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アコースティック編成というものが、バンドにとって決して小休止や箸休め的な意味合いのものではなく、むしろ、バンドの本質を露わにするものであること。そして、ここにあるのもまたひとつの未来であること――それをKroiは証明してみせた。
7月7日に東京・恵比寿The Garden Hallで開催された【Kroi Acoustic Live 2025】。このタイトルを銘打ったアコースティックライブは6月に大阪城音楽堂でも開催されており、恵比寿The Garden Hall公演はツアーで言えば2日目、最終日に当たる。東京公演はFC会員限定のライブだったのだが、これが2日間限りは勿体ない。「もっとたくさんの人に、この空気を味わってもらいたい!」と叫びたくなるくらいに素晴らしいライブだった。
Kroiは今年2月に初のアリーナ単独公演を神奈川・ぴあアリーナMMで成功させている。そうやって規模を拡大させつつ、地に足を着けながら極めて自由に、ナチュラルに、音楽性を進化/深化させていくKroiの現在地をリアルに感じるという点でも、このアコースティックライブはあまりに刺激的なものだった。進化とは、着飾ったり、纏ったり、付け足したりすることだけじゃない。シンプルなことの尊さに気づくこともまた、たしかな進化なのだ。
美しいピアノの旋律に導かれるようにして、1曲目を「Pixie」で始めた5人。音源とはまったく違う静謐なアレンジだが、この曲が本来的に抱くメロディアスな美しさが際立って響く。メンバーの配置は、ステージに向かって左手から益田英知(Dr)、関将典(Ba)、内田怜央(Vo/Gt)、長谷部悠生(Gt)、千葉大樹(Key)の順番で、ほぼ横並びになるような形。演奏は終始、椅子に座った状態で行われた。千葉はアップライトピアノに向き合い、内田の場所には、ボンゴを始めパーカッションもセッティングされている。緊張感とリラックスした柔和な雰囲気が絶妙な均衡を保ちながら流れていく空間。観ている側としても居心地がいい。ただ、アコースティックライブだからと言って全体的にしっとりとした空気感だけでライブが進んだのか、と言えばそういうわけではない。曲によっては猛烈にパーカッシブでダイナミックな演奏を繰り出すなど、その血沸き肉躍るファンクネスは健在。ダイレクトに体に伝わってくる1音1音の明瞭さ、アンサンブルの躍動感、歌やコーラスの力強さ、それに煌びやかな照明演出も含めて、Kroiらしい熱量や熱気、それに観客たちとの相互コミュニケーションもしっかりと生み出されていた。とても根源的なレベルでKroiの音楽が持つエネルギーやパワフルさに触れることができたライブだった、と言っていい。そもそもが、ボーダレス/ジャンルレスなバンドのKroiだ。「アコースティックライブ=静かで大人しいライブ」という固定観念もないだろう。間違いなく、Kroiの音楽が前を向き歩いていくためのひとつの可能性の形として、今回のアコースティックライブはあった。
メンバーの自己紹介と言わんばかりにソロ回しをキメた「Monster Play」で、ハンドクラップとコーラスを観客たちにも求める姿は、この場所にいる一人ひとりが「Kroi」という音楽空間を生み出す当事者であることをバンドが伝えようとしているようだった。ライブ中盤、ぴあアリーナMM公演でも見事にギターを奏でてみせたドラマー益田が、自前のリゾネーターギターを持ち出して長谷部とブルースセッションを繰り広げた時間は、お茶目さもありつつ(益田と長谷部のコンビ名は「珍獣ブラザーズ」らしい)、タレント揃いのバンドならではの音楽的な豊かさを感じさせた。元々はブルースに惹かれたギター少年だった益田がギターを弾く場面があったり、元々はドラマーだった内田がパーカッションを叩いていたりと、単なる分業ではなく、各々のルーツがしっかりステージ上で守り、生かされているところもKroiの素晴らしさだ。
本編ラストの「HORN」を演奏し終えたあと、本来なら1度ステージを降りて再びアンコールでステージに戻る予定だったのだろうが、このライブの解放感の中で、そうした予定調和的な演出すら不要に思えたのだろう。「やっちゃおうか」という内田のひと言をきっかけに、5人はステージから降りることなく、再び各々のポジションへ。そのままアンコール用に用意していた「Never Ending Story」を披露した場面は、この日のライブがKroiにとっていかに自然体で、かつ一体感があるものだったのかを物語っていた。その「Never Ending Story」で生まれたバンドの演奏と観客たちの合唱の重なりは本当に美しくて、幸福で、感動的だった。最後に持ってきたのが「Never Ending Story」、つまり「終わらない物語」というところにも、このバンドが内に秘めたロマンティシズムを感じさせる。「Never Ending Story」の間奏部分で、内田はこんなふうに言った。
「こうやって新しいセットでやると、初心を思い出します。お客さんに拍手や歓声をもらって、1個1個、Kroiはできていったんだな、ということが改めてわかりました。これからもKroiは進化し続けます。『昔のKroiはよかったな』と思う人もいるかもしれませんが、進化するKroiを楽しんでいける、そんな空間にしていけたらなと思っています。ライブで曲って進化していくんです。皆さんの歓声の一つひとつが、我々の作品の中に、実は入り込んでいるんです。めっちゃおもろい話でしょ? なので、また新たなKroiを作り上げていきましょう。今日はどうもありがとうございました。Kroiちゃんでした」
今、この時代にKroiというバンドがいてよかった。大袈裟に聞こえるかもしれないが、心からそう思ったライブだった。こんな時代でも、前に進むことが希望であると信じさせてくれるバンドがここにいる。前に進むことは、時に自分たちのルーツや、とてもシンプルなことに目を向けることで成し遂げられるんだと、思い出させてくれるバンドがここにいる。Kroiは希望だ。そう断言できるアコースティックライブだった。
Text by 天野史彬
Photo by Kaito Ono
◎公演情報
2025年6月15日(日)大阪・大阪城音楽堂
OPEN 16:00 / START 17:00
2025年7月7日(月)東京・恵比寿The Garden Hall
OPEN 18:00 / START 19:00
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