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9月5日、昨年に引き続きZepp DiverCity(TOKYO)でヒューマンビートボックスオンリーの音楽フェス【BEAT X FES】が開催された。熱狂に包まれたそのライブの模様をお届けしよう。
18時を少し過ぎた頃に会場に着くと、フロアの扉を開く前から、歓声とビートが漏れて聞こえてくる。SO-SOが開演より一足早くオープニングDJとしてブースに立ち、観客を煽りまくっているのだ。オーディエンスもそれに応え、大いに盛り上がっている。ウォーミングアップというより、すでに本番だ。
定刻を迎えると、ステージ後方に出演者を紹介する映像が流れ、最初のアーティストがアナウンスされる。フランスのレジェンド的ヒューマンビートボクサー、Alem(アレム)だ。そして放たれる、高速かつ重量感のあるビート。マイク1本、口から出る音だけで構成されているとは思えないサウンドに包まれて抱くこの驚きと高揚感こそ、ヒューマンビートボックスのライブの醍醐味だろう。約15分間ほど、Alemは全力のパフォーマンスを届けてくれた。
ベルギーのFootboxG(フットボックスジー)もマイク1本でタイトに、かつコールアンドレスポンスも取り入れた楽しいステージを繰り広げる。フロアから巻き起こったハンドクラップが曲の一部になるような瞬間が何度もあり、良い意味でクラクラしてしまう。
次に登場したのは、一般募集から選ばれる出演者が選ばれる企画、[BEAT X PASS]を通過したMark & TAKO。大舞台にも関わらず、ループステーションを駆使した熱演で、フレッシュな風をこのフェスに送り込んでいた。
日本のヒューマンビートボックスシーンで異彩を放つ存在、KAIRIがステージに立つとフロアの熱はもう一段高くなる。まるで喉にピッチシフターが内臓されているのではないかと思うようなパフォーマンスは見事と言う他ない。「好きなものを好きなだけ好きって言おう」と、ヒューマンビートボックスへの愛を率直に語り、その愛を押し殺す必要はないと呼びかけるMCに、長らく“マイナー”、“マニアック”なものとして扱われがちだったこのカルチャーをそれでも愛し、ここに集まったオーディエンスから大きな歓声が上がる。
そのバトンを受け取ったのはMark & TAKOと同様に[BEAT X PASS]を通過した2組だ。2003年生まれの3人組、Ambienceが笑顔に溢れたステージを届け、cheeがトラブルに見舞われながらも堂々たるパフォーマンスを披露。希望を持った若者が次々に現れることはシーンそのものの成熟の象徴と言えるだろう。
ここでSARUKANIが前半の(KAIRIを除く)出演者を引き連れて登場しサークルジャムへ。最後はAlemとFootboxGの豪華セッションで締めくくられた。
【BEAT X FES】も折り返し地点を過ぎたところで、ステージ後方のモニターに“Secret Guest”の文字が映し出され、現れたのはBATACOだ。2017年にソロでアジアチャンピオンになり、【Grand Beatbox Battle 2018】では日本人で初の世界ベスト4に進出した実力者である彼は、音源制作の修行と、制作環境を整えるためヒューマンビートボックスシーンの表舞台からはしばらく姿を消していた。そんな彼がこのタイミングで登場するとは想像していただろうか。会場は歓声と拍手に包まれる。MC通りブランクを感じさせるどころか、進化した高次元のパフォーマンスにラストは自身の過去のルーティーンを披露しフィニッシュ。
すでに長らくピークの状態を保っているオーディエンスにまだ休む暇はない。フランスから、Beatness(ビートネス)とRythmind(リズマインド)が続けてソロでオンステージ。両者ループステーションを駆使しながら、フロアに踊れるビートを投下していく。Beatnessの曲を徐々に構築していくようなパフォーマンス、ヒップホップの歴史的な名曲「Still D.R.E.」のインストを再現してみせたりするRythmindの気の利いたステージングにはもうアガるしかない。
ラストは【BEAT X FES】を主催するSARUKANI。KAJIが「最後まで盛り上がっていきましょう!」と煽り、ここまで存分にライブを楽しんできた観客のボルテージをさらに上げると、メンバー紹介から「SIREN FIGHT」や「HA-NI-HO-HE-TO-I-RO」などのキラーチューンをドロップ。昨年の【BEAT X FES 2022 IN JAPAN】以降もたくさんのステージを経験してきたSARUKANIのさすがのパフォーマンスに、すでに疲れを感じ始めている身体も自然と動き出す。さらにはこのステージの翌日リリース予定の、高速のラップとビートの絡み合う新曲「SHOCK FACE」も披露し、最後は「HUMANBORG」で爆発的に楽しいステージを締めた。
ヒューマンビートボックスと一口に言っても、奥が深いことを改めて感じられる1日だった。シーンが今よりも小さかった頃からカルチャーを背負い、道を切り開いてきたベテラン、未来を作っていく若者、ときに超えるべき壁として立ちはだかる世界の名だたるプレイヤーたちが世代や国境を超えて繋がり、さまざまな文脈が今現在も紡がれていっているのだ。SARUKANIは、おそらくそんなシーンの深さ、多様さを、圧倒的な楽しさと共に伝えたかったのではないだろうか。SARUKANIのパフォーマンスがどこか誇らしさを湛えていたのは、それを達成したことへの満足感からだったのかもしれない。今年の【BEAT X FES】はシーンのこれまでを濃縮したかのようであり、それでいてシーンのさらに明るい未来を予見させるものだった。
Text by 高久大輝
Photo by 日吉”JP”純平
◎公演情報
【BEAT X FES】
2023年9月5日(火)
東京 Zepp DiverCity(TOKYO)
OPEN 17:30 / START 18:30
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