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〈灯油でぐるっと輪を描いて マッチを〉
歌詞カードには記されていない「先生」のラストヴァースを歌いながら、ステージ中央に立つアヴちゃんはマッチを擦る仕草を見せる。直後、スモークが焚かれると同時に、ステージ後方の映像やライティングで燃え盛る炎が表現され、次曲「強火」へと美しく、力強く橋渡しされる。タイミングや気配もコントロールした見事な展開と演出に、東京ガーデンシアターを埋めたオーディエンスは思わず息をのみ、刹那の静寂に包まれる。そこから少し遅れて、歓声にも悲鳴にも似た声が会場のあちこちから上がっていった。緊迫感と解放感が破綻なく融合しているのが女王蜂の魅力であるが、ライブ後半に差し掛かったタイミングで訪れたこの瞬間の高揚は、バンドがまたひとつ別次元へとステップアップしたことを証明するものだった。
アヴちゃん(Vo.)の約7か月間の休養を経て、今年1月に開催された【全国ホールツアー2025「狂詩曲~ギャル爆誕~」】からライブシーンに帰還した女王蜂。3月には9枚目のフルアルバム『悪』を、4月にはシングル『強火』をリリースし、5月~7月には【全国ツアー2025「悪」】を開催。8月からは、恒例となっている8月8日開催の【単独公演「蜂月蜂日~08~」】に加え、上海、香港、台北を巡る海外ツアー【QUEEN BEE TOUR 2025「AKU」】が予定されている。以前のペースを取り戻すかのようにアグレッシブな活動を見せる中、ツアーとは異なる独立した位置づけの大規模単独公演【強火】が開催された。
時を開演時に戻そう。最大キャパ8000人を数える会場内ではアリーナ席/バルコニー席を問わず、多くのジュリ扇がゆらゆらと揺らめいている。「天竺牡丹(ダリア)」と名付けられた限定カラーは、炎のような赤色。そして、オープニングに披露されたのは「油」。そう、この日のライブはタイトル通り「強火」、そこから転じて「炎」をコンセプトにしたもので、ひとりひとりの心を燃やす導火線代わりの仕掛け・伏線が用意周到に張り巡らされていた。後半の「先生」~「強火」の流れでそれが爆発、ピークを迎えるように構成されていたのである。
出演メンバーは、アヴちゃん、やしちゃん(Ba.)、ひばりくん(Gt.)に加え、ツアー【悪】と同じくみーちゃん(ながしまみのり/Key.)、山口美代子(Dr.)をサポートに迎えた5人。純白のドレスに紫の“血”が染められた衣装を纏うその姿は、気品だけでなく内に潜む情念を引き立てる。「油」のラストで「どうもこんばんは。女王蜂です」とアヴちゃんがシンプルに挨拶したあと、ひばりくんのシャープなギター・カッティングが空間を切り裂く「ヴィーナス」へ。さらに「ファウスト・改」へと、狂騒のダンス・チューンが立て続けに演奏される。シームレスな曲の繋ぎもあり、冒頭から否応なしに女王蜂の世界に引き込まれていく。
ドラマティックな「メフィスト」が挟まっても、「SAILOR」で少しテンポを落としても、アヴちゃんの気迫とスリリングなサウンドが強固に結びついているから、テンションはまったく下がらない。東京ガーデンシアターの心地の良い爆音、カラーの統一感を重視したライティング、そしてアヴちゃん直筆の絵画が映し出されていた後方の大型幕も、パフォーマンスへの没入度を飛躍的に高めるのに一役買っていた。
「首のない天使」「火炎」では、アヴちゃんのハイトーンが炸裂。「おままごと」「催眠術」などもそうだが、多彩なリズム、上下動の激しいメロディを歌いこなすボーカリストとしての才がこれでもかと発揮される。バックトラックの強靭なビートとバンドのグルーヴィな演奏がガッチリと組み合わさった「バイオレンス」は、前半のハイライト。オーディエンスとの心の共鳴を信じて歌声で大いに煽るアヴちゃんに合わせ、ジュリ扇もオーディエンスも激しく揺れる。
中盤に配置された「BL」では、前半は演奏陣のみで聴かせ、後半で「強火」のメインビジュアルで着用している衣装にチェンジしたアヴちゃんが合流。「山狩り」を挟んで鳴らされた「MYSTERIOUS」では、打って変わってアヴちゃんがソロで歌い、残りのメンバーが衣装をチェンジする。“お色直し”のこだわりは女王蜂ならではだが、徹底して間を空けない、ムードを壊さないことにも配慮されていて、今回の公演がいかに精密な設計の元に進められていたのかが窺えるシーンであった。
シリアスな空気を常に孕んでいたライブにあって、「超メモリアル (悪ver.)」は、アヴちゃんの中に宿されたギャル魂が大解放。華やかなダンスフロアを演出していた。かと思えば、「あややこやや」では大人の歪んだ欲を子どもの目線から描き、ダークなテイストに引き戻す。そして冒頭で紹介した「先生」~「強火」へと――。
女王蜂は、アヴちゃんというハイブリッドな存在を媒介にして、年齢や性別に関係なく、あらゆる視点から物語を紡いでいく。だが、メッセージとして通底しているのは、人間としての業を映すことである。生きていく上での選択が、他者の人生に良いにしろ悪いにしろ影響を与えてしまうという真理。決して逃れられないのであれば、砕け散るまで好きに生きる、ということ。
終盤で歌われた「失楽園」でも、〈天国なんて行きたくない/きみがいないと始まらない〉と綴られているが、他者の評価より、自分自身の意思を貫くことの尊さを、アヴちゃん、そして女王蜂は体現してきた。アルバム『悪』の表題曲となるバラード「悪」も同様に、その思いが揺るぎないことを伝えていた。
ライブの終焉を告げたのは、シングル『強火』のカップリングとして収録されているロック・バラード「いばらの海」だった。アヴちゃんの実直な死生観や人生観が滲みつつ、〈総て幻よ〉と、現世への諦念とも希望とも取れる言葉がフィーチャーされている。おそらく、どちらもアヴちゃんの中にはあるのだろう。
それをあたたかな希望として受け取ることができたのは、80分、ノンストップで繰り広げられたこの日の公演が芸術的であり肉感的であり、パワフルで心を打つものとして響いたからだ。誰よりも最高に着飾ってステージに立つ女王蜂の、虚飾のない言葉とダイナミックなサウンドの応酬。その在り様にひたすら燃え上がり、強く励まされたのである。
Text:森 樹
Photo:森好弘、中野修也
◎公演情報
単独公演「強火」
2025年7月23日(水) 東京・東京ガーデンシアター
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