【映画コラム】行間を読む楽しさを味わう『お父さんと伊藤さん』

2016年10月8日 / 15:00
(C) 中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会

(C) 中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会

 父親と娘、娘の年上の恋人による奇妙な同居生活を描いた異色ホームドラマ『お父さんと伊藤さん』が公開された。

 長男夫婦の家を追い出された元教師で口うるさいお父さん(藤竜也)が落ち着き先に選んだのは、娘の彩(上野樹里)と20歳年上の彼氏の伊藤さん(リリー・フランキー)が同居するアパートだった。三人の奇妙な同居生活が始まる。

 彩は書店でアルバイトをし、伊藤さんも給食調理のアルバイトをして生活している。という訳で本作は、定年退職者と非正規労働者という、格差社会の隅で生きている人々が主人公なのだが、彼らは自由で、楽しそうに生きているようにも見える。そこが面白い。

 タナダユキ監督は、登場人物の心の機微を巧みに描くことで定評があるが、今回は原作・中澤日菜子、脚本・黒沢久子も加わり、女性らしい細やかな視点が随所で目立った。

 お父さんが抱える心の闇、伊藤さんの詳しい素性は最後まで謎のままだが、全てを明らかにする必要はない。省略や含みは観客が想像する余地を生み、行間を読む楽しさが味わえるからだ。謎の男・伊藤さんをひょうひょうと演じたリリーの演技に脱帽する。(田中雄二)


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