<ライブレポート>日本から10組が出演、台湾最大級音楽フェスの広がりを現地で体感

2025年5月13日 / 22:00

 3月29日と30日の2日間、台湾・高雄で台湾最大級の音楽フェス【大港開唱 Megaport Festival】が開催された。

 今年で16回目を迎えたこのフェスは、台湾アーティストだけでなく、海外からのバンドやアーティストの出演者も年々増加している。ステージ数も10に拡大し、国際的な音楽フェスへと階段を登り始めた印象だ。以前は緩やかに売り切れていたチケットも、今では出演者の発表前に「秒殺」で売り切れるほどの人気ぶり。年々、チケットの争奪戦が激しくなっている。

 そんな中でも、フェス側の工夫も進化。事前登録者が一足早く購入できる機会がある「大港人」制度や、転売防止のための「実名制」の取り組み、また水の補給所、充電器のレンタル、電動キックボードの導入など、来場者が快適に過ごせる環境づくりにも注力している。今年も会場は満員となり、各ステージで入場規制がかかるほどの盛況ぶりだった。

 初日はすっきりと晴れた天気。一番大きな南覇王ステージが観客で埋め尽くされている中、演奏前に「メガポートフェスと言えば」の船の汽笛が流れてくると、「ああ、また今年もこの場所、メガポートフェスに帰ってきたんだ!」というワクワクする期待感と安心感に包まれた。

 定刻12:30、南覇王ステージは台湾のバンド・傷心欲絶(Wayne’s So Sad)からスタートした。ボーカル・許正泰の独特なスタイルで歌う姿が超クール!「みんな聞いて! 最初に見に来てくれてありがとう。フェスに呼んでくれてありがとう!」と丁寧に話し、歌とトークのギャップが印象的でまた引き込まれていった。

 ライブハウスを使った海波浪ステージには、昨年の台湾のインディーズ音楽賞【金音創作賞】で<ベストアルバム賞>と<ベストロックソング賞>を受賞したBremen Entertainment Inc.が登場。彼らも若いが、観客もとても若い印象で、サイケデリックロックに身を任せ、一曲また一曲と観客は次第に彼らの世界観に引き込まれていった。

 どのステージもそうだが、とにかく人が多い。人混みと会場の広さで、見たかったアーティストを全て見られない場面もあったが、それもフェスならでは。女神龍ステージでは、台湾のバンド・老王楽隊が登場。フェスの出演者の中でも安定感のある存在だ。人!人!人!の波にのまれそうになりながらも、少し遠いところからでも、彼らの存在感と音楽の力が感じられた。

 海波浪ステージでは、日本のプロデューサー、A.G.Oとのコラボ曲「Cat & Mouse」でも話題のシンガーソングライター・Andrが登場。チェックのシャツにニット帽というお馴染みのスタイルで歌う彼女は、トークで「緊張している。今日は暑いから水飲んでね。私も飲むから!」と緊張しながらもリラックスし、先日参加してきたという【SXSW】の話題にも触れた。と、ここで男性シンガーソングライター・Everydazeが登場するサプライズ! AndrとEverydaze、どちらも好きなお客さんにとって一度で二度楽しめる素敵な時間だったに違いない(筆者もそうだった!)。本フェスでは、コラボやフィーチャリングの企画が多いけれど、会場に足を運んでみると、こうして棚ぼた的なラッキーに出会えるのも、まさにフェスの醍醐味かもしれない。

 女神龍ステージのトリを務めたのは広末涼子。「MajiでKoiする5秒前」から始まり、「台湾、呼んでくれてありがとうございます!」と中国語で自己紹介、今井美樹やJUDY AND MARY、そして平井堅の「POP STAR」のカバーが披露された。「大スキ!」の途中で「台湾~」と呼びかけ、多くの台湾の人の心に届いた瞬間だった。そんなキラキラしたテンションのまま1日目は終了した。

 南覇王ステージなどに行くためには、ここ数年、大港橋の一本だけだったため、終演後などの混雑時には少し進んでは止まるを繰り返す牛歩状態になっていた。これを解消すべく会場に7年ぶりに復活したのがKing Bridge(橋王)。浮橋のため、歩くたびに上下に少し揺れるのだが、ステージのある両岸を繋ぐ浮橋を渡るたびに【メガポート】にやってきたことを実感する。そして、迎えた2日目。会場の両岸を繋ぐ橋王を渡って、去年、日本でもライブを行った台湾の4人組バンド・頭部組成者Head Composerのステージへ。彼らの演奏には、ライブを観た人の心を掴んで離さない力強い魅力があった。

 日本語で歌う台湾のバンドとして知られるゲシュタルト乙女。台湾のステージでもトーク部分は日本語でとてもユニークだ。EGO-WRAPPIN’のカバーや「蜃気楼」を披露。今回のコラボ企画では、ゲシュタルト乙女にSAKRAOKEが加わることで、その力強さやユニークさが増し、全く違う曲に感じられるから不思議だ。ゲシュタルト乙女の新しい扉が開いた、そんな風に感じられた。

 【メガポート・フェス】のメディア広報を担当している洪宥鈞(Eric)氏に話を聞いたところ、「本フェスは来年で第17回になりますが、途中で休止期間があったので、実際には20年になります。なので、成人したとも言えるでしょう。実は、ここ高雄でフェスを始めた頃は、台湾でインディーズ音楽を聴く人が増え始めたばかりで、徐々にファンを育てていくような状況でした。私個人は高校生の頃にインディーズ音楽を聴き始めたのですが、当時は『変わってるね』『意味が分からない』などと言われたりもしました」と振り返る。しかし、「今では、みんながフェスに行ったりバンドのライブに行ったりすることが普通になってきたのではないでしょうか。昔からバンドが好きで音楽を聴いている私のような人間からすると、これはとても面白い変化だと思います。このように、以前はとてもマイナーだった音楽が徐々に大衆の目に触れるようになって、選択肢になるのを見るととてもうれしく感じます」と、フェスの広がりを目にしてきたという。

 「このフェスの“人生の音楽祭”というテーマはとても大きいテーマだと思います。そこには幅広い側面が含まれており、誰もがいろいろな音楽に触れ、音楽が自身の人生の異なる場面で影響しています。楽しい時もあれば、辛い時もあります。もしかしたらある曲がその時の人生の思い出になるかもしれません。だからこそ音楽は常に人生と密接な関係を保っていると思うのです。それに加えて、ここ高雄のような港町には多くの感情が混ざり合っているように感じます。だから、高雄と人生という二つの言葉が結びつき、唯一無二のものになるのだと思います」と、高雄と音楽の相性のよさを説明した。

 今年、日本からはCreepy Nuts、ヤングスキニー、WONK、Chilli Beans.、THE SPELLBOUND、空白ごっこなど、10組のアーティストやバンドが出演。日本のバンドの存在感を感じずにはいられなかった。日本のバンド2組の出演が重なっている時間もあり、台湾ファンはどちらかを選択しなければいけないという苦渋の決断に迫られたと思われる。空白ごっこのステージは満員御礼につき、入場規制となり、ライブハウスの外には長い行列ができていた。会場内には、〈知りませんでした〉(「だぶんにんげん」)をボーカルのセツコと共に叫ぶように歌っているファンが多かった。

 女神龍ステージでは、同じ台湾大学出身のヒップホップアーティスト、Gummy Bと楊舒雅が共演。同じステージに立ち、Gummy Bが作った「2045」を楊舒雅が力強く歌う姿を見て、勇気づけられた人も多いのでは。台湾の未来を考えずにはいられなかった。

 同じく女神龍ステージでは、7年ぶりの参加だという台湾のバンド・deca joinsも登場。普段からライブの回数も少ないバンドだけに、こうしてフェスで遭遇できるのは嬉しい。「海浪」や「浴室」など聴きたかった曲が続き、観客も徐々に盛り上がっていくのがわかる。彼らのステージは、歌声、楽曲、照明が混ざり合って、一つの物語が出来上がっていくように感じられた。

 2日目の女神龍ステージのトリを務めたのは、くるり。なんと15年ぶりの渡台とのこと。高雄でくるりのステージを見られる日が来るなんて……と感慨深かった。「琥珀色の街、上海蟹の朝」からスタートし、台湾で聴く「東京」もなかなかいい感じ。MCトークでは、「最高」「ありがとう」などを台湾語を話して観客との距離をグッと縮めていた。アンコール前のラスト曲「奇跡」では、観客のみんなが携帯のライトを灯し、くるりの曲と共に揺れている瞬間に遭遇し、思わず胸が熱くなった。

 珍しく風が強く吹いて肌寒く感じた高雄の夜、南覇天ステージのトリであるザ・フレーミング・リップスのステージ終了と共に花火が上がり、アンコール途中のくるりの歌を聴きながら花火を観るという、なんとも贅沢な流れのまま2025年の【メガポートフェス】は終了した。

 南覇天ステージと女神龍ステージは、日本でもYouTubeでライブ配信を見ることができた。来年の開催は未定ではあるが、少し気が早いけれど、現地に足を運ぶもよし、配信で楽しむもよし。ますます進化を続ける【メガポート・フェスティバル】から今後も目が離せない。

Text by 竹内将子
Photos by 出日音楽


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