<ライブレポート>ベボベ小出祐介率いるバンドmaterial club、ハプニングさえ楽しみながら響かせた会心のアンサンブル

2025年12月11日 / 18:00

 Base Ball Bearの小出祐介が主宰するバンドmaterial clubが、11月26日、ビルボードライブ東京にてワンマンライブ【物質的 Ⅲ】を開催した。material clubは、小出のソロプロジェクト「マテリアルクラブ」として2018年に活動をスタート。当初はDTMをメインとした制作スタイルのプロジェクトだったが、2024年に「material club」と表記を変更。バンド形態となって再始動した。今回のビルボードライブ公演で、通算5回目のライブになるという。この日、小出と共にステージに立ったのは、マテリアルクラブ時代からの制作パートナーであるaccobinこと 福岡晃子、パスピエでも活動する成田ハネダ 、元CHAIのメンバーであり、羊文学やHomecomingsなど様々なサポートでも活躍するYUNA。今年発表されたアルバム『material club Ⅱ』を共に作り上げた面々である。本来は、同じくアルバムに参加している、tricotのメンバーでもあるキダ モティフォも参加予定だったのだが、この日は体調不良のため出演見合わせとなった。

 1日2ステージ制で開催されたこの日のライブ。私が観たのは1stステージ。客席から見てステージ左から、成田、小出、福岡、YUNA、と、ほぼ横並びになるようにポジションにセッティングされている。成田は終始グランドピアノを奏で、小出も持ち変えることなく全曲でアコースティックギターを奏でた。ライブの幕開けを飾った1曲目は「New Blues」。物語の始まりに相応しい成田の美しいピアノで演奏はスタート。福岡とYUNAのリズムセクションは力強く逞しく、成田のピアノはアンサンブルの中を悠々と泳ぐように奏でられ、間奏では、小出のアコギも凛凛と響き渡る。さらに、小出の情感豊かな歌で始まる「まだ全然好き」、ドラムとピアノの端正な絡み合いに始まり、曲が進むに従いぐんぐんとアンサンブルが疾走感を増しながら熱気を生み出していく「恋の綾」と、曲を立て続けに披露する。一気に抱き合うのでも、かしこまって遠目から見つめ合っているのでもなく、ビルボードライブという空間と、そこにいる観客たち、そしてmaterial clubというバンドが、じわじわとお互いのコミュニケーションを深めていくようにライブは進んでいく。

 最初のMCでは、小出が成田を指して「ここまでの3曲、リハーサルでやっていないことをずっとやってますよね?」と詰め寄る(?)場面も。福岡も「めっちゃ怖いよな。『変な拍で入ってくるやん!』と思って」と笑いながら言う。リハーサルを観ていないのでどれほどの変化が生まれているのかはわからないが、よっぽど成田は自由奔放に演奏を楽しみながら、その瞬間瞬間にアンサンブルの中で巻き起こるハプニングを楽しんでいるのだろう。そんな成田の演奏に対して、小出は「いいんです。それでいいんです」と言ってのける。このちょっとの言葉のやり取りで、material clubが一体どんなバンドなのかが伝わってくる。彼らは「出会い」を爽やかに楽しんでいるバンドなのだ。メンバー一人ひとりが名の知れたバンドマンでありながら、「スーパーバンド」というよりは、無邪気な瑞々しさを感じさせる佇まい。リハと本番での変化など、一見観客に伝わり難い化学反応をバンド内で楽しみながら、その演奏は一切内に籠って閉じてはいない、むしろ世界に向けて「どうも、material clubです!」と自己紹介し続けているような開かれた感覚がある。きっと、小出をはじめメンバー一人ひとりのオープンマインドな姿勢が、material clubを実験的でありながらもポップなバンドにしているのだ。そんな彼らの姿に「バンド」という表現のマジカルな本質を見るような気持ちにもなる。バンドとはきっと「俺とあんたは違う人間だ!」という現実を前にして、ゲラゲラと笑ってしまうような、そんな素敵なものなのだ。

 演奏は続き、「Twilight Dance」は福岡の笛演奏まで飛び出す、サンバのようなダンサブルなアレンジで披露される。その華やかな演奏で、会場の空気がどんどんと解放的になっていくのを感じる。「Twilight Dance」の後、どうやらピアノに不調が見られたようだが、「そのままやってみようか」とバンドは小出のラップと福岡の歌が生き生きと響く「Nicogoly」を披露する。その後、冒頭からYUNAが鳴らす鈴の音と成田のピアノが叙情的な世界観を生み出す「告白の夜」へ。会場を彩る照明も、まるで星々が煌めく夜空のようで美しい。ビルボードライブではお馴染みの演出である、ステージ背後のカーテンオープンは、「Curtain Part.2」の演奏中に行われるという粋っぷり。本編のラストに披露された、小沢健二「天使たちのシーン」を思わせる10分を超える名曲「Altitude」の最後で「閉めた男 feat. 吉田靖直 (トリプルファイヤー)」の「カーテン閉まったぞ」という音声をサンプラーで流す、と同時に会場のカーテンも閉まる、という演出も見事だった。無邪気で、人間味にあふれながら、洒落ていて、ユーモラス。そして、遊び心の奥から音楽への祈りのようなものが立ち上がってくる。これこそ、material clubの空気感なのだろう。

 アンコールでは、本編3曲目で披露された「恋の綾」を再び披露。しかし、アレンジは本編と異なり、アンコールでは小出の先導によって観客たちのハンドクラップも鳴り響き渡る、一体感のある盛大な締め括りとなった。material clubの今後について、「先のことは未定」と小出は言っていた。小出曰く「システム外のバンド」であるmaterial clubが切り拓く景色は、きっとバンド音楽の新しい可能性になるだろう。この絶妙な温度感を保ちながら、未来を見せてほしい。

Text:天野史彬
Photo:高田梓

◎セットリスト
【material club「物質的Ⅲ」at Billboard Live TOKYO】
1. New Blues
2. まだ全然好き
3. 恋の綾
4. Twilight Dance
5. Nicogoly
6. 告白の夜
7. Beautiful Lemonade
8. Curtain part.2
9. Naigorithm
10. 水のロック
11. Altitude~閉めた男
12. 恋の綾

◎リリース情報
小出祐介/Base Ball Bear
ミニアルバム『Lyrical Tattoo』
2026/1/28 RELEASE

成田ハネダ/パスピエ
アルバム『IMI』
2026/2/25 RELEASE

◎公演情報
福岡晃子/accobin
【Wear the Particles – accobin × afterclap –】
2025年12月27日(土)徳島・SEIDO MART

小出祐介/Base Ball Bear
【Base Ball Bear Tour「Lyrical Tattoo」】
2026年2月15日(日)愛知・BOTTOM LINE
2026年2月27日(金)大阪・BIG CAT
2026年3月19日(木)東京・Zepp DiverCity(TOKYO)
2026年5月15日(金)宮城・仙台darwin
2026年5月16日(土)新潟・GOLDEN PIGS RED
2026年5月28日(木)千葉・千葉LOOK
2026年6月4日(木)京都・磔磔
2026年6月6日(土)岡山・IMAGE
2026年6月7日(日)愛媛・松山Double-u Studio
2026年6月19日(金)石川・金沢AZ
2026年6月20日(土)長野・ライブハウスJ
2026年7月3日(金)北海道・BESSIE HALL
2026年7月5日(日)青森・青森Quarter
2026年7月10日(金)福岡・DRUM Be-1
2026年7月11日(土)熊本・熊本 B.9 V2

成田ハネダ/パスピエ
【PSPE 2026 TOUR「意味新」】
2026年3月7日(土)神奈川県 ・ReNY beta
2026年3月14日(土)宮城・MACANA
2026年3月20日(金・祝)福岡・INSA
2026年3月28日(土)大阪・Music Club JANUS
2026年3月29日(日)愛知・NAGOYA JAMMIN’
2026年4月12日(日)東京・HULIC HALL TOKYO

キダ モティフォ/tricot
【tricot Billboard Live “Room service”】
2026年2月21日(土)東京・ビルボードライブ東京


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