<ライブレポート>さらさ、初のビルボードライブ公演 バンドセットで届けた特別な一夜

2025年1月30日 / 18:00

 昨年9月に2ndアルバム『Golden Child』をリリースした、シンガーソングライターのさらさが1月17日、ビルボードライブ横浜にてバンドセットのライブを行った。ビルボードライブに出演するのはこれが初となる彼女。昨年行われた東名阪ツアー【Golden Child Tour 2024】でもサポートを務めたメンバーと共に、『Golden Child』の楽曲はもちろん、過去の曲もバランスよく織り交ぜた集大成的なセットリストで観客を魅了した。

 筆者が訪れたのは2ndステージの回。定刻となり、アンビエントなシンセサウンドが会場を充満する中、まずはサポートメンバーの磯貝一樹(Gt)、オオツカマナミ(Ba)、石田玄紀(Key, Sax)、松浦千昇(Dr)がステージに登場。遅れて全身白の衣装をまとったさらさが裸足でステージに上がると、客席から温かい拍手が起きた。

 エレピとメロトロン風のシンセサウンドが絡み合うお馴染みのイントロに導かれ、アルバム『Golden Child』から「予感」でこの日のライブはスタート。ゴーストノートをたっぷりと含んだグルーヴィーなドラム、親指弾きによる太くて柔らかなベースが織りなすアンサンブルの上で、憂いを帯びたさらさのアンニュイな歌声が静かに、しかし確実に心の奥深くへ染み渡る。1番のサビを歌い終え、穏やかな笑みを浮かべながら「こんばんは、さらさです。一緒に楽しみましょう」と挨拶すると、再び会場は暖かな拍手に包まれた。

 続く「Roulette」も『Golden Child』収録曲。レアグルーヴ?アシッドジャズのエッセンスをまぶした躍動的なアンサンブルと、抑揚を抑えたさらさのボーカルが絡み合い、会場の空気をじわじわと暖めていく。間髪入れずに演奏されたのは「feeldown」。さらさは黒いホロウボディのエレキギターを抱え、石田のサックス、オオツカのシンセベースとともに、ジャジーなアンサンブルを繰り広げる。ファルセットと地声を巧みに使い分け、哀愁たっぷりのメロディを歌い上げるさらさに、オーディエンスはうっとりと耳を傾けている。

 タイトなドラムとうねるようなベース、洗練されたコードを奏でるエレピが有機的に絡み合い、反復しながら高みに上がっていく「ネイルの島」は、さらさの名を一躍有名にした2022年のEPタイトル曲だ。ギターはワウを効かせながら、切れ味鋭いカッティングでこの陶酔的なサウンドスケープに鮮やかな彩りを加えていた。

 「改めましてこんばんは、さらさです。やっほー、明けましておめでとうございます!」と、演奏中の雰囲気から一転して天真爛漫な表情を見せる彼女に、フロアから歓声が上がる。「2025年一発目のライブをバンドセットで、しかも初めてのビルボードライブを横浜で実現できて、湘南出身の私はとても嬉しいです。それにしても距離が近いですよね、いつもより。気まずくないですか? 大丈夫?」と客席に呼びかけると笑いが起きた。なお、この日はアルバム『Golden Child』をイメージした公演限定のオリジナルカクテルも販売されていた。

 「それじゃあ、次は「グレーゾーン」をやってみます」と彼女が言った瞬間に歓声が上がる。「ネイルの島」と並ぶ、彼女の初期名曲だ。タメの効いた、バウンスするドラムとメロディックなベースライン。音数を削ぎ落としたそのアンサンブルが、儚くも凛としたさらさの歌声を際立たせている。曲の後半では磯貝のギターソロが唸りを上げ、エンディングに向かってカオティックに展開していくと、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 さらさのゆったりとしたストロークを軸に、たった2つのコードを反復しながらインナースペースへと誘(いざな)う「遠くまで」、照明を極力落として暗闇の中で演奏した「午後の光」、〈やめないで望むことを 立ち止まることも前進で〉〈無を見つめては愛を知って わからなくてもここにきて〉と、誰かの孤独や喪失にそっと寄り添うような「Virgo」と、ライブ中盤では自己の内面へと深く潜り込んでいくような楽曲を続けて披露した。

 メンバー紹介の後、ライブ後半はオオツカによるファンキーなベースリフで幕を開ける。アルバム『Golden Child』のリードトラック「リズム」だ。さらさはシェイカーを片手にリズムに合わせて体をゆっくりと揺らしながら、ステージを歩き回る。まるで夢の中を彷徨っているかのような、幻想的かつ官能的なサウンドスケープが会場を包み込む。

 「あっという間に後半になっちゃった。でも楽しいね!」そう笑顔でフロアに呼びかけ、「太陽」と「Amber」を立て続けに披露。さらに、「『喪失』の中にいるからこそ、感じることのできる幸福感」について綴ったという「祝福」を、今年の初めに亡くした友人に捧げると告げて歌い、本編ラストは『Golden Child』でも最後を飾った「船」を演奏。ギターの弾き語りから始まり、徐々に壮大なアンサンブルへと展開していく様は、まるで海のほとりから静かに漕ぎ出した船が、荒ぶる大会を進んでいくようだった。

 鳴り止まぬアンコールに応え、再びバンドと共に登場したさらさ。敬愛するCharaへのオマージュを盛り込んだソウルフルなポップチューン「火をつけて」を演奏してこの日のライブに幕を下ろした。神奈川県・湘南出身のさらさにとって、ある意味ホームタウンでもある横浜で実現した初のビルボードライブ公演。リラックスした親密な雰囲気の中で、彼女の持つ唯一無二の歌声と卓越したバンド演奏を存分に堪能するスペシャルな一夜だった。

Text:黒田隆憲
Photo:Ryo Mitamura

【さらさ New Year Live 2025 in Billboard Live YOKOHAMA】
2025年1月17日(金)神奈川・ビルボードライブ横浜
※公演終了

<セットリスト>
1.予感
2.Roulette
3. f e e l d o w n
4.ネイルの島
5.グレーゾーン
6.遠くまで
7.午後の光
8.Virgo
9.リズム
10.太陽
11.Amber
12.祝福
13.船

En.火をつけて


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