<ライブレポート>ano、ツアーファイナルで見せたリアルな感情と偽りのない言葉「過去も今も未来も全部、僕は僕でいる」

2025年7月14日 / 20:00

 俳優、声優、タレント、ラジオパーソナリティー、モデル……。様々なフィールドで活躍する“あの”ちゃんのことをネットニュースで見ない日はない。イベントやラジオ、テレビのバラエティー番組などでのちょっとした発言が切り取られてニュースになるが、彼女の言葉には嘘がない。どんな場面、どんな相手であっても、彼女はありのままの自分で、思ったことを口にする。だから、信頼できるのだが、かといって、常に全てを曝け出しているわけではない。「そういう意味ではないんだけど」と口を閉じ、自分の思いを心にしまうこともあるはずだ。しかし、彼女には、不特定多数の人に理解してもらうために、自分の意志を曲げた方向には絶対に進めない場所がある。解らない人には解らなくてもいいと自信を持って言える、守るべき聖域がある。それが“あの”ちゃんが“ano”として立つ、ライブのステージだ。今年6月にリリースしたメジャー2ndアルバム『BONE BORN BOMB』を引っ提げた東名阪ツアーのファイナルの地である東京・Zepp Hanedaでは本音を吐露し、濃度100パーセントの自分自身を曝け出したanoの本当の姿があった。

 この日のセットリストは、ニューアルバム『BONE BORN BOMB』に収録された全12曲に1stアルバム『猫猫吐吐(ニャンニャンオェー)』からの8曲を混ぜた20曲という構成となっていた。アルバムのタイトルには、外面ではなく内面の本質的な部分、変わりゆく“肉”ではなく不変的な“骨”を見せたいという思いがあったのだろう。“鉄骨”が剥き出しになった無骨なステージに“骨”をモチーフにした乳白色の衣装を着て現れたanoは、「あのです。みんな、楽しんで帰っていってね」と挨拶し、TVアニメ『らんま1/2』のオープニングテーマ「許婚っきゅん」でポップに弾むようにライブをスタートさせた。サビでは踊りながら変幻自在の表情も見せると会場はまるでお祭り騒ぎの様相に。

 続く、「ンーィテンブセ」でエレキギターをかき鳴らしながら「東京、声出せ!」と煽ると、観客のテンションが一気に上昇。<もっと普通の声で歌えばいいのに>という世間の声を歌詞にしたクリープハイプ「社会の窓」のカバーではデスヴォイスを繰り出し、尾崎世界観が作曲し、あのが作詞した「愛してる、なんてね。」でオーディエンスを踊らせ、の子による「涙くん、今日もおはようっ」では<君を一人にさせない音楽があるから/僕を孤独にさせない音楽があるから>というフレーズを体現。anoが手を掲げると、観客は手を左右に揺らすワイパーでゆるやかな一体感を生み出し、<らららららん>という大合唱も巻き起こった。

 「次から歌うのは自分一人で向き合って黙々と作った曲です。変な人やどうしようもない人、楽しそうに生きてる人、何も考えてなさそうだけど、本当はすごい考えてる人とか……。この世界にはすごくいろんな人がいて、外では一人にはなれないなと思うけど、家に帰るとひとりぼっちだなと思います。この世界にひとりぼっちだなと思って。この世界に二人だけが一番難しいなと思って。今回のアルバムで、この世界に二人だけになるのはどうしたらいいんだろう? ということをよく考えました。僕は二人が好きで、いつかこの世界に二人だけになることが、求めている最終地点なのかなと思います」

 思春期の自分を救ってくれたのがクリープハイプや神聖かまってちゃんだとしたら、現在の彼女は自身が作詞作曲した楽曲で自分を救おうとしているのだろう。鋭く歪んだエレキギターにエモーショナルな歌声を響かせた「この世界に二人だけ」。深いリバーブがかかった音像でドリーミーで幻想的な空間を作り出した「swim in 睡眠Tokyo」やダイナミックなバンドサウンドにトラップビートが盛り込まれた「コミュ賞センセーション」。エレキではなくアコギを弾き、スクリーンには手書きの歌詞が映し出された「YOU&愛Heaven」。<なんでひとりにするの?>と戸惑いながら、<置いていかないで>という心の叫びにも似た願いを込めた「ハッピーラッキーチャッピー」。“君”や“貴方”が友達なのか、恋人なのかはわからない。猫や音楽、もしかしたら自分自身かもしれないが、気持ちの深い部分で解り合える“ひとりぼっち”と出会って“この世界に二人だけ”になりたい。彼女のリアルな感情を刻み込んだ楽曲をステージで解き放つ姿には胸を打つものがあった。

 ここで「骨の髄まで楽しんでいってください」と呼びかけた後、その言葉通りに観客の骨の髄まで楽しませる楽曲を続けた。anoの指揮にコールが上がった「スマイルあげない」に続き、<萌え萌え>の後に“キュン”ではなく、 “滅”を炸裂させ、拡声器でシャウトしながらメロイックサインを掲げた「ロりロっきゅんロぼ▽」(※▽=特殊記号のハート)でオーディエンスの熱気を一気に引き上げると、「誰が一番気持ち悪いか、バトルしようぜ!」と呼びかけた「猫吐極楽音頭」や「骨バキ☆ゆうぐれダイアリー」では、メタルコアなみにヘヴィーでラウドなサウンドの中で、anoはデスヴォやスクリームを自由自在に発揮しながら暴れまくり、フロアは狂乱の渦へと包み込まれていった。そして、尾崎世界観と共作した「普変」ではSNSに蔓延る心のないコメントをバッグに怒りや憤りをエールに変えて観客に届け、圧倒的な解放感を生み出した。

 「最高ですね。めちゃめちゃ楽しいです。ま、立ち話もなんなんで、どんどん行ってもいいですか?」という言葉からいよいよクライマックスへ。代表曲「ちゅ、多様性。」でハイパーパップなサウンドの中から一人一人の心音を浮かび上がらせると、オールドスクールのラップもフィーチャーした「F Wonderful World」から<キモい声とバブみフェイス>というフレーズが炸裂する「Bubble Me Face」という自身の冠番組テレビ朝日系『あのちゃんねる』オープニングテーマの2連発でフロアを激しく揺らす。そして、「ここがどこ探してもどこにもない、絶対に守らなければいけない場所だと思ってます」と語り、自身が声優として出演した映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』前章主題歌「絶絶絶絶対聖域」を体全体で絶叫するかのようにパフォーマンス。スモークが焚かれ、サーチライトが点滅するフロアに<地球が壊れたよ/二人で空飛ぼう♪>というラインを轟かせると、銀テープが勢いよく舞い散り、破滅と祝福が入り混じったようなムードの中で本編の幕が閉じた。

 “あのちゅーる”に導かれて再びステージに現れたanoは、9月に行われる初の日本武道館公演のタイトルとビジュアルを発表した後で、観客に向かってゆっくりと語りかけた。「ファンの人の前でしか見せない姿がある人間で、やっぱりライブは自分が出せる場所だなと思うんですけど……。このanoちゃんは好きとか、このanoちゃんは本物じゃないとか、そう言われることも人一倍多くて。いろんな姿があるから、僕からしたら全部自分だし、その中で濃度がどのくらい高いか、自分のどこの面を見せてるかなだけで。どれが嘘とかないです。それをわかって欲しいなと思うし」と話した後、「失わないと愛されない愛なんていらないと思います。死なないと愛してもらえない自分なんて好きじゃないです」と、言葉を紡いだ。さらに、「だから、anoとして音楽を続けることをやめないし。今を見て欲しいから、今を生きてるんです」と覚悟を示した。

 そして、「今という瞬間を生きている僕を見つめようとしてくれてると信じています。過去も今も未来も全部、僕は僕でいる。僕はそういう生き方をしてきたし、誰に否定されようがそれは自信があります」と胸を張り、ライブに足を運んでくれた観客に対し、「僕を応援してることでバカにされたこともあるかもしれない。それでもその“好き”を曲げないで、信じて、ここまできてくれてありがとうございます」と感謝の気持ちを伝え、「みんなが持ってる感情に全部責任を持ちますし、これからも一緒にいろんな景色を見ましょう」と語ると、会場からはこの日、一番大きくて温かく、シンパシーに満ちた拍手が送られた。

 ライブのエンディングは、あのが出演するドラマ『【推しの子】』の第4話主題歌として書き下ろされた「Past die Future」だった。歌詞にある通りに<全身全霊>でシャウトすると、<新しい世界でした何も怖くないよ>というフレーズをアカペラで届け、観客と“今、この瞬間”の本音をぶつけ合ったステージはフィニッシュを迎えた。anoはライブで見てこそ本質が伝わるアーティストなので、ぜひ彼女のステージを目撃する機会を持ってほしい。

Text by 永堀アツオ
Photo by 横山マサト

◎公演情報
【BONE BORN BOMB TOUR】
2025年6月19日(木)愛知・Zepp Nagoya
2025年6月20日(金)大阪・Zepp Osaka Bayside
2025年7月4日(金)東京・Zepp Haneda

【呪いをかけて、まぼろしをといて。】
2025年9月3日(水)東京・日本武道館


ano

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