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ベトナム戦争にまつわる実話を、ユニークな視点から描いた『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』が3月5日から公開される。タイトルは、エイブラハム・リンカーンのゲティスバーグの演説の一節「最後の全力を尽くせ」から取られている。監督・脚本はトッド・ロビンソン。
1999年、空軍省のエリート官僚ハフマン(セバスチャン・スタン)は、30年以上も請願され続けてきた、ある兵士への名誉勲章授与の調査を行うことになる。
兵士の名はウィリアム・H・ピッツェンバーガー(通称ピッツ=ジェレミー・アーバイン)。彼は、1966年のベトナム戦争下、空軍落下傘救援隊の一員として、敵兵の奇襲を受けて孤立した陸軍の兵士を多数救出しながら、自らは戦死したのだった。
ハフマンは、ピッツに救われた帰還兵や戦友の証言を集めるうちに、名誉勲章授与を阻み続けた陰謀があったことを知る。
本作は、観客と同じように次第に真実を知っていくハフマンの視点と、ピッツという知られざる英雄の存在を通して、帰還兵たちの葛藤、心の傷、贖罪(しょくざい)の念などを明らかにしていくのだが、彼らがなぜピッツの授章にこだわるのか、その本当の理由を知ったとき、本作は単に隠れた英雄の功績をたたえるものではなく、「一人の人間が他者に与える影響力の大きさ」を描いたのだと気付かされる。
また、本作のもう一つの見どころは、名優たちの共演にある。ピッツの父親を、先頃亡くなったクリストファー・プラマー(妻役はダイアン・ラッド)、退役軍人たちを、ウィリアム・ハート、サミュエル・L・ジャクソン、ピーター・フォンダ(妻役はエイミー・マディガン)、エド・ハリス、ジョン・サベージが演じている。
そんな彼らが、長いキャリアの中で培ってきた年輪と、今回の役柄が重なって見えて感動させられる。特に、サベージはベトナム戦争を描いた出演作『ディア・ハンター』(78)のイメージと重なるところがあったし、エンドクレジットで、本作が遺作となったフォンダへの哀悼の言葉が示されたのも感慨深かった。
ところで、ベトナム戦争関連映画が、1960年代から数多く作られてきたように、アメリカ映画の長所は、過去の過ちに対して、告発や自浄作用の役割を果たすところにあると思う。本作を見終わったとき、久しぶりにそうした類いの映画を見た気がした。(田中雄二)