<ライブレポート>マカロニえんぴつがスタジアムライブを開催――路上ライブをしていた“あの頃”からスタジアムに立つ“現在”を繋いだ2日間

2025年6月23日 / 18:00

 マカロニえんぴつはスタジアムが似合うロックバンドだった。6月14日、15日の2日間にわたって開催されたバンド初のスタジアムワンマン【still al dente in YOKOHAMA STADIUM】を観て、僕は心からそう感じた。演奏される1曲1曲、どの曲もイントロが奏でられた瞬間に「あの曲だ!」とわかった。そしてその瞬間、とても幸福な高揚感がスタジアム全体に浸透していった。

 両日ともにラストに演奏された新曲「静かな海」以外、モニターに歌詞が表示されるという最近よくある演出はほとんどなかったように思うが、それでも、たくさんの人たちが一緒に歌っていたし(歌詞が合っているか間違っているかなんてこの際どうでもいいのだ)、マカロニえんぴつの歌が自分の人生と重なった時のあの気持ちを、きっと多くの人がこの日、鮮明に思い出していたのではないかと思う。僕らはマカロニえんぴつという音楽の「当事者」だった。僕らはマカロニえんぴつの歌と一緒にすっ転んで、一緒に起き上がった。スタジアムを埋めることができるアーティストは他にもいる。でも、この2日間で僕らが体験したのはそういうことじゃない。この2025年に「スタジアムロック」という言葉がみずみずしい鮮度を持って響く奇跡を、僕らは体感した。

 はっとり(Vo/Gt)、高野賢也(Ba)、田辺由明(Gt)、長谷川大喜(Key)の4人に加え、サポートドラムはお馴染みの高浦 “suzzy” 充孝、さらに曲によっては力強くゴージャスなホーン隊も演奏に加わって届けられた演奏。両日ともに1曲目はカラフルな照明とダイナミックなホーンセクションに彩られながらの「トリコになれ」でライブはスタートした。

 ちなみに1日目は生憎の雨で、2日目は日差しが眩しいくらいに晴れていだが、偶然とはいえ、そのコントラストある空模様も“マカロニえんぴつらしい”と思ってしまった。雨の日もあれば、晴れの日もある……そういう人生のことを、彼らは奏で続けているような気がするのだ。笑えることばかりではなくて、泣いたことがあるから、僕らは彼らの音楽を愛するわけなのだから。ライブが中盤に差し掛かる頃、長谷川の静謐で美しいピアノソロから「なんでもないよ、」が始まった瞬間の感動は凄まじいものがあった。生きていく中で時にどうしようなく置き去りにしてしまいそうになる尊い繊細さや弱さが、ぬくもりに変わって、伝わってくるようだった。

 もちろん切なさを噛みしめる瞬間だけじゃない。メンバーがリリーフカーに乗ってやって来る大胆な入場は「スタジアムでやってやんぜ!」というエネルギーがチャーミングに爆発していて最高だったし、他にもライブの前半と後半を分けるハーフタイムショーではバンドのマスコットキャラ「まかぴー」と「まか子」、それに横浜スタジアムを本拠地にする横浜ベイスターズのオフィシャル・パフォーマンスチーム「diana(ディアーナ)」が登場して、「哀しみロック」に合わせてみんなで踊る時間があったり、開演前にはジャルジャル、sumika、柄本時生、新しい学校のリーダーズ、緑黄色社会、SUPER BEAVER、染谷将太、ファーストサマー・ウイカといったバンドと交流のある面々からの応援コメントがモニターに流れたり、エンターテインメント性溢れる演出も楽しいライブだった。

 1日目はインディーズ期の楽曲多め、2日目はメジャー期の楽曲多め、とコンセプトを分けて開催された今回のスタジアム2デイズ。ライブ中盤にセンターステージに移動したバンドは、1日目には「零色」「日常と君と僕の歌」「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」「幸せやそれに似たもの」を披露。特に「日常と君と僕の歌」と「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」の2曲は、現在では流通していない、バンドが路上ライブをやっていた頃に500円で手売りしていた音源にのみ収録されている楽曲たちだ。マカロニえんぴつは神奈川県川崎市で結成されたバンドだが、同じ神奈川県の横浜で、しかも横浜スタジアムという超ビッグな会場で、これらの楽曲が披露されたことは「バンドは人生であり、旅であり、痛みと喜びが混ざり合う物語なんだ」ということを改めて実感させた。

 そして2日目は同じくセンターステージで「ハッピーエンドへの期待は」「ルート16」「はしりがき」「mother」「僕らは夢の中」を披露。メジャー期の中でも特に「メジャーデビュー期」の楽曲たちが多く披露されたことが、彼らがメジャーという新しい世界に足を踏み入れた瞬間の興奮や不安、そして強い覚悟を改めて追体験させた。同時に、メンバー全員が作詞を手掛け、それぞれが歌詞を書いたパートを自ら歌うというマカロニえんぴつの楽曲の中でも唯一無二な存在感を放つ「僕らは夢の中」が演奏されたのも嬉しかった。夢を見ることも、夢を叶えることも、夢に破れることも、どれもきっと尊い。その中でも「夢を生き続ける」というロックバンドの生き様は永遠不変にロマンチックだ。

 1日目のラスト、大名曲「ヤングアダルト」を披露した後、突然演奏されたこの時点でリリース前の新曲「静かな海」は、その日の夜中0時に配信リリースされ、そして2日目のラストにも披露された。はっとりが始めから「時代」を歌おうと思って曲を書き始めたのかどうかは知らない。どちらかと言えば、「人間」を歌おうとしたら、それが時代の歌になったのだろうと思う。「静かな海」もそういう曲だ。悲しくて、優しくて、美しい。誰にだって起きるのが怖くて怖くて仕方がない朝があることを知っている人が作る歌。音を重ねながら「静けさ」を生み出そうとする――そんな一見矛盾した行為に、願いを込めながら本気で向き合っている人たちが作る音楽。この「静かな海」という優しい歌が、今という時代の空気に染み込んでいく最初の瞬間を体験できたことも、この2日間の素晴らしい出来事のひとつだった。

Text by 天野史彬
Photo by 後藤壮太郎、浜野カズシ、酒井ダイスケ

◎公演情報
【still al dente in YOKOHAMA STADIUM】
神奈川・横浜スタジアム
2025年6月14日(土)
2025年6月15日(日)

<6月14日(土)セットリスト>
01. トリコになれ
02. 鳴らせ
03. レモンパイ
04. 洗濯機と君とラヂオ
05. MUSIC
06. たましいの居場所
07. 恋人ごっこ
08. ブルーベリー・ナイツ
09. なんでもないよ、
10. 零色
11. 日常と君と僕の歌
12. サンキュー・フォー・ザ・ミュージック
13. girl my friend
14. 幸せやそれに似たもの
15. 前世よ、しっかり
16. ハートロッカー
17. ワンドリンク別
18. 愛の波
19. STAY with ME
20. 星が泳ぐ
21. ミスター・ブルースカイ
22. ヤングアダルト
23. 静かな海

<6月15日(日)セットリスト>
01. トリコになれ
02. 鳴らせ
03. レモンパイ
04. 洗濯機と君とラヂオ
05. MUSIC
06. たましいの居場所
07. 恋人ごっこ
08. ブルーベリー・ナイツ
09. なんでもないよ、
10. ハッピーエンドへの期待は
11. ルート16
12. はしりがき
13. mother
14. 僕らは夢の中
15. 前世よ、しっかり
16. ハートロッカー
17. ワンドリンク別
18. 愛の波
19. STAY with ME
20. 星が泳ぐ
21. ミスター・ブルースカイ
22. ヤングアダルト
23. 静かな海


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