<ライブレポート>エルスウェア紀行 ジャンルレスに音の旅路へ誘う【tour "strange town" 2025-2026】ファイナル

2026年2月24日 / 18:00

 エルスウェア紀行として2度目の全国ツアー【tour “strange town” 2025-2026】。東京・恵比寿公演を皮切りに、大阪、愛知、メンバーの地元である栃木公演を経て、バンド史上最大キャパシティの会場となる東京・日本橋三井ホールで最終日を迎えた。

 本ツアーは、アコースティックバンド編成の“微光奏(びこうそう)”にて4公演を回り、ファイナル公演はフルバンド編成の“遠景奏(えんけいそう)”をメインに開催された。各都市でコンパクトな編成にて楽曲の本質を繊細に表現し、それを経て迎えた初のホール公演。前身バンド・ヒナタとアシュリー時代から続く10年間の歩みと変遷で物語を構築する、非常に豊かな音楽空間だった。

 ステージにはアーチ状に白幕が下がり、様々なフロアライトや外灯、観葉植物、机と椅子、窓などが配置されている。薄暗い間接照明が灯るなか安納想(Vo./Gt.)とトヨシ(Dr./Gt. /Cho)が中央のベンチに腰掛けると、2人編成で新曲「温度と一部」でこの日の幕を開けた。トヨシの前のめりなカッティングは走り出すような高揚感を掻き立てると同時に、アコースティックのミニマルな音色は自分の内面に潜るような感覚にも陥る。室内と屋外が混在するステージも相まって、様々な隔たりはたちまち曖昧になっていった。

 sugarbeans(Pf.)が加わり3人編成で昨年の渋谷CLUB QUATTROでの単独公演で初披露した「さよならに」を届け、安納がエレアコを持ちさらに音を厚くして「キリミ」をユーモラスかつエッジーにプレイすると、安納は2人組だからこそアコースティックという形態を大切にしてきたこと、アコースティック編成ではより小さな心の機微や普段あまり見たくないものにも向き合っていける表現を目指していること、今回のツアーで得たものをファイナルで共有したいという思いから微光奏でライブをスタートさせたことを明かす。さらに会場や土地によって心持ちが変わることへの面白みを語り、今後のツアーへの前向きな姿勢を見せた。

 そして「リリースしていいものかと悩んだほどに救いがない曲が、新しく踏み出していく曲になった」「終わりから始まるストレンジの街に皆さんをお連れしたいと思います」と続け、「ひかりの国」で微光奏のセクションを締めくくる。ささやかな炎を彷彿とさせるやわらかいギターの音色と、感傷の涙が声に姿を変えたような情感豊かなボーカルは、絶望の淵で見える微かな希望や、それを信じようとする確かなエネルギーを帯びる。様々な感情が乱反射するアウトロは、観客の心を大きく揺さぶった。

 アウトロからシームレスにインタールードへつなぎ、3人はステージを後にする。踏切のサイレンと星空を彷彿とさせる幻想的なインストが混ざり合い、ステージもセットチェンジによりスケールを大きくする。すると“夢幻飛行社”を名乗る者のナレーションが流れた。「エルスウェア紀行がお送りする音楽の旅」「それでは皆様、気を付けていってらっしゃいませ」という台詞の後から音の迫力は増し、ステージにフルバンドセットの計5人が揃うと「ムーンドライバー」でおもむろに遠景奏の1ページをめくった。

 エルスウェア紀行の音楽は、ブラックミュージック、プログレ、オルタナ、ジャズ、ロック、ニューミュージック、シティポップなど、様々なジャンルを内包している。そしてメロディもナチュラルな質感でありながら独特で、仄暗さもあればあたたかみもあり、掴みどころがないのにポップネスを持ち合わせているという、非常に稀有なバンドである。突飛なアイデアを理知的に構築する、いわゆる魔改造に長けているトヨシと、感性を歌と言語で表現することに長けた安納。2人の純粋な表現欲求の根幹が重なり、エルスウェア紀行の音楽は立体的になる。そして我々はふたりの作り出す宇宙へと自由に飛び込んで、安心して身を委ねることができるのだ。

 qurosawa(Gt.)のギターを筆頭にさらにバンドのグルーヴが熱を帯びた「少し泣く」では、夢と言うには生々しく、現実と言うにはロマンチックなサウンドが会場を瑞々しく染め上げ、メンバー紹介を挟んでつないだ「鬱夢くたしかな食感」では華やかな照明と連動しながら迫力ある演奏を繰り広げる。5人が演奏を心から楽しんでいることが音の隅々から伝わり、その純度の高さは観客の衝動性を刺激すると同時に、音の渦に巻き込むような没入感も生み出した。

 トヨシは安納と音楽活動を始めて10年になる旨を語り、史上最大規模のワンマンができること、ツアーが全公演ソールドアウトしたことへの喜びをあらわにする。安納は「10年前からは想像していなかった音楽をしている」「ちょっとずつの変化だと、なかなか変わっていることには気づかない」と振り返り、「“どこでもない場所を旅する記録”というバンド名どおり、音楽で自分たちの人生を記録している感覚があります。これからもちょっとずつ変わっていきながら、みんなと一緒にまだ見ぬ場所へ行けたらいいなと思います」と呼びかけた。

 心に秘めた本音を丁寧に差し出す「素直」の後、ワープを想起させる効果音を挟んで潤いを帯びた安納のボーカルとメロディが浮遊感を織りなす「無添加」へ移ると、ピアノの導入から「マイ・ストレンジ・タウン」へつなぐ。たおやかな音色を千ヶ崎学(Ba.)のアップライトベースが引き立てて夢見心地にいざなったところで、よりディープな世界へと引き込んだ。暗くなったステージに宇宙空間を想起させる打ち込みのインタールードと安納のポエトリーリーディングが響き、明転するとステージの前方には安納とギターを持ったトヨシが腰掛けている。そして微光奏と遠景奏の狭間のような編成で「天国暮らし」を披露した。歌詞にしたためられた切ない感情とアコースティック色に富んだあたたかい音色は観客を内観的な世界へといざない、「光の位相」「問題のない朝」は安納とトヨシの2人編成で届ける。以前より安納が話していたように、微光奏と遠景奏はエルスウェア紀行のふたつの心臓であり、このふたつは別軸ではなく共に支え合っていることを実感するセクションだった。

 微かな光が消えると、また新しい芽吹きが起こる。トヨシのドラムソロが会場を沸かすと、それを追い風に「天才は今度」「あなたを踊らせたい」と鮮やかな景色が展開し、「ロマンチックサーモス」では安納が腕を広げて歌う姿に目を奪われる。こちらの手を取りダンスをするような溌溂とした優雅さがステージから溢れていた。

 波の音のSEから前名義時代の楽曲「まなざしはブルー」、激情的なサウンドと歌謡曲風のメロディがスリリングに絡み合う「冷凍ビジョン」と異なる情景で観客を沸かすと、安納は「わたしたちは音楽で伝えたいことはあんまりないけれど、音楽は“自分たちにもできることがあるんじゃないか”と思えるもの」「そう思えるのは皆さんのおかげでもあるし、自分の抱えた寂しさ、苦しさ、悲しさのおかげでもある気がする」と打ち明ける。そして観客に「(それぞれの抱える)重りのおかげでできることが、きっと一人ひとりにあるんじゃないかと思う」と告げ、「とわの祭り」と1曲目に2人編成で披露した「温度と一部」で包み込むように、かつ晴れやかに本編を締めくくった。

 「ベッドサイドリップ」の壮大なバンドサウンドでアンコールをスタートさせると、ふたりはメジャー1stデジタルシングル「のびやかに地獄へ」を日付が変わった0時にリリースすること、9月13日にEX THEATER ROPPONGIにて【夢幻飛行2026】を開催することを発表した。安納も「臆病なわたしたちが、皆さんから勇気をもらって前に進んでいこうと思えたので、みんなで一緒に向かっていけたらと思います」と話し、トヨシは「この10年間、もともと少しずつ変わっていっているバンドなのでこれまでどおり変わり続けたいし、今後まだまだいろいろなお知らせがあるので……ついてこいよ!」と笑顔を見せた。

 そして「のびやかに地獄へ」でツアーを締めくくった。同曲には「苦しいことがたくさんある世の中で、どうせ地獄が存在するのなら、のびやかにいこうではないか」という思いが込められているという。たくましさと優美さを兼ね備えたポップナンバーは、新しい日々への希望を煽る次回予告のように響く。そしてこの潔い言葉と凛とした音色は、今後ふたりの人生のなかで様々な彩りをもたらすことを予感させた。10年間の活動で育んだふたつの心臓を携えたツアーファイナルで、新たな季節の訪れを表明したエルスウェア紀行。ふたりが築くストレンジ・タウンは、この先も美しい発展を遂げるだろう。

Text by 沖さやこ
Photo by 髙野立伎

◎公演情報
【tour “strange town” 2025-2026】
2026年2月7日(土)東京・日本橋三井ホール


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