【コラム 2016年注目の俳優たち】 第15回 石原さとみ&市川実日子&余貴美子 女優たちによるゴジラ包囲網 『シン・ゴジラ』

2016年8月23日 / 15:09
『シン・ゴジラ』石原さとみ (C) 2016 TOHO CO., LTD.

『シン・ゴジラ』石原さとみ (C) 2016 TOHO CO., LTD.

 この夏、最大の話題作となった『シン・ゴジラ』。日本映画の年間興行成績ナンバーワンをもうかがう勢いの大ヒットで、一大ブームを巻き起こしている。

 謎の巨大生物“ゴジラ”に立ち向かう人々の姿を今までになくリアルに描いた本作には、328人もの出演者が名を連ねている。だがその大半は男性だ。クレジットから女性と思われる出演者の名前を拾ってみると40人強。名前だけの判断なので誤差はあろうが、50人前後としても全出演者に占める女性の割合は1/6程度に過ぎない。それでも、その数少ない女性出演者のうちの3人が大きな役割を担っているのがこの映画の特徴だ。

 まずは、ゴジラの襲撃を受けた日本にさまざまな情報をもたらすアメリカ大統領特使カヨコ・アン・パタースンを演じる石原さとみ。

 近年、「失恋ショコラティエ」(14)の小悪魔的ヒロインや『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』二部作(15)でのエキセントリックな演技など、多彩な役を演じている石原。そのいずれにも共通するのは、ふくよかな温かみのあるたたずまい。それが彼女の持ち味と言ってもいいだろう。

 『シン・ゴジラ』では、その持ち味が周囲の政治家や官僚とはやや異質な存在感につながっている。キネマ旬報8月上旬号のインタビューによると、石原は自身の役割を「現場の空気を変えること」と認識した上で、「喜怒哀楽を見せない日本の政治家と並んだ時に、感情表現が豊かな女性にしようと思って」演じたという。確かに、職務遂行が最優先となる官僚とは違い、個人的な心情を吐露する場面もあるカヨコは、作品の感情的な部分を背負った役と言える。

 一方、カヨコと対照的なのが、ゴジラ対策の最前線「巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)」の一員として活躍する環境省職員の尾頭ヒロミ。優れたリサーチ能力を発揮して、事態を左右する重要な情報を導き出す。

 表情を崩さず、膨大なせりふをよどみなく語り切る市川実日子は見事というほかない。その完璧な語り口が優秀さを印象付ける一方、生活感あふれるたたずまいやふとした瞬間に感情をにじませる自然な表情からは、その人間性が浮かび上がる。これまで『めがね』(07)や『レンタネコ』(11)など、日常系のドラマに多く出演してきた市川ならではの演技だ。

 そして3人目が、防衛大臣の花森麗子。演じるのは、『おくりびと』(08)や『寄生獣』(14)など、数々の作品で存在感あふれる演技を披露してきたベテラン、余貴美子。

 本作では、ゴジラ出現という前例のない非常事態にけんけんごうごうとする閣僚たちの中で、どっしりとした大物ぶりを発揮。大杉漣演じる総理に、ゴジラに対する自衛隊の攻撃許可を求める、というより“詰め寄る”といった勢いの場面は物語序盤の山場でもあり、その力のこもった演技は強い印象を残す。

 以上、物語のポイントとなる役を演じる3人は、それぞれが醸し出す雰囲気も異なり、映画をより豊かなものにしている。分かりやすくそれぞれを漢字一文字で例えるなら、カヨコが「情」、尾頭が「静」、花森が「力」と言ったところだろうか。立ち位置の異なる三者三様のキャラクターは、この映画を象徴しているようにも思える。

 もともと、『シン・ゴジラ』で総監督を務めた庵野秀明の作品は、女性が軸になることが多い。本作との類似性が指摘される「新世紀エヴァンゲリオン」(95~96)も、主人公こそ少年だが、周囲で物語を進めるキャラクターは女性が中心だ。

 昨年の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や現在公開中の『ゴーストバスターズ』など、このところ映画界では戦う女性をフィーチャーした作品が一つのトレンドになっている。女性キャラを重視する庵野の作家性とそんな時代性がマッチしたことも、『シン・ゴジラ』の大ヒットを後押ししたのではないだろうか。

 (ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)


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