笹久保伸+藤倉大『マナヤチャナ』一度も会わず、心の赴くまま、綿密に折り重ねられた新しいギターの響き

2014年10月23日 / 15:23

 ペルーでアンデス音楽を研究、現在は「秩父前衛派」を名乗り様々なジャンルで活躍するギタリスト、アーティストの笹久保伸。15歳で単身英国へ渡り、現在若手作曲家の旗手として世界中で注目される藤倉大。一度も会ったことのない2人がFacebookのメッセージでやりとりを始め、二人の「作りたい」という気持ちの赴くまま、わずか1ヶ月程で作り上げた異色のコラボレーション・アルバム『Manayachana マナヤチャナ』がリリースされた。タイトルはペルー語で「未知のもの」という意味。付属のブックレットも、2人のチャット対談を収録したものとなっている。

 笹久保が秩父で紡ぎ出した膨大な音のサンプルをロンドンの藤倉が細かくバラバラにし、その音素材だけを使い加工や再構築に没頭した。「笹久保くんは、沢山の素材をひとつに凝縮して作るタイプだと思うんだけど、僕の場合はなるべく少ない素材、1秒や2秒の波形から、どれだけ加工して沢山の音を作って集めて、曲にできるか、に興味があるんです」という藤倉は、最初笹久保から送られてきた音素材は、実に8時間を越える長さだったが、わざと最初の2つのトラックしか聴かずに素材を取り出したという。

 「ひとつのフレーズの中に、僕が何日間もかけて録音した音が入っているんです。調弦も違っていましたし、調律も自由だし、楽器もクラシックギターだけじゃなくて12弦ギター、エレキギターとか色々なものを使っています」と笹久保。弾くだけでなく、金属のピンで楽器をプリペアドするなど、自由に発想した音素材も混じっている。藤倉はそのプロセスを知ることなく音を聴き、加工・ループして、本人が弾いていない曲を作っていったという。一方で藤倉が手がけたプロセスを全く見ていない笹久保は、最初に送られてきた音源を聴き「これ、僕じゃないですよね?」「リズムトラックは誰が弾いているんですか?」と言う程の変容振りだったという。

 加工に次ぐ加工を極めた音源だが、元の素材はあくまで『笹久保伸のギター』だけだ。笹久保の音を聴き、合う加工を発想する。そのプロセスを経て藤倉が作った音源に、笹久保が更に即興で音をのせ、トラックを送り返し、それを藤倉が加工する。このやりとりを何度か繰り返して音楽が作られていったという。「素材の音を聴いて『この考え方でいける』ピンときていました。素材が誘ってくれましたね。同じ人が鳴らしている音の加工だから、物理的に絶対にハーモニクスは合うと思って作っていって、やっぱり合ったな、と。でも、もう一回作ってって言われても同じモノは作れないと思う」と藤倉。

 10月10日タワーレコード渋谷店のインストアライブにて行われた『マナヤチャナ』世界初演は、笹久保はもちろんのこと作曲家である藤倉もピアノとキーボードで登場し、ファンには貴重な時間となった。「このCDの曲をライブでやる日が来ると思ってなかったので…大変でした(笑)」という笹久保に、「実は計画的にギターソロ部分とバッキングトラックを最初から分けて作ってました。きっとライブすることになると思って」と藤倉。秩父とロンドンの間で、録音リハーサルを重ねて迎えた「初めての本番」は、時空を飛び越えた創作活動が遂に出会った新鮮さと、録音とは違うインスタレーションとしてのパフォーマンス的魅力に満ちたものになった。

 本作は今話題のハイレゾ配信にも対応している。作曲だけでなくマスタリングまでを担当した藤倉曰く、「この作品は24bit/96kHzで作りましたので、ハイレゾでは僕たちが製作したのとまったく同じ環境で聴くことになります。ものすごく細かくこだわったところが聴こえてくると思います」。世界に先駆けての国内盤先行リリースと国内配信はソニーから、日本以外の配信リリースは藤倉大の自主レーベル“Minabel Records”から配信される。text:yokano

◎リリース情報
笹久保伸+藤倉大『マナヤチャナ』
2014/09/17 RELEASE
SICC-30176 2,808円(tax in.)


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