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華麗なギター・プレイ、燻し銀のヴォーカル――。
イギリスの伝統音楽をベースにしながらも軽快でユーモアとウィットに富んだ歌詞を聴かせるリチャード・トンプソンが、トレードマークのベレー帽を被り、久しぶりにリズム隊を従えたトリオで『ビルボードライブ東京』のステージに登場した。
キャリアのスタートはブリティッシュ・トラディショナル・ミュージック/フォーク・ロックのバンド、フェアポート・コンベンション。だが、独立した後の74年以降は当時の奥さんであったリンダ・トンプソンとデュオのアルバムを発表し、そのリンダとも離婚した82年以降は順調にソロ活動を続けている彼。とにかく1人で弾いているとは思えない端正なギターの腕前は超一流。複雑なパッセージを難なく聴かせるだけでなく、1つひとつの音がまったく揺れず、明快な音階として聴き手に届いてくるのだ。彼のギターの腕前は、現存するロック系ギタリストの中でも5本の指に入るのではないか――。そんな素晴らしいプレイが目の前で軽々と披露されていく。
現在65歳のリチャードだが、どこか飄々としていてフットワークが軽く、あまり貫禄を感じさせない若々しさを保っているのも彼の魅力。そんな彼はアルバムごとにしっかりしたコンセプトを設け、インストの作品や歌入りの作品など、ピントの定まったアルバムをドロップし続けているのだ。最新作は14年にリリースされた『Acoustic Classics』で、タイトル通り過去の名曲をアコースティック・サウンドで再現している。その前のアルバムが『Electric』というタイトルだったことを考えると、決して思いつきでアルバムを制作しているのではなく、彼なりのコンセプトにしたがって作品を生み続けていることがわかる。
果たして今回のライヴ、近年はソロで来日することが多かったからか、リズム隊とのコンビネーションが楽曲をとてもダイナミックにしているように感じる。もちろん、リチャードが連れてくるメンバーのこと、テクニック的には何の問題もない。地味渋ながら滋味溢れるリチャードの歌も、雨がそぼ降る夜の冷え切った身体にじんわりと染み込んでいく。
トラディショナル・ミュージックとポップ・ミュージックの境界線をひたすら突き進む彼の音楽観は、やはり生まれ育った土地に対する愛着と感謝の念が表出されたものと捉えて間違いないだろう。生まれた土地をこよなく愛し、そこでの移ろう季節や時代、日々の生活で交わす人々との会話の中から音楽が生まれていく。まさにリアルな音楽だ。
ギターに関してはアコースティック、エレクトリック共に駆使するリチャードだが、今回のライヴは新旧の曲を取り混ぜたリチャードの“名曲選”といった趣。冒頭からエレクトリック・ギターで飛ばし、ソロもたっぷりとフィーチャーして聴き手を釘付けにしたあと、途中には繊細なアコースティックの曲を挟み込み、演奏にメリハリをつけた構成に。あまりMCも入れず、次々と繰り出してくる楽曲の素晴らしさ。本当の意味での“ミュージシャンズ・ミュージシャン”であることが如実に伝わってくるライヴを僕は何度も観ているはずなのに、また意識を新たにし、とても感激した。
何の演出もなく、ある意味淡々と演奏を披露していく。これは簡単なようだが、実はかなりのスキルがなければ成立しないライヴだ。2人のリズム隊(1曲だけローディがギターを弾いて3人に)もリチャードの音楽をディープに理解し、着実で素晴らしいサポートを展開し、サウンド全体に立体感と躍動感を生んでいた。今宵はリチャードのピュアなギター・サウンドを真正面からじっくりと受け止め、彼の演奏を満喫することができた。
暦の上では春を迎えたとは言え、まだまだ寒さが身体に染みる日もある。こんなときだからこそ、ヨーロッパの北に位置し、厳しい冬を過ごす英国の荘厳で優しく、温もりを感じさせるライヴに繰り出すのも一興。とにかく、まずは体験してみて! 幸運なことにライヴはまだ、27日が残されている。きっと、とりこになること間違いないから。
TEXT:安斎明定(あんざい・あきさだ)編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。春までにはもう少しのこの時期、熟成したモンドール・チーズと共に、フランス・ブルゴーニュのピノ・ノワールで作る赤ワイン、ジュブレ・シャンベルタンの複雑な味わいが、心をふくよかにしてくれる。少し贅沢をして、いかが?
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