<ライブレポート>『ユイカ』が10代最後に描いた“日常”――2ndライブ【Sweet alyssum】

2025年1月16日 / 19:00

 『ユイカ』が、1月8日に1stライブ【Agapanthus】の会場となったKT Zepp Yokohamaで、2ndライブ【Sweet alyssum】を開催した。

 ストーリー、LINE、フォロー……SNSを表す言葉たちが、大きなシャボン玉のように目の前に膨らみ、そして弾けたころには日常に溶け込んでいる。そのインパクトは時代に適合したシンガーの姿そのものだった。

 2021年3月、TikTokに投稿した楽曲「好きだから。」が国内外でバイラルヒットし、瞬く間にその名が世界中に広まったシンガーソングライター・『ユイカ』。<はい!午前8時20分 ターゲットを目視しました!>という歌い出しから始まる「すないぱー。」もまた、恋する乙女心の描写で人気を集めている1曲だ。TikTokをはじめとするSNS上で、この曲が使用された動画に触れたことのある人も多いだろう。

 差し出した両手を振りながら軽い足取りでKT Zepp Yokohamaのステージに現れた『ユイカ』の顔には満面の花が咲いていた。ギターを肩から背負うと、スタンドマイクで1曲目「ひそかな願い。」を歌い始める。彼女の歌は、王道J-POPに通じる親しみやすさが混在しているが、決して懐かしいという気持ちだけで終わるものでもなく、むしろ懐かしさ以上の真新しさを感じさせる要素のほうが大きい。例えば、歌詞に出てくるストーリーやインスタ、フォローなどのティーンの日常を切り取るSNSワードは、SNSが日常のフラグメントとなっている世代からすると、歌詞の一部であること自体、何ら不思議なことではなく、馴染みの良さは抜群だ。観客の手拍子と歌声が混ざる過程から高鳴る恋心が舞った「恋泥棒。」、LINEというワードもまた“今”の連絡手段としての共通認識になっている「スノードーム」も、全員が日常の一部としてその音をゴクリと飲み干していくのがわかる。

 弾き語りならではの歌そのものに焦点を当てた熱のこもった歌声は、リスナーを一瞬で眠りに誘ってしまうほどの子守歌さながらの安心感をくれる。ハンドマイクを手にステージを歩き回りながら、観客と近い距離感で繋がった「わがまま。」がその象徴だった。『ユイカ』の歌声は暗闇の中、至近距離で聴きたくなる心地よい温度感を持っていて、そこから妙な親近感が生まれる。この距離感が急速に曲を温めていく。枯れた声がエレキギターのドライな音色に溶けていった「運命の人」で生まれた儚げな余韻は、自然の中に静かに帰る生命を思わせた。

 背伸びしない等身大の歌詞が、『ユイカ』のターニングポイントになった「好きだから。」や、耳元で直接歌われている親密さに包まれた「そばにいて。」を魅力的にしているのは確か。<ちょっと待って>と歌った際の『ユイカ』の手振りが曲に華を添えた「あなたが知らない貴方のうた」は晴れた空によく似合っていて、その後の未発表曲「おくすり」は打ち込み感が印象的な期待をゆうに超える仕上がりだった。情感たっぷりに「17さいのうた。」「序章。」を歌い上げる『ユイカ』をじっと見つめ、彼女の歌声に耳を澄ます観客。『ユイカ』は小柄ながらも、うんともすんとも言わせないエネルギッシュな空気感をまとっている。歌そのものの力に留まらず、誰にも簡単に真似することができないと感じさせる、彼女のステージ上での唯一無二の存在感もティーンの指針となっているようにも見えた。

 残り4日(1月12日)で20歳になる『ユイカ』が10代のうちに書ききってよかったと思えると喜んで話すと、ドラムのカウントで始まる「ラストティーン」。そこからは悔いのない日々を虹色で染め上げる自信を持った青春の音色が転がる。「みんなも一緒に歌いましょう!」と熱いシンガロングを最後に巻き起こした「僕らしさ」も心にグッと来た。

 「最後、めちゃめちゃでかい声で聴きたい質問があります。『ユイカ』のことが好きな人~??」「ありがとう! それでは聴いてください! すないぱー。」。このコール&レスポンス形式で一気に盛り上がりのピークを作り上げ、そのまま「すないぱー。」へとダイビングした展開は、まさに“完璧”の一言。ここまで理想的な山の流れを作り、簡単に期待を超えてしまう『ユイカ』。両脇から転がってきたピンクの巨大バルーンが割れると飛び出す複数のハート型のバルーンのサプライズも可愛らしかったが、それ以上にこの「『ユイカ』ってこんな人!」と言わんばかりのパワフルすぎる一連の演出に、誰もが心を撃ち抜かれたことだろう。その後の、<笑いたきゃ笑えばいい、それで幸せになれるんなら。 恥ずかしくないよ、これが私の生き方だ。>と決意を歌うアンコールの「紺色に憧れて」の悩みもあっさりと吹き飛ばしてしまったのだから。

Text by 小町碧音
Photo by Viola Kam (V’z Twinkle)

◎公演情報
【Sweet alyssum】
2025年1月8日(水)
神奈川・KT Zepp Yokohama 
<セットリスト>
01.「ひそかな願い。」
02.「恋泥棒。」
03.「スノードーム」
04.「わがまま。」
05.「クリスマスの日じゃなくていいから」
06.「運命の人」
07.「好きだから。」
08.「そばにいて。」
09.「あなたが知らない貴方のうた」
10.「おくすり」
11.「17さいのうた。」
12.「序章。」
13.「ラストティーン」
14.「僕らしさ」
15.「すないぱー。」

En
01.「紺色に憧れて」


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