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ここ数年、ターンスタイルの人気は爆発的に拡大しており、ツアー各地ではアリーナクラスの会場を満員にする勢いを見せている。そんな彼らが現地時間2025年10月10日、米カリフォルニア州サンディエゴのギャラガースクエアに登場した。この会場はメジャーリーグ球場「ペトコ・パーク」に隣接する屋外特設ステージで、芝生エリアに広がる観客がまるでフェスのような一体感を作り出す。夕暮れから夜へと移ろう時間の中で、ターンスタイルは最新ツアー【Never Enough Tour】の一夜を、歓喜と熱狂に満ちたエネルギーで染め上げた。
この日の幕開けを飾ったのは、若きオルタナティブ・シンガー、ジェーン・リムーバー。アンビエントな電子音とかすかに滲むノイズの質感、そして内省的でありながら芯のある歌声が、ゆるやかに会場を包み込む。彼女の声とステージパフォーマンスはまさに唯一無二で、儚さと力強さが同居するその佇まいに、観客は息をのんだ。照明が淡いブルーからピンクへと変わるたび、彼女は静かに身体を揺らしながら、感情の起伏を繊細に表現していく。ミニマルなシルエットのトップスにゆったりとしたボトムスを合わせ、シルバーのアクセサリーがステージの光を柔らかく反射。そのスタイルは音と完全に調和し、静かな存在感の中に強烈な個性を放っていた。夕暮れに溶け込むようなパフォーマンスは、観客のざわめきを静かに鎮め、これから始まる夜の熱狂への“溜め”をつくり出していた。
続いて登場したのは、オーストラリア・シドニー出身のハードコア・バンド、SPEED。一音鳴らした瞬間に空気が変わる。鋭利なリフと爆発的なシャウトが観客の身体を直撃し、フロントエリアでは自然とサークルピットが巻き起こる。フロントマンのジェムは曲間で「こんな大きな会場のステージに立たせてくれたターンスタイルに感謝している」と語り、その言葉に大きな歓声と拍手が沸いた。その一瞬には、ツアー全体を貫く仲間意識とハードコア・スピリットが凝縮されていた。
そして3組目に登場したアミル・アンド・ザ・スニッファーズが放ったエネルギーは、完全にステージの空気を爆発させた。エイミー・テイラー(Vo.)は、まるで稲妻のようにステージを駆け回り、鋭いシャウトと瞬発的な身振りで観客を圧倒。荒々しいパンクスピリットとキュートなカリスマ性が完璧に共存していた。衣装はシルバーのスパンコールが輝くクロップトップにショートパンツという挑発的なスタイル。照明を浴びるたびにラメが反射し、エイミー自身がステージライトの一部のように眩しく輝いた。観客の拳がリズムに合わせて何百も突き上がり、フロア全体がひとつの渦になる。その爆発的なエネルギーと無防備なまでのパッションが、次に登場するターンスタイルへの導火線として完璧な役割を果たしていた。
会場が暗転し、歓声が地鳴りのように広がる中、ステージ後方のバックスクリーンが光を放つ。メンバーが姿を現すと、頭上のミラーボールが回転し始め、無数の光が夜空に散った。オープニングは「NEVER ENOUGH」。イントロが鳴り響いた瞬間、芝生のフロアが波のように跳ね上がり、歓声が爆発する。ブレンダン・イェーツ(Vo.)はステージ前方へ飛び出し、シャウトしながら全身でリズムを刻む。彼のパフォーマンスはアスリートのような瞬発力とダンサーのような柔軟さを併せ持ち、一音一音が身体の動きに変換されているかのようだった。ステージ中央でマイクを振り抜く姿は、まさに衝動そのものの具現化だった。
この日の観客には、ドラマーのダニエル・ファンのファッションや髪型を真似たファンが多く見られた。短く整えられたブリーチヘアにタンクトップ、ワークパンツというスタイルは、いまやターンスタイルを象徴するアイコンのひとつ。さらに会場にはターンスタイルのバンドTシャツを着た観客が圧倒的に多く、黒地にロゴが浮かぶシャツがライトに照らされるたび、一面が“ターンスタイルの海”となった。小学生以下のキッズたちも親と一緒に最前付近で楽しそうに踊り、世代や国籍を超えて共有される音楽のエネルギーが空間を満たしていた。
「T.L.C. (TURNSTILE LOVE CONNECTION)」「ENDLESS」「I CARE / DULL」「DON’T PLAY」と続く前半は、ハードコアの衝動とポップの軽やかさが融合したターンスタイルの真骨頂。パット・マクローリー(Gt.)は、刃のように鋭いリフから、空間を漂うようなクリーントーンのアルペジオまで自在に操る。その指先のニュアンスは繊細で、楽曲の勢いの中にも美しさを生み出す。彼のギターはターンスタイルのサウンドに「熱」だけでなく「光」をもたらしていた。
新メンバーとして加入したメグ・ミルズは、ギターとコーラスでバンドの新たな層を築いていた。彼女のリズムギターはパットのリードと完璧に絡み合い、サウンドに立体的な厚みを加える。ステージでは淡い笑顔を浮かべながら、正確なタイム感でリズムを刻み続ける姿が印象的だった。メグの存在によって、ターンスタイルのライブはより開放的でカラフルになった。
ベーシストのフランツ・ライオンズは、ステージ上で最も自由に動き回る存在だ。身体全体でグルーヴを刻み、コーラスではブレンダンの声に熱と厚みを加える。彼のベースラインは、ハードコアの硬質さとソウルの柔らかさを併せ持ち、楽曲に人間味と温度を与える。観客に手を伸ばし、笑顔でアイコンタクトを交わすその姿に、ターンスタイルというバンドの“根源的なポジティブさ”が宿っていた。
そしてダニエルは、バンドの心臓でありエンジンだ。鋭いショットの中に繊細な「間」を生み出すプレイは、テクニカルでありながら感情的。タムとスネアの音が呼吸するように交互に響き、フロア全体を脈動させる。その正確無比なリズムが、ターンスタイルの“疾走と静寂の狭間”を自在に操っていた。
中盤の「Real Thing」や「Drop」「LIGHT DESIGN」「Come Back For More / Fazed Out」では、バックスクリーンに観客の姿がリアルタイムで映し出され、音と映像が呼応するように空間全体が揺れる。観客の笑顔やモッシュの動きが光の粒と共に投影され、ターンスタイルという“コミュニティ”が可視化されるような瞬間だった。
ライブのハイライトのひとつが「ALIEN LOVE CALL」(ブラッド・オレンジとのコラボ曲)。イントロとともに照明が落ち、ミラーボールが静かに回転を始める。銀色の光が会場全体を包み込み、フロアに反射する無数の輝きが観客一人ひとりを照らす。音と光と身体が完全に一体となり、観客の姿が再びスクリーンに映るその瞬間、ターンスタイルは“観客を含めたひとつのバンド” としてステージを完成させていた。
演奏が終わると同時に、メンバーは静かにステージを去り、余韻だけが夜の空気に残る。暗闇の中、ギターのイントロが鳴る。アンコールの幕開けは「MYSTERY」。観客が一斉に声を上げ、ステージが再び光に包まれる。ブレンダンがマイクを客席に向けると、フロア全体が大合唱に変わり、「BLACKOUT」「BIRDS」と続くラスト3曲で、会場は完全な熱狂の渦に包まれた。最後の瞬間、バンドも観客も笑顔のまま、同じリズムで身体を揺らしていた。
ターンスタイルはこの夜、ハードコアという言葉の意味を根底から塗り替えた。そこにあったのは暴力性ではなく、解放。破壊ではなく、共鳴。音楽を通して人々が一体になる“祝祭”のような瞬間だった。汗と光と声が交わるその空間に、彼らの現在地と未来が確かに刻まれていた。
Text & Photos by Erina Uemura
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