<ライブレポート>川崎鷹也×武部聡志、尊敬と感謝が紡いだオーケストラコンサート

2025年4月18日 / 19:00

 シンガー・ソングライター川崎鷹也が、編曲家で音楽プロデューサーの武部聡志プロデュースによる初のフルオーケストラコンサート【billboard classics「川崎鷹也 Premium Orchestra Concert」~produced by 武部聡志】を3月31日すみだトリフォニーホール 大ホール 、4月3日兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホールで行なった。

 川崎の歌が、武部のピアノと岩城直也のアレンジ、Naoya Iwaki Pops Orchestra(NIPO)によって新たな息吹を吹き込まれ、大きな感動でオーディエンスを包んだ。その東京公演をレポートする。

 なんでも“初めて”というのは、本人はもちろん観客もワクワクとドキドキで気持ちが高ぶってくる。すみだトリフォニーホールの客席はまさにそんな空気で満ちていた。しかし客席はすぐに美しい音に心を鷲掴みにされる。

 50人を超えるNIPOが拍手に迎えられ登場し、続いてマエストロである岩城が指揮台につく。いよいよ開演だ。静まり返った会場にオーケストラが奏でる「愛の歌」が流れる。そして切ない「サクラウサギ」のメロディ、「魔法の絨毯」へと続く。岩城がこの日のために川崎の作品を繋ぎ、紡いだ「OVERTURE」だ。その美しく切ない音に、早くも胸がいっぱいになったオーディエンスが多かったのではないだろうか。同時にこのコンサートが想像を遥かに超えたものになると確信したはずだ。

 川崎と武部が登場し、注目のオープニングナンバーは「カレンダー」。川崎はギターではなくハンドマイクを手にしている。二人が歩んだ日々を綴った歌詞の情景を、オーケストラの音がさらに鮮やかに映し出し、川崎の伸びやかの声が物語を伝えていく。

 「ボーカルを担当させていただいている川崎」ですと“自己紹介”すると、武部が「僕が今一番推している若手シンガー・ソングライター川崎鷹也」と笑顔で紹介。恐縮する川崎。武部はインタビューでも「日本の音楽シーンにおいて正統なポップスを後継するシンガー・ソングライター」と川崎の才能と声を絶賛し、昨年の薬師丸ひろ子に続いて、この武部聡志プロデュースシリーズの第2弾に川崎を指名した。

 川崎が「桜が咲き始めていますね。これから春の歌を続けてお届けしたいと思います」と語り、「春がくる」「サクラウサギ」を披露。武部のピアノは歌にぴったり寄り添うようで、そこにオーケストラの厚いサウンドが重なり、川崎の強くて優しい歌、繊細な表現が客席に感動を運ぶ。別れの出会いの季節に胸に響く2曲だった。

 川崎が「思い入れが強い曲」と語るのは「君は天然色」(大滝詠一)だ。武部が「僕か亀田誠治さん(音楽プロデューサー)がいないところでは歌わないという話を聞いていたので」と語ると、川崎がその理由を説明する。「松本隆さんのトリビュートアルバム『風街に連れてって!』(2021年)で歌わせていただいてから、色々なところから『この曲を歌って欲しい』とオファーをいただくようになって。 あのアルバムは亀田誠治さんプロデュースで、亀田さんに武部さんが僕を推薦してくださった、人生を変えてくれた大切な曲なんです。だからお二人への感謝も込めて大事に歌っていきたいんです」と、この曲に強いこだわりがある。ちなみに公演後川崎が投稿したSNSには、武部、亀田、岩城と笑顔で映っている写真がアップされていた。客席で観ていた亀田と、ステージの武部、恩人二人に見守られながら歌った「君は天然色」は、ポップで壮大なオーケストラのサウンドと相まって、深い響きを感じさせてくれる名演だった。指揮の岩城が間奏で鍵盤ハーモニカを吹くという意外な演出もあり、客席を驚かせた。

 続いて武部のピアノに導かれて「Stardust Memory」を披露。演奏もライティングもファンタジーで、ハイトーンボーカルも美しく、その世界に引き込まれた。「次が1部最後の曲です」と説明し「でもちょっと時間巻いてますよね」と川崎が語ると、武部が「鷹也もっと喋ってもいいんだよ」と優しく煽る。すると川崎は「ワンマンでしゃべりすぎて、30分で2曲しか歌ってなかったとかあって、今日はしゃべりすぎないようにってスタッフからきつく言われているんです」と語ると、客席から笑いが起こる。するとディズニー音楽に憧れて音楽家を目指したという岩城が「歌詞にアラジンやジーニーが出てくる『魔法の絨毯』ができた経緯を聞きたい」と、川崎にリクエストする。

 川崎は「奥さんと交際している時、人前に出る仕事をする人なら一流のものを観たほうがいいと、劇団四季のアラジンのチケットをとってくれて、最前列で二人で観て感動して、すぐに素敵な物語を書きたいと思いました。僕はその時本当に貧乏で、アラジンも貧乏じゃないですか。一緒だ!と思って<アラジンのように>というフレーズが最初に浮かんで、そこから紡いでいきました」と、丁寧に楽曲制作秘話を説明した。そして岩城はまさにディズニー音楽のような、ドリーミーでファンタジーなアレンジを紡ぎ、この一途な思いを歌った名曲が新たな表情を見せ、川崎のボーカルも客席一人ひとりの心にまっすぐ届けるように響き渡った。

 休憩をはさみ、2部は「愛の歌」から。川崎はアコギをかき鳴らし、雄大なオーケストラの音をバックに突き抜けていくような伸びのある歌を届ける。そして「ツアーではあまりやらない曲をスペシャルアレンジで」と「光さす」を投下。管楽器の音が印象的なジャジーなアレンジで、オーケストラがスウィングする。“笑ってるやつが一番最強!”と春から新生活をスタートさせる人たちに向け、メッセージを贈る。

 歌い終わった川崎に武部が「鷹也今日踊るって言ってなかったっけ?」と話を振ると、「ミュージカルスターになってもらいたかった」(岩城)、「自分の耳が赤くなるのを感じたのでやめました(笑)」という三人の軽妙なトークの掛け合いも、“普通の”クラシックコンサートとは違うところだ。そしてもう一曲のカバーへ。徳永英明のヒット曲「レイニーブルー」(1986年)は、武部がオリジナルアレンジを手掛け「発売当時は売れなくて、2年くらい経ってから突然聴かれるようになった」(武部)というエピソードを紹介。武部のピアノが美しいイントロを奏で、川崎が女性目線で描かれた歌詞を丁寧歌うと、切なさが立ち上がってきて、オーケストラの音が重なり情景がそれぞれの心の中に映しだされる。

 そして「普段あまり歌わない曲を歌うんですけど、明日から新年度を迎えるということで、頑張ろうねという気持ちをこめて『Be yourself』」と川崎が語ると、客席から歓声が上がる。管楽器が高らかに鳴り響き、岩城のダイナミックな指揮に応え、オーケストラの音も熱を帯びてくる。「FLY HIGH」も爽やかなポジティブソングだ。武部のピアノが扉を開けるように鳴り、ギターを弾きながらの歌う川崎の歌と、オーケストラの幾重にも重なるハーモニー、全てが眩しい光となって客席に降り注ぐような感覚になった。

 川崎の作品はリアルを綴る歌詞が多くの人の共感、共鳴を生んできた。「4.11」もそうだ。愛する子供の誕生を描いた作品で、この日も子育ての大変さを客席に語りかけながら「でもそれ以上に幸せがいっぱいある。生まれてきてくれてありがとうって、そう毎日想いながら暮らしています。僕らを選んできてくれた子へ向けて書いた大切な歌です」と、「4.11」を最後に歌った。1コーラス目はまずアコギだけで歌い、そこにピアノと柔らかな弦の音が入ってきて、オーケストラが重なる。その音に包まれながら川崎が情感豊かに歌うと、胸に迫ってくる。涙を流しながら聴いている人も多かった。

 カーテンコールは鳴りやまず、三人が再びステージに登場。アンコール一曲目は新曲の「曖昧Blue」(MBSドラマ特区『復讐カレシ~溺愛社長の顔にはウラがある~』主題歌)。アコギを弾きながら切なくエモーショナルな楽曲を歌い、間奏の武部のピアノソロはリズムをかきたてる。発売前の最新曲をオーケストラバージョンで聴くことができるという、スペシャルな時間だった。

 「幸せな空間で幸せな時間を共有できたと思います。ラストは出会えた奇跡を歌います」と、ファンの間でも人気の「君の為のキミノウタ」を披露。シンプルなメロディと深い歌詞が心に浸透してくる。川崎は、最初はマイクを使わず生の声で会場の隅々にまで歌を届け、徐々に音が重なり、ブレンドされ、最後はダイナミックなオーケストレーションと歌がひとつになり、感動を生んでいた。

 ステージ上で三人が称え合うように拍手を送り、ハグしていた。三人の音楽家の相互理解と尊敬に基づいた、新たな音楽体験がこの日のコンサートだった。川崎の言葉とメロディが武部のピアノ、フルオーケストラの音と交差した時、客席は想像を超える感動を体感したはずだ。

text:田中久勝 
photo:石阪大輔

◎公演情報 ※終演
【billboard classics「川崎鷹也 Premium Orchestra Concert」~ produced by 武部聡志】
2025年3月31日(月)東京・すみだトリフォニーホール 大ホール
2025年4月3日(木)兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

出演:川崎鷹也
ピアノ:武部聡志
指揮・編曲:岩城直也

管弦楽:
【東京】Naoya Iwaki Pops Orchestra(NIPO)
【兵庫】NIPO×大阪交響楽団

公演公式サイト
https://billboard-cc.com/kawasakiXtakebe


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