<ライブレポート>Teleが過去と向き合った先にたどり着いた現在地――【残像の愛し方】ツアー・ファイナル横浜アリーナ公演

2025年5月1日 / 18:00

 4月20日、Teleが【Tour 2025「残像の愛し方」】のツアー最終日を横浜アリーナで開催した。【Tour 2024「箱庭の灯」】のツアー初日、昨年6月に行われた日本武道館公演では「箱庭療法」をモチーフとした砂漠をステージに作り上げて、オーディエンスを大いに驚かせたが、この日は「残像」をモチーフに、さらなる驚きのライブ演出を披露。“令和のトリックスター”を強烈に印象付ける一夜となった。

 横浜アリーナの場内に入ると、フロアのセンターにあるカーテンのような幕で囲まれた横長の巨大な直方体が目に飛び込んできて、そこには辞書のように「残像:刺激がなくなった後になお残る、または再生する感覚」という言葉が投影されている。円形のセンターステージは珍しくないし、これまでにも立方体のステージはあったのだが、客席を2分割する横長のステージというのは初めて。「これから何が始まるのか?」と場内は開演前から大きな期待が渦巻いていた。

 開演予定時刻を過ぎた18時半、場内が暗くなるとシャワーを浴びたり湯船に浸かったりするTeleの映像とともに過去を反芻するモノローグが流れ出す。そこに4つ打ちのビートが重なって、次第に言葉も激しさを増し、「残像は繰り返す!」と連呼されると、「待たせたな! 横浜アリーナ!」という第一声とともにTeleが登場。1曲目は4月23日にリリースの新作『「残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。」』(このタイトルの長さもまさにトリックスター的)でも冒頭を飾っている「残像の愛し方」だ。歌詞が映し出された幕の中を通って、ステージを端から端まで行き来し、まずは会場を埋めたオーディエンスに直接挨拶をするように歌いかける。

 1曲目を終えて幕の中に入ると、ここからはしばらく映像を用いた演出が続く。「シャドウワークス」ではTeleのシルエットと恐竜や動物などの影絵が交錯し、「僕は君に歌を歌う。それは結び目にもなれない瞬間かもしれないけど、僕は今から歌を歌う」と熱っぽく語って届けられた「包帯」に続いて、「初恋」ではサイケデリックな模様が投影される。「アルバムの中から小さい歌をやります。それはこのカーテンの裏側で起きたことみたいな、大したことのない日の歌です」として始まった「あくび」では、豆電球のような慎ましくも温かな光の中でTeleとキーボードの奥野大樹のシルエットが浮かび上がる。歌とピアノのみで切々と“喪失”が歌われ、場内には静かな感動が広がった。

 水面のような青い照明の中に都会の夜景が映る「鯨の子」の後半からは、幕の中にいるTeleの様子がおそらくは手持ちのカメラで臨場感たっぷりに映し出される。森夏彦による歪んだベースから始まる「砂漠の舟」では、リッケンバッカーを弾くTeleをはじめ、バンドメンバーの姿もようやく確認できたが、曲の後半でサイケデリックな盛り上がりを見せる中、突如黒装束の集団がTeleに襲い掛かり、暴行を加えるというショッキングなシーンが。しかし、曲が終わると何事もなかったかのように「ghost」が始まり、再びTeleのシルエットが映し出されると、最後は光量の強いライトと轟音とともに大きなカーテンが風に揺れ、神々しいシーンを作り出した。

 すでに何度となくハイライトが訪れているが、まだライブは中盤。Teleの指示でバンドメンバーがキメを繰り返すセッションから「DNA」が始まると、「始めようぜ! 横浜アリーナ!」という呼びかけとともに巨大な幕がまさにカーテンのように開いていき、Teleを中心に横並びになった5人が遂に姿を現す。しかし、周囲にはまだ紗幕が張られていて、「カルト」では大量のスモークが炊かれる中、ミュージックビデオでモチーフになっている室外機の映像が投影されていく。「ロックスター」ではハンドマイクでステージを動き回りながらパフォーマンスを続けたが、紗幕には常に残像が映り込む。「本当はここでまだ踊り足りないかを聞いて、ある曲にいこうと思ったんだけどさ、そりゃ足りねえか!」と煽ってからの「ブルーシフト」では、ハイパーポップのようなテンションに会場がこの日最大級の揺れを記録した。

 パンキッシュな「金星」、さらに「バースデイ」を畳み掛け、曲の途中では森、奥野、ギターの庫太郎、ドラムの森瑞希の順でソロを回すシーンがあったが、Teleが一人一人に「まだまだまだまだ!」と声をかけて、全員がテクニックよりもエモーション重視のプレイを聴かせたのは実にTeleのライブらしい光景。そのテンションに釣られるように場内もさらにヒートアップすると、「よく『自由に踊ろう』とか『楽しみ方は自由』って言うんだけど、それにちょっと矛盾することをお願いしてもいいですか? 僕はミュージシャンなんで、ありとあらゆる矛盾を抱えてみなさんの前に立ちます」と話して、「花瓶」のコーラスを要求。場内はすぐに大合唱に包まれて、最後にオーディエンスのみの声を響かせると、ここで紗幕が落ち、遂に遂にTeleが姿を現す。「This is Our Song! 今この瞬間、俺らの歌だぜ!」と叫び、ステージの端から端まで駆け抜けながら届けられた「花瓶」の歓喜のパフォーマンスは、間違いなくこの日のハイライトだった。

 2024年にツアーを回って自分の現在を肯定できたこと、そこからTeleをもっと前に進めようと考えたときに、憧れや感謝のようなポジティブなものも後悔やトラウマといったネガティブなものも含めて、過去が自分の前に現れるようになったこと、だから過去の受け入れ方を考えようとして「残像の愛し方」というタイトルをつけたこと、昔逃げ込んだクローゼットを模してステージを作ったことが切々と語られていく。そして、「過去を否定するでも肯定するでもなく、ずっとここにあるぞって、首根っこ掴まれて争い続けるのが僕の愛し方だと思った。トムとジェリーみたいに、僕は残像をずっと憎んで、ずっと愛していこうと思ったんです」と現在の心境を伝える。

 つまり、幕を用いて、常にシルエットを、残像を映しながら行われたこの日のライブ自体が、過去と憎み合うように踊り続けるTeleなりの「残像の愛し方」を示したものだったというわけだ。特に衝撃だった「砂漠の舟」のラストで黒装束の集団に襲われるシーン。もしかしたら、実際に暴力を振るわれた過去があるのかもしれないし、不意に襲いかかってくる過去のトラウマや後悔を擬人化したものだったかもしれない。いや、その次の曲が「ghost」だったこと思えば、幽霊のように誰からも必要とされない、打ちのめされるような日々を経て、ソロプロジェクトのTeleとして再起していく重要な過去を描いたものだったかもしれない。もちろん、その答えは誰にもわからないが、そうやってそれぞれが自分の経験と照らし合わせ、過去に想いをはせる時間が、「残像の愛し方」というライブだったのだと思う。

 「ミュージシャンには何かを変える力はなくて、音楽を作ることしかできないけど、音楽には何かを変える力があると僕は思ってる。僕の音楽が、今日という日が、みなさんの残像の愛し方を決める一助になれば幸いです」と話して、本編最後に披露されたのは「愛とは何か?」という“誰も答えを知らない問い”をテーマにした「ひび」。この日のライブもそうであったように、Teleの音楽はいつだって愛について問いかけている。そして、<すべての祈りを。あなたに祈りを。>と締めくくられるこの曲は、自身の歪さを受け入れる為に寄る辺の無い日々を過ごす全ての人の側に立つ、Teleの表現者としての姿勢を示すものだったと言えるだろう。

 アンコールではまずサポートメンバーがステージに姿を現し、「Véranda」の演奏が始まると、「こういうのやってみたかった!」とTeleが突如客席から登場して、またしてもトリックスターっぷりを見せつける。アンコールのMCではリラックスした表情でオーディエンスともやりとりをしながら、徐々に過去の音楽活動を振り返った。16歳から曲を作り始め、17歳で同級生と3ピースバンドとしてTeleを組み、色々あってメンバーがいなくなり、一人になったタイミングでコロナ禍になり、そこから約2年を経て最初に「バースデイ」を出したこと、バンド時代は新代田Feverでお客さんが一人しかいなくて、コンクリートの地面を見ながらライブをしたことなどが語られる。ソロになってからもバンドに対するコンプレックスがあったが、「最近はサポートのみなさんのおかげで、ライブに来てくれるみなさんのおかげで、バンドじゃなくてもいいじゃんと思えるようになりました」と感謝を伝えると、この日を作り上げた音響、照明、撮影、大道具、機材のスタッフ、そしてマネージャーへ、オーディエンスとともに拍手が送られた。

 「バンドをやっていた時期も言ってみれば残像で、僕の中にずっと残っていて、そのときの自分も引き連れて行きたい気持ちがありまして、18歳のときにやってた曲をやってもいいですか?」と言って披露されたのは、弾き語りから始まる「生活の折に」。「最後は暗い感じで終わりたくないから、明るい曲を」と、アルバムでもラストに収録されている「ぱらいそ」で横浜アリーナを楽園に変えると、再び幕が戻ってメンバーの姿を隠し、映画のようにエンドロールが流れ、演出面でも感情面においても他に類を見ない一夜が終演。12月には幕張メッセでワンマンライブを行うことが告知され、次は果たしてどんな光景を見せてくれるのか、早くも楽しみでならない。

Text:金子厚武
Photo:太田好治、雨宮透貴

◎セットリスト
【Tele Tour 2025「残像の愛し方」】
2025年4月20日(日)神奈川・横浜アリーナ
1. 残像の愛し方
2. シャドウワークス
3. 包帯
4. 初恋
5. あくび
6. 鯨の子
7. 砂漠の舟
8. ghost
9. DNA
10. カルト
11. ロックスター
12. ブルーシフト
13. 金星
14. バースデイ
15. 花瓶
16. ひび
En1. Véranda
En2. 生活の折に
En3. ぱらいそ

◎公演情報
【Tele 幕張メッセ公演(タイトル未定)】
2025年12月13日(土)千葉・幕張メッセ 国際展示場 9-11ホール


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