【インタビュー】映画『花と雨』笠松将 「スターにはなれない」現実に直面して見いだした自分流の役者道

2020年1月16日 / 17:29

 近年、目覚ましい活躍でさまざまな映画やドラマに出演している笠松将、27歳。主演作は今年公開予定の作品を含めて8本にも上る。しかし、ミニシアター系やショートムービーには強いが、大作や話題作ではメインキャストから漏れることもしばしば…。「スターにはなれない」と自覚し、自分流に道を切り拓いていく笠松に、これから目指す役者像や、最新主演映画『花と雨』に込めた思いなどを聞いた。

笠松将

 大抵の役者が「スター」を目指して芸能界入りするように、18歳の笠松も明るい未来に胸を躍らせていた。ところが、事務所や作品のオーディションでは幾度となく落選し、上京してからの約2年間はアルバイトをしながらエキストラとして作品に参加する日々が続いた。

 その後は少しずつせりふが増え、役名をもらえるようになり、やがて主演を任されるほどに成長したが、「キラキラした王子様みたいな役ができるほどのイケメンでもないし、この世界もスムーズに入ることができたわけではないから、早い段階で“そっち側の人間じゃない”と気付きました」と胸中を明かす。

 そして、「その現実から“逃げる”意味でも、『作品の質を上げられる俳優』になろうと考えを変えました」と語ると、今では多くの経験を通して、その目標を達成できるようになったことに胸を張った。

 その笠松の最新主演作『花と雨』は、独自の感性で最先端を走り続けてきたHIP HOP界のレジェンドラッパーSEEDAが、2006年に発表して多くのアーティストに影響を与えた伝説的な同名アルバムを原案にした映画。彼の自伝的エピソードも交え、「現実と理想」「生と死」「アイデンティティーの探求」などのテーマを通じて、“何者かになりたい”一人の青年が葛藤しながら成長する姿を描いたリアルユースムービーだ。

 “SEEDAのような風貌で英語を話せなければならない”という点で、主役の条件を満たしていなかった笠松は、SEEDAやHIPHOPが好きだったことから、「どんな役でもいいから作品に携わりたい」という気概を持ってメインキャストのオーディションに挑戦した。

 すると、「芝居もよかったし、現状に満足していない姿がSEEDAっぽかった」という理由で土屋貴史監督の目に留まり、主役に大抜てきされた。笠松は「うれしさしかなかったです」と喜ぶと、「SEEDAさんから直接ラップに対する思いを聞かせていただいたことも感動したし、『ラップなんて誰でもできるでしょ』というスタンスも格好いい」と初対面時を思い返してヒートアップする。

 さらに、「オーディションを受けても箸にも棒にも引っ掛からなかった時代、お金はないし、ご飯は食べられないし、役者の夢を諦めてバイト先に就職しようかなとか、地元に帰ろうかなとか思うこともあったけど、前を向かせてくれたのは音楽。音楽には力があるし、音楽がなかったら今の自分はなかったと思う」と吐露。

 特に、「ラップは言葉が直接的で、僕にとっては先生とか教祖みたい。それに、最初は意味が分からなかったり、共感できなかったりする歌詞でも、自分が置かれている環境や心境によって、急に心に刺さる瞬間がくるから奥が深い」とその魅力を熱弁した。

 とはいえ、誰もが簡単にできるはずもなく、もともと歌うことに苦手意識がある笠松は、「ラップはできるんですけど格好良くないんですよ。原曲と同じキーで、テンポも歌詞も合っているのに、なぜかダサくなる。その理由が分からない…」と練習中に困惑したことを打ち明ける。

 そのため、日本のHIP HOP界をけん引するラッパーでMCの仙人掌に指導してもらうことになるのだが、笠松は「教え方が丁寧で、歌詞の1行ごとに『ここで息を吸おう』『ここで止めよう』とブレスのポイントを教えてくれたり、『ここは長いけど一気にいくとキレが出るよ』とアドバイスをくれたりして、その通りにしたらさまになるんですよ」とプロの手腕に感嘆する。

 圧巻のライブシーンは、SEEDAと仙人掌が見守る中で行われた。笠松は「格好良くやろうと力んでいたけど、緊張しすぎたら気持ちが一周して、全部どうでもいいや…と思うと同時に、SEEDAという一人のラッパーと演じる僕の距離がゼロになった気がしました」と不思議な感覚に捉われたことを告白。撮影後は「駄目出しの一つもあるんだろうなと思っていた」というが、「SEEDAさんが泣いてくれていたので、感想を聞くのはやぼだと思い、お辞儀をして次の撮影に行きました」と充実した表情をのぞかせた。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

紅ゆずる、歌舞伎町の女王役に意欲「女王としてのたたずまいや圧倒的な存在感を作っていけたら」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年7月4日

 2019年に宝塚歌劇団を退団して以降、今も多方面で活躍を続ける紅ゆずる。7月13日から開幕する、ふぉ~ゆ~ meets 梅棒「Only 1,NOT No.1」では初めて全編ノン・バーバル(せりふなし)の作品に挑戦する。  物語の舞台は歌舞 … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】異領域を融合する舞台芸術、演出家イ・インボの挑戦

舞台・ミュージカル2025年7月3日

 グローバルな広がりを見せるKカルチャー。日韓国交正常化60周年を記念し、6月28日に大阪市内で上演された「職人の時間 光と風」は、数ある韓国公演の中でも異彩を放っていた。文化をただ“見せる”のではなく、伝統×現代、職人×芸人、工芸×舞台芸 … 続きを読む

毎熊克哉「桐島が最後に何で名乗ったのかも観客の皆さんが自由に想像してくれるんじゃないかと思いました」『「桐島です」』【インタビュー】 

映画2025年7月3日

 1970年代に起こった連続企業爆破事件の指名手配犯で、約半世紀におよぶ逃亡生活の末に病死した桐島聡の人生を、高橋伴明監督が映画化した『「桐島です」』が、7月4日から全国公開される。本作で主人公の桐島聡を演じた毎熊克哉に話を聞いた。 -桐島 … 続きを読む

磯村勇斗&堀田真由、ともにデビュー10年を迎え「挑戦の年になる」 ドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」【インタビュー】

ドラマ2025年7月2日

 磯村勇斗主演、堀田真由、稲垣吾郎が出演するカンテレ・フジテレビ系“月10ドラマ”「僕達はまだその星の校則を知らない」が7月14日から放送スタートする。本作は、独特の感性を持つがゆえに何事にも臆病で不器用な主人公・白鳥健治(磯村勇斗)が、少 … 続きを読む

蓮佛美沙子&溝端淳平「カップルや夫婦が“愛の形”を見直すきっかけになれたら」 グアムで撮影した新ドラマ「私があなたといる理由」【インタビュー】

ドラマ2025年7月1日

 ドラマ「私があなたといる理由~グアムを訪れた3組の男女の1週間~」が、7月1日からテレ東系で放送がスタートする。本作は、グアムを訪れた世代が違う男女3組のとある1週間を描いた物語。30代の夫婦(蓮佛美沙子、溝端淳平)、20代の大学生カップ … 続きを読む

Willfriends

page top