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清水翔太が、6月から全国を巡ってきたツアー【ゲルぴよ presents SHOTA SHIMIZU LIVE TOUR 2025 ‘Pulsatilla cernua’】のファイナル公演を9月22日、大阪・大阪城ホールで開催した。MCで「新しいアルバムの世界観を余すことなく表現したい」と語った通り、今年6月にリリースした最新アルバム『Pulsatilla cernua』の収録曲を(ラストのインスト曲「Epilogue」まで含めて)すべて網羅。人気曲やライブ定番曲を織り交ぜたジェットコースターのような緩急の構成で魅了し、さらにサービスとして持ち歌を即興でパフォーマンスするなど、地元の大阪に集まってくれた観客に向けて翔太の心尽くしが隅々まで行き届いた一夜だった。
会場が薄明るい中、オープニング・アクトとして登場したのは女性シンガーのLALA。2曲を披露した後、翔太本人の姿はないまま、〈ただいま/おかえり/ご主人様のお帰り〉という歌い出しで始まる「FLY」がプロローグ的に流れ、客席からは“おかえり”の大合唱が湧き上がった。同会場では6年ぶりのライブとなった大阪城ホールを埋め尽くしたオーディエンスの気合いは十分、本編に向けて準備万全だ。
「FLY」が1コーラス流れたあと場内が暗転し、自然風景を映したモノクロームの映像がスクリーンに投影される。次第に色づいていくその風景。太陽は紅炎を上げ、火山は脈打つように熔岩を吹き出し、アルバムタイトルになったプルサティラ・セルヌア(オキナグサ)の花も生命を宿すような赤いフィルターで染め上げられ、観客をアルバムの世界へと引き込んでいく。
続いて不穏でダークな重低音が響き、本編はアルバム1曲目「Bad Karma」からスタートした。重厚なビートに合わせてステージにはスモークが広がり、深紅に染まったスクリーンには燃焼によって発生するような煙がゆらゆらと立ち上がる。迫力のサウンドも相まって、神秘的な雰囲気の中でエネルギッシュなパフォーマンスを繰り出す翔太の姿は、まるでUSのラップスター。ラップにはやり場のない苛立ちを爆発させるかのような感情がほとばしり、場内の温度と観客の胸を同時に熱くさせていく。
冒頭からハイライト級のステージを見せたあとは、「大阪! Are you ready!?」というシャウトを合図にヒップホップセクションへ突入。「Friday」「Good Life」「FIRE」「Fallin」といった近年の人気曲を1コーラスずつメドレーにして矢継ぎ早に披露し、観客のテンションを一気に引き上げていく。続く「Syrup」は、カップルの日常にありふれた、ありきたりの葛藤を描いた微笑ましいラブソング。バンドアレンジによってハネ感が増していて、楽曲がよりチャーミングに輝いていた。
この日、最初のMCでは「ただいま!」と大きく挨拶し、昨年春に地元・大阪へ活動拠点を移したことを改めて報告。「今日は声の調子がいいし、ツアーラストやし、最高の歌を届けたい」と意気込みを語り、「ひこうき雲」(荒井由実のカバー)、「KAGEROU」「恋唄」のバラードセクションへと移った。MCで「声の調子がいい」と話していた通り、このバラード群での歌唱は筆舌に尽くしがたいほどの素晴らしさ。高音は美しく伸びやかで、ファルセットも抜群の透明感。バラードが作り出す緊張感が場内を引き締める中、翔太の神懸かったような瑞々しい歌声が大きな会場の隅々までクリアに響き渡っていた。
バンドメンバーやダンサーの紹介を挟み、中盤は再びアップテンポなセクションへ。ピンクとグリーンの照明に照らされた「踊り続けよう」では、力強いバウンシーなビートとドロップ部分で迫力と厚みを増す演奏が場内の一体感を高めていく。続く最新アルバムからの「Sick of u」と「ないものねだり」では照明が淡いマゼンタ色に代わり、楽曲に佇むラブリーな雰囲気を抽出した演出で魅せていく。
演奏後、拍手と歓声に沸く客席に向けて「俺ね、本当にうれしい」と発し、「自分の城ホール公演でこんなに盛り上がってるのマジうれしい。ありがとう。やばい」と喜びを爆発させる。そして何かサービスしたいということで「最近外に出てびっくりするよね。涼しいどころか寒いもん。もう夏も終わりか……」と話し出し、「ナツノオワリ」をギターとドラムのアコースティック編成で披露。翔太の手厚いおもてなしに応えるように観客が大きな手拍子と合いの手のコーラスを入れ、ステージとの距離がどんどん近くなっていく。
嬉しいサービスで盛り上がったところで、今年前半に大きなバズを生んだヒット曲「PUZZLE」へ。同曲のMVに出演していたメンバーから少し顔ぶれを変えた、CALESS ENTERTAINMENT LABOの生徒たち総勢47名がステージに迎え入れられた。この日初めてソロパートを担当するメンバーもいたが、地元での大舞台とあって生徒たちは士気旺盛。特に後半の盛り上がっていくパートでは熱のこもったパワフルなゴスペルコーラスを披露し、客席から盛大な拍手が送られた。また、今回のツアーには「PUZZLE」に参加している生徒たちから選抜されたメンバーが数公演参加していたのだが、この日はオープニング・アクトも務めたLALAとKURO、Nozomiをステージに残し、翔太を加えた4人で加藤ミリヤ「今夜はブギー・バック feat. 清水翔太&SHUN」をカバー。スクール生とは思えない堂々としたステージングで観客を沸かせた。
ライブはクライマックスへ向かう。まずは自身の人気曲「milk tea」の令和版とも言えるアコースティック・ソウル曲「tomato」を、ステージ前方に腰掛けてやさしく語りかけるように歌唱。その柔らかな雰囲気から一転、次は超シリアスな「DON’T FORGET MY NAME」へ。辛い記憶を乗り越え、孤独を抱えながら旅を続ける決意を赤裸々に刻んだこの曲の歌詞がリリックビデオのようにスクリーンへ投影される。翔太の一言一句を目でも耳でも逃さないよう、観客の集中力は一気に増加。翔太の思いに寄り添うように会場は観客の大合唱に包まれた。
少し張り詰めた空気を「まだまだやりたいんだけど、アンコールがありますんで(笑)」と冗談まじりにほぐした翔太は、本編ラストを前に自身の大きな転機について語った。20年近く過ごした東京を離れ、大阪に戻った再出発の決断。しかし、「何もない状態からのスタートにもかかわらず、地元の人々や環境の温かさに支えられている」と率直な思いを打ち明けた。そして「今がキャリアの中でいちばん、みんなのことを愛おしく思っているし、感謝と幸せでいっぱい」と語り、「その気持ちを伝えられる曲」として「Cherish」を披露。カントリー調の穏やかな曲調と夕陽のようなオレンジの照明が翔太の真心と相まって、センチメンタルで温かな空気がじんわりと広がる中で本編は幕を閉じた。
アンコールは「マダオワラナイ」からスタート。小気味よいグルーヴで一体となる中、銀テープも発射され、会場が熱気と多幸感に包まれていく。その後のMCでは、先ほど出演した「PUZZLE」メンバーのKUROが、ツアーの終わりを惜しんで舞台裏で涙をこぼしていたことに触れ、「でも、俺らのやってることに最初とか最後とかないから」と断言。続けて「いい音楽、いいライブ、いい仲間と過ごす時間、そうやっていいものを求め続けて頑張っていくだけ。それはみんなも一緒。人生ってそういうものだと思う」と語りかけた。そして「俺はまたここに必ず帰ってくるし、一生かけて俺はみんなに良い音楽を届けるように頑張るから、これからも応援してください」と伝え、デビュー曲「HOME」へ。ピアノを自ら弾きながら歌った「HOME」は、いつにも増して歌声が伸びやかで晴れやかで力強くて健やか。特に「HOME」という歌詞を3回繰り返すラストのフェイクは圧巻で、パフォーマンスには喜びと自信が満ちあふれていた。
この日、翔太がラスト曲に選んだのはおよそ10年前に発表された「シンガーソングライターの唄」だった。この曲を披露する前、翔太は子どもの頃の夢は“シンガー”だったという話から、デビューの頃と現在で音楽観の変化があると語り、だからこそ自分のことを“シンガー”ではなく“シンガーソングライター”と思ってもらいたいと観客に熱く伝えた。そのMCを要約すると、こんな感じだ。
「一昔前までは、みんなが好きそうな曲を作りますという感覚で作っていた。でも、ここ何年かの音楽は、自分の日記みたいなもの。自分が書きたいことを書き殴って、感情のままに音楽にしている。(その意識の変化に伴って)みんなと一緒に生きてるという感覚が強くなった。みんなのことを同じ時代を生きている仲間と思ってる。だから、俺はどんなに苦しんでも、どんなに傷ついても、どんなにボロボロになっても自分の人生を音楽に昇華して届ける。みんなの人生のBGMになれるような良い曲を作っていきたいし、俺のことを自分と一緒に生きてる人と思ってほしい。そんな自分のことを“シンガーソングライター”だと言ってもらいたいんだよね」
MCでも触れていたが、この日のライブは観客のレスポンスが素晴らしく、本当に会場がひとつとなって盛り上がっていた。翔太の胸中に自分を応援してくれるために集まってくれた人々への感謝が心からこみ上げてきたのだろう。「シンガーソングライターの唄」の最後は涙まじりの絶唱となり、それがまた観客の心を震わせ、お互いの絆が生みだす多幸感が会場を包み込んでライブは幕を閉じた。
最新アルバム『Pulsatilla cernua』は、パーソナルな出来事をきっかけに作られた、言わば自分本位な作品だ。最後に「シンガーソングライターの唄」を選んだのは、そのような作品を作ったわがままに対する言い訳かもしれないし、「そんなアルバムを聴かせちゃってごめんね」という翔太のやさしさのような気もする。
それともうひとつ。絶望から始まる『Pulsatilla cernua』は前半こそ重い空気が垂れ込めるが、最終的に希望へとたどり着く人間味あふれる作品だ。感情の揺らぎが丁寧に描かれているからこそ、曲調も多彩で描かれる感情には波がある。この日のライブも同様に、怒りや喜び、安らぎや思いやりといった様々な感情が交差し、US直系ヒップホップから和の情緒まで幅広い表現が融合していた。そこにいたのは、まさに「人間・清水翔太」。人間味に触れると、人はやさしくなれる。温かい気持ちになれる。
プルサティラ・セルヌアの花は下を向いて咲くのが特徴。けれど、この日、翔太が蒔いたプルサティラ・セルヌアの種は、集まった多くのオーディエンスの心に上向きの花を咲かせたことだろう。
Text:猪又孝
Photo:SHOTARO
◎公演情報
【ゲルぴよ presents SHOTA SHIMIZU LIVE TOUR 2025 ‘Pulsatilla cernua’】
2025年9月22日(月) 大阪・大阪城ホール
▼セットリスト
1. Bad Karma
2. Friday
3. Good Life
4. FIRE
5. Fallin
6. Syrup
7. ひこうき雲
8. KAGEROU
9. 恋唄
10. 踊り続けよう
11. Sick of u
12. ないものねだり
13. PUZZLE
14. 今夜はブギー・バック feat. 清水翔太&SHUN
15. tomato
16. DON’T FORGET MY NAME
17. Cherish
En1. マダオワラナイ
En2. HOME
En3. シンガーソングライターの唄
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