【映画コラム】これはドラッグに酔ったマイルスが見た夢なのか『MILES AHEAD マイルス・デイヴィス空白の5年間』

2016年12月24日 / 16:54
『MILES AHEAD マイルス・デイヴィス空白の5年間』

『MILES AHEAD マイルス・デイヴィス空白の5年間』

 希代のジャズトランペット奏者マイルス・デイヴィスが音楽活動を休止した、1970年代後半に焦点を当てた意欲作『MILES AHEAD マイルス・デイヴィス空白の5年間』が公開された。

 本作は、『アベンジャーズ』シリーズなどのウォーマシン役でおなじみのドン・チードルが監督し、自らマイルスを演じている。チードルは実話とフィクションを織り交ぜながら、ユアン・マクレガー演じる架空の記者やマイルスの元妻らを登場させ、彼らとの交流を通して“ジャズの帝王”と呼ばれた男の内面に迫るという手法をとった。

 ライブシーンではマイルスとの共演経験もあるハービー・ハンコック、ウェイン・ショーターをはじめとする一流ミュージシャンが登場。70年代のニューシネマを思わせるくすんだ色合い、フィルムの持つざらつき感の再現も面白い。

 ただ、過去と現在の時系列を崩し、フラッシュバックを多用しているため、見る者はまるでドラッグに酔ったマイルスの夢の中をのぞいているような妙な気分に陥る。

 この点についてチードルは「もともとマイルスの人生は普通の伝記という形では収まらない。それに彼は常に新しいものを求めていたし、スタンダードという分かりやすさを嫌悪していた。だからオーソドックスな伝記映画を撮るつもりは全くなかった」と語っているが、こうした描き方への賛否や好みは分かれるところだろう。

 とはいえ、最初は見た目もあまり似ておらず、違和感たっぷりのチードル演じるマイルスが、見ている間にだんだんとなじんでくるところに、『ホテル・ルワンダ』(04)でアカデミー賞主演男優賞候補となったチードルの、俳優としての力量が示されている。彼はテレビ映画でサミー・デイヴィス・Jrを演じたこともあるそうだ。

 それにしても、先ごろ公開された『ブルーに生まれついて』のチェット・ベイカーもそうだったが、本作を見てもミュージシャンとドラッグの根深い関係には心が痛む。(田中雄二)


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