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太平洋戦争下の広島県呉市に生きる人々の姿を淡々と丁寧に描いた、こうの史代氏による漫画「この世界の片隅に」がミュージカル化され、5月9日から上演される。主人公の浦野すず役をWキャストで務めるのは、昆夏美と大原櫻子。すずが嫁ぐ相手の北條周作を海宝直人と村井良大がWキャストで演じる。また、国民的合唱・卒業ソング「手紙~拝啓 十五の君へ~」でも知られるアンジェラ・アキが10年ぶりに再始動し、音楽を担当することでも話題となっている。海宝と村井に本作への意気込みや見どころを聞いた。
海宝 まずこの作品がどうミュージカル化されるんだろうと強く感じました。(ミュージカル化するのは)とても難しいと思うんですよ。原作は戦争をベースにしながら、それぞれのキャラクターたちの日常を繊細に描いていくことでいろんなものを浮き彫りにしていくという形で書かれています。ですが、ミュージカルは歌い出さなくてはいけないし、踊りがあることもある。エネルギーが発露するときに音楽が流れるというセオリーでは太刀打ちできない作品だろうと思ったので、それをどうミュージカル化するのかというのはすごく興味がありました。
村井 僕もこの作品をミュージカル化するとどういう雰囲気になるんだろうなと思いました。ただ、(原作の)漫画を読むと、こうの先生はたまに登場人物たちに歌を歌わせているんですよ。周作も歌っているシーンが出てくるんですよね。なので、きっとこうの先生の中で、気持ちがいいときやリラックスしているときには歌があるのだと思います。そういう意味では、この作品の中に音楽が存在するというのは自然なことなのかもしれないと思いました。アンジェラ・アキさんの楽曲も、胸に迫る、優しくて日本人に響く旋律がすばらしかったので、きっとすばらしい作品になりそうだと感じました。
海宝 周作は、そもそもあまり感情を出すタイプではなくて、劇中でも言葉が少なく、すずさんからも「あまり感情を出さない」と言われるほどなので、今、(演出の上田)一豪さんやアンジェラさんと「この楽曲のこの部分は、周作さん主導では盛り上がれないよね」とか、「ここは歌うのをやめてセリフにしようか」など細かいところまで話して、丁寧に作っています。歌い上げて盛り上げるために音楽があるというよりは、漫画の世界を色彩豊かに立体化するために音楽が存在するというイメージです。アンジェラさんの楽曲は色彩があるんですよ。音楽が流れると色が見えてくるような感覚があります。
村井 確かに。そもそもたくさんリプライズ(注:楽曲を繰り返すこと)があるミュージカルではなくて、1曲1曲がまとまって完成されているような、“シングルカット”のような楽曲が多いと思います。作品を通してずっと音楽が流れているというよりは、シーンとシーンの間や、そのシーンを表現するために音楽があるので、役者たちが作品全体を通して1本線を這わせるように歌うことを目指していかなければいけないと考えています。「すずにとっての周作」を歌を通してこれから調整していこうと思います。
村井 先日、初めて通し稽古(注:最初から最後まで通して稽古をすること)を行ったのですが、まだ見ている側にどう伝わっているのかが、分からないままやっているような感覚がありました。なので、海宝くんの意見を聞いてみたいと思っているのですが。
海宝 漫画でも周作がすずに影響を与えるということはすごく少ないんだけど、ミュージカルだとそうしたものがさらに絞られているんですよ。それは一豪さんの意図でもあると思います。通し稽古を見ていて、この物語はすずの目線で進んでいくものだから、周作もすずの目線で描かれていることをすごく感じました。なので、お客さんもすずのフィルターを通して見ることで、それぞれの感情を投影していくというキャラクター作りになっているのだと思います。
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