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NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。11月24日に放送された第四十五回「はばたき」では、「源氏物語」の執筆を終えた主人公まひろ(吉高由里子)が旅に出て、嫡男・頼通(渡邊圭祐)に摂政の座を譲った藤原道長(柄本佑)は出家することとなった。
旅に出ることを決意したまひろが、道長に「(娘の)賢子(南沙良)はあなたさまの子でございます」と打ち明けるくだりや、ラストのまひろと周明(松下洸平)の劇的な再会など、1年間の放送が終盤に近づき、見どころ満載の回となった。その中でも、柄本がクランクインのときから伸ばしてきた髪を実際にそった道長の出家は、大河ドラマならではの出色のシーンとして強く印象に残った。
このシーンの撮影については、柄本自身がインタビューで「一昨年の6月ごろから伸ばしてきた髪を一気にそったことで、その間過ごしてきた時間を振り返らずにはいられませんでした」と振り返っているが、そもそも髪を2年近く伸ばしてそれをそるという撮影そのものが、普通は難しい。しかも、本編を確認してみると、柄本が実際に涙を流していることが分かる。これも、計算したものではなく、その間過ごしてきた時間を振り返ったからこそ流れた涙だったに違いない。それにより、視聴者も柄本同様、これまで道長が歩んできた道に思いをはせることができる。こういう一体感は、他の作品ではなかなか生まれにくい。
さらに柄本は、出家のシーンについて「最初はなんてこともなく進んでいたのに」とも語っているが、実際に髪をそってしまうので、もし失敗した場合、やり直しがきかず、これまでの努力が台無しになってしまう。もちろん、特殊メイクなどで補うこともできるだろうが、気持ちの部分が大きく変わってくるに違いない。そのため、現場には緊張感もあったはずで、それがこのシーンの深みを増していた。まさに、長期間にわたって撮影が続く大河ドラマだからこそ生まれる名シーンで、この回の白眉だった。
同じように、大河ドラマらしいシーンとしてこの回、印象に残ったのが、旅に出ることを決意したまひろと道長のやりとりだ。道長から「行かないでくれ」と懇願されたまひろは、「これ以上、手に入らぬお方のそばにいる意味は、なんなのでごさいましょう?」と答える。この一言も、われわれ視聴者が1年におよぶ放送を追いかけ、まひろと道長の物語を見守ってきたからこそ、より実感を持って迫ってくる。
まもなく最終回を迎える「光る君へ」だが、終盤に差し掛かり、1年におよぶ物語だからこそ生まれる味わいが、随所ににじみ出てきている。この回のラストも、まひろと周明の久しぶりの再会で迎えたが、「刀伊の入寇」と題した次回、2人の再会がどんなドラマを生み出すのか気になるところ。回数を重ねることで深みを増したドラマを味わいつつ、残り少ない放送を見守っていきたい。
(井上健一)