正統的な血脈が表現する由緒正しきソウル・ミュージック。21世紀の今だからこそ体感したいエル・ヴァーナーの“サラブレッド・ソウル”で心艶やかな宵を

2015年4月28日 / 12:05

 由緒正しきサラブレッドの血統――確かにそれは存在するのだ。
 エル・ヴァーナーもそんなシンガーのひとり。
 ステージに上がった瞬間から発せられる華やかなオーラ。それがすべてを物語っている。

 ときは1990年代、都会的でエレガントなサウンドでありながら、その内側に渦巻く濃密なソウル・フィーリング。スモーキー・ロビンソンのヒット曲から名前を拝借して“クワイエット・ストーム”と呼ばれたアーバンな黒人音楽のムーヴメントは、アメリカのポップ・チャートを席巻するだけでなく、日本でも“レトロ・ヌーヴォー”という大きなトレンドを生み出した。ルーサー・ヴァンドロス、ジェラルド・アルストン、アニタ・ベイカー、メイズ……そういったラインナップの中でもトレンドの中心的な役割を果たしていたグループがバイ・オール・ミーンズ。ジミー・ヴァーナーとマイクリン・ロデリックのデュエットをメインとする3人組は、全曲のプロデュースを担う“第4のメンバー”、スタン・シェファードと共に美意識の高い楽曲と3枚のアルバムをリリースし、人気を決定付けていった。21世紀になった今でもクラブでスピンされることが多いこれらのナンバーは、黒人音楽が最も洗練されたかたちで表現されたサウンドであり、もはやスタンダードと言ってもいい。

 その血統を正しく受け継ぐ大輪の花がエル・ヴァーナーなのだ。両親はジミー・ヴァーナーとマイクリン・ロディック。バイ・オール・ミーンズの音楽を血肉化しているのは当然のこと、90年代のヴィンテージ感溢れるエモーショナルなソウル・ミージックを21世紀の今、再び呼び戻そうとアクティヴな活動を展開しているのだ。その一環として今回、約2年ぶりの来日が決定した彼女。その歌は両親から受け継いだ“静かなるエモーション”をたっぷり湛えたアーバンで大人の雰囲気が漂う。しかし、ただ90年代の音楽を再現しているのではなく、21世紀だからこそのヒップホップを通過してきたリズム感覚や打ち込み主体のサウンドをソウルフルに聴かせる術を身につけているのだから、まさに「血は争えない」という言葉が頭をよぎっていく。

 現在までリリースされたアルバムは全米で4位になった12年のデビュー作のみだが、鋭意製作中と聞く新作も楽しみなその活動は、フル・スロットルに上げている真っ最中だ。

 ライヴでは彼女のデビュー・シングルでヒット曲にもなったヒップホップ・ソウルの「Only Wanna Give It To You」を筆頭にオリジナルはもちろん、エタ・ジェイムスの粋なオールド・ソングをカヴァーしたり、アコースティック・ギターを弾きながら歌ったりと、幼いころからいろいろな曲を聴いてきた出自を明らかにするようなステージング。父親のジミー・ヴァーナーが弾くキーボードのメロディに乗って堂々と歌い上げてくれる。

 その美貌とスレンダーなルックスはステージの上でも華やかな存在感を遺憾なく発揮し、オーディエンスを引き込む。そして鮮やかなパフォーマンスと伸びやかで心地好い歌声。

 もはや、両親のキャリアなど必要としないほど、しっかり独り立ちしたエル・ヴァーナーだからこそのパフォーマンスが存分に楽しめるのだ。

 今回、僕はこの2年のブランクの間に彼女がしっかり成長し、素晴らしく頼もしいソウル・シンガーに育っていることを確認でき、とても嬉しい気分に浸ることができた。

 現在の米国の音楽界において、本音でオリジナリティがあると言える存在がどれほどいるだろうか? 思い浮かべてみただけでも、とても心細い気分になるのは僕だけではないだろう。大半がレコード会社やプロデューサーが用意したオケの上で歌うだけの仕事しかしていない現在、まさに正統派の血を引くソウル・シンガーは、現代の音楽シーンに一石を投じている。

 さぁ、今宵こそサラブレッド・ソウルの由緒正しき音楽に身を委ねてみよう。絶対に損はしない。まだ、東京で28日、大阪で30日にライヴをやる予定だから。

◎公演情報
ビルボードライブ東京
2015年4月27日(月)~28日(火)
1st 開場 17:30 開演 19:00
2st 開場 20:45 開演 21:30

ビルボードライブ大阪
2015年4月30日(木)
1st 開場 17:30 開演 18:30
2st 開場 20:30 開演 21:30

TEXT:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。薫風が心地好いこの季節はチャーミングなピノ・ノワールを少し冷やして、ハムやサラダなどと共に。野菜には季節の旬菜を加えるとシーズナリティ豊かなオードブルに。ぜひとも、お試しを。

PHOTO:Masanori Naruse


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