが固まった。

 活動再開からこれまでに、ミセスは15もの配信作品を発表してきたが、いわゆるフィジカル作品は2022年のシングル『Soranji』とミニアルバム『Unity』、2023年のフルアルバム『ANTENNA』の3作品のみ。『10』はミセスにとって、実に2年ぶりのフィジカル作品なのだ。大森はファンの多くが、CDではなくデジタルで音楽を楽しんでいる若年層であることを理解している。クリエイティブチームは、そんなファンたちに『10』をCDで聴いてもらう、ましてや『10』に限らず、CDというメディアだからこそ得られる音楽との関わり方、音楽の楽しみ方を知ってもらう機会を設けることをゴールに、大森と話し合いながら、Mrs. GREEN APPLEという大手クライアントの作品プロモーションの場を、若者そしていち音楽ファンも十分楽しめる学びと交流の場にさせることとした。

 そうして始まったのが、「CD聴こうよ。」プロジェクトだ。まず、大森の今回のメッセージに込めた思いを渋谷スクランブル交差点に面するTSUTAYAビルに大きく掲出。そこには「サブスクで聴く音楽もいい。ミセスはそのおかげで、本当に多くの人に聴いてもらえた。でも、CDで聴く音楽も僕は好きだ。あの頃、夢中で味わった音楽だけの世界。そんな瞬間を、もう一度。そしてまだ体験したことのないあなたにも。心と形に残る音楽を。」と書かれており、この言葉はすぐさまSNSで全国へ広がった。ヘッドホンで音楽を楽しんでいる大森、若井滉斗、藤澤涼架の撮りおろしビジュアルが交差点を行き交う通行者たちの目を引く。見渡すと、どこか懐かしさを感じるポップなフォントの「CD聴こうよ。」が目に入る。円盤のモチーフを文字や「。」に反映させたデザインは、アートディレクターの宇崎弘美氏が手がけたものだ。また、平成の雰囲気とミセスらしさをファッションでも表したいというアイデアのもと、大森は衣装を選んでいった。

 「CD聴こうよ。」の企画内容は、常日頃からバンドの枠を超えた表現活動をしている大森と、SNS時代のファンインサイトを活かした広告表現をしている有元氏が、いかにファンを楽しませられるかを想像しながら作り上げている。たとえば、東京にある大森駅、高知県四万十川沿いにある若井駅、神奈川の藤沢駅と、メンバーの名前がつく駅にサイン付きポスターを掲出。カメラ好きの若井が実際に現地を訪れ、その様子を自身のInstagramに投稿、ファンを大いに喜ばせた(どこか気になる方はぜひGoogleマップで検索、ついでにレビューも確認してほしい)。

 普段はイベントスペースであるSHIBUYA TSUTAYA 1階は、大森の音楽へのリスペクトが反映された場所に生まれ変わった。7月7日から期間限定で開催されている展覧会【ミセスとCD聴こうよ。展 @TSUTAYA】では、平成31年間のシングル/アルバムTOP 5作品のジャケット展示や、リッピングやA面・B面、音飛び、焼くといった、デジタルにはないCD関連ワードの説明、CDプレーヤーで実際にCDを聴く視聴コーナーなどが設けられている。ミセスの作品だけじゃなく、他のアーティストたちの作品も掲出しているのは大森たっての希望だ。TSUTAYAのCDレンタル利用者には懐かしい紺色の専用バッグと返却ポスト、TSUTAYAのロゴマーク「カルちゃん」がよく見るとミセス3人になっているなど、CD世代にもたまらないスペースだ(入場には事前予約必須のため、ご注意を)。

 足を延ばしたMIYASHITA PARK内では、フェーズ2以降の配信限定シングルが “ふたつとない”大型CDパッケージとして展示。円盤化されていない楽曲を敢えて大きくCD化させたのも大森のアイデアだ。デバイス上で何度も見た鮮やかで美しいジャケット写真がCDになると印象も変わって、実におもしろい(そして存在感のあるオブジェはどこから撮ってもオシャレに映るのがうれしい)。

 館内のイベントスペース「SAI」でも特別展示【Mrs. GREEN APPLE 10th Memorial Room】が開催中(こちらも要事前予約)。歴代ジャケットの実物展示に加え、大きな青りんごのオブジェ、ここでしか聞けないメンバーの“ヒソヒソ” コメント、過去の活動や楽曲のモチーフを大きな樹に実る実として描いた巨大壁画も見逃せない(その完成度の高さは、制作途中の絵を見た大森もテンションが上がったほど)。

 ほかにもコンビニでの『10』販売、学生も手に取りやすい価格を若干抑えた<MAGICAL PRICE盤>など、通常よりもCD購入の機会を増やしたMrs. GREEN APPLEは、購入を一方的に勧めるのではなく、体験も交えながら、CDを知っている人にも知らない人にもCDという存在をアピールしている。そこには、自分たちが次の世代に何を残せるか、自分たちだけでなく音楽業界全体、社会全体に目を配っている大森の真意が関係している。

「『10』の売上に貢献することが今回のゴールのひとつではありますが、大森さんと作り上げながらより大きな意義として大切だと感じたのが、CDを聴く文化の継承と、いまこの時代にCDを売ることの意味です。私たちもそれを問いながら完成させたプロジェクトで、体験として、文化として一人でも多くの方にCDを聴いてもらい、その音楽体験が、その人たちの日々と人生をより豊かにしてくれたら、うれしいです。」

 最後に、大森の驚きエピソードをひとつ。3月以降、幾度もミーティングを重ねてきた有元氏は、「『この人、広告業界で働いているのかな?』と思うくらいの知識をお持ちで驚きました。世の中と広告の仕組みを理解されていて、媒体ごとの最適なアプローチの仕方、広告を掲出した後の動きさえも把握されていて、会話がスムーズでした」と、大森とのやり取りを振り返る。「山手線車内は、スマホとの戦いなのでとにかく広告臭を減らして、エンタメ要素が多いものにしたいという大森さんの要望がありました。私たちがどんな生活をしていて、広告をどう見ているかがちゃんとイメージできている。私がやるような思考の作業をアーティストである大森さんもやられていて、この繊細な想像力こそが、あの歌詞を作り上げているのだと突きつけられました」と、豊富な知識と的を射た提案に、広告業界の第一線で活躍する有元氏も脱帽したという。

Text by Mariko Ikitake


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