【映画コラム】母子役の演技のキャッチボールが素晴らしい『ルーム』

2016年4月10日 / 17:10
(C) ElementPictures / RoomProductionsInc / ChannelFourTelevisionCorporation2015

(C) ElementPictures / RoomProductionsInc / ChannelFourTelevisionCorporation2015

 7年間小さな「部屋」に監禁され続けた母子の脱出とその後を描いた『ルーム』が公開された。

 小さな部屋で暮らすママ(ブリー・ラーソン)と5歳のジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)。だが二人の世界の全てはこの部屋の中だけだった。ママは17歳の時に誘拐され、それ以来、7年間この部屋に監禁され、ここでジャックを産み育ててきたのだった。

 前半の1時間は部屋での二人の生活とそれに続くジャックの脱出劇をスリリングに見せ、閉塞感から一気に解放することで見る者を引きつける。

 だが、脱出が成功し、ほっと胸をなでおろしたのも束の間。実は二人の生活は脱出後の方が大変だったのだ。

 後半は、青春を奪われたママの苦悩、突然現実世界に置かれた二人の戸惑いや葛藤が描かれるが、二人を受け入れたバアバ(ジョアン・アレン)とその恋人(トム・マッカムス)の優しさが救いとなる。

 女性監禁を描いた映画は、過去には『コレクター』(65)のような名作もあるが、脱出後の被害者の苦悩をここまで丹念に描いたものは珍しい。その点で、部屋の“内”と“外”の二段構えで見せるレニー・アブラハムソン監督の演出は新鮮だ。

 また、本作でラーソンはアカデミー賞の主演女優賞を受賞したが、息子役のトレンブレイとの演技のキャッボールが功を奏したのは間違いない。

 先ごろ、行方不明となった女子中学生が監禁状態から脱出して保護されたニュースは日本中に衝撃を与えたが、本作も、実際にオーストリアで発生した監禁事件に着想を得たエマ・ドナヒューの小説を映画化しているだけに、単なる絵空事では済まない怖さが感じられる。(田中雄二)


Willfriends

page top