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Petit Brabanconのツアー【BURST CITY】は9月21日、名古屋ダイアモンドホールでファイナルを迎えた。
鳴り止まぬアンコール。終演を知らせるアナウンスがあっても、オーディエンスはアンコールを続ける。アンコールをやらないバンドであることはオーディエンスも重々承知しているはずだが、誰もやめようとはしなかった。それはアンコールを求める行為というよりも、バンドに対する敬意とライブに対する賞賛の形を表しているようにも思えた。アンコールの声は次第に大きな拍手へと変わり、拍手をしながら満足げに会場を後にするオーディエンスの姿がそのことを表していたし、それは何よりもこの日のライブに対する満足度を物語っていた。
opening「move」のリズムに合わせたフロアからのクラップと掛け声に迎えられたメンバーが、それぞれ自分の持ち場に着く。ぴちょぴちょとしたシンセ音にyukihiro(Dr.)が図太いビートを淡々と重ねていき、京(Vo.)が妖しく艶かしく歌い出す。「surely」でライブはスタートした。無機質で退廃的な雰囲気を作り出す同曲での始まりは、この日のライブがどんなものになるのか、予想もつかない不気味さを放っていた。そう思ったのも束の間、「孤動」が叩き落とされる。タイトでノリの良いビートに乗せて一斉にフロアから手が上がり、シンガロングが起こった。ミヤ(Gt.)のエッジィなギターがビートを切り裂いていき、京が吠える。Petit Brabanconの中ではキャッチーでストレートなロックナンバーではあるが、ライブを重ねるごとに狂気性を帯びたナンバーになっていった。そのまま「Miserable」へ。堰を切ったように轟音の洪水と京の悲痛な叫びが会場に降り注いだ。
「名古屋、今日がラストだ、わかってんだろ、お前ら何も縛られてねぇ。自由に生きろ! ぶつけてこい!」
京が被っていたキャップを脱ぎ、フロアへ投げると歓声が上がる。と同時に重戦車のようなバンドアンサンブルが走り出す。「Ruin of Existence」だ。うかうかしていると振り落とされそうになるヘビーグルーヴが心地よい。そのまま、antz(Gt.)が奏でる奇しいフレーズに高松浩史(Ba.)がルーズなノリでフレーズを重ねる「dub driving」へ。ヒートアップしたフロアではクラウドサーフが巻き起こり、スタンディング会場であるからこその光景が広がっていく。その熱を受けてバンドはさらに加速していくように「BATMAN」を続けた。獰猛なバンドアンサンブルが襲いかかってくる。「拳を上げろ! もっと!」と、京の叫びによって、さらに会場のボルテージが上げられる。ミヤとantzの2本のギターが複雑に絡み合い、京の奇声がけたたましく響いた「主張に手を伸ばす修羅」、土砂崩れを起こしたように重低音と音圧が身体中にのしかかってくる「渇き」と、Petit Brabanconらしい混沌とした世界を次々と作り上げていった。
この猛獣ともいうべき、バンドが誕生したのはコロナ禍の2021年のことだ。それぞれ百戦錬磨のキャリアと現在進行中の活動を持ったメンバーであるから、限定的な活動の企画バンドであると思った人も少なくはないだろう。だが、彼らは定期的な音源リリースとツアーという勢力的な活動を続けてきた。
最新作2nd EP『Seven Garbage Born of Hatred』は、Petit Brabanconらしい凶暴な側面、激しさに振り切った作品である。それがライブを想定したものであることは言うまでもないだろう。そして、コロナ禍での規制下にあった活動を経て、今こうして何も規制のないライブができることは彼らが待ち望んでいたものだ。何のセットもない、シンプルに楽器のみが置かれたステージ。それは何の飾りもなく純粋にライブを、音を楽しみたいというバンドの意志だろう。この日、京が幾度となく「縛られるな」「自由だ」と叫んでいたのは、ようやく手に入れた規制も制約もない状況だからこその喜びでもあるはずだ。もちろん、そんなバンドの想いにフロアを埋め尽くしたオーディエンスは全力で応えていく。
ライブは、ダンサブルな「OBEY」、90s’オルタナティブロックの雰囲気を醸す「眼光」、大蛇のようにアンサンブルが這いずり回る「Isolated spiral」と続いた。yukihiroのずっしりと響くスネア、高松のグラインドしていくグルーヴ、より重厚で一体化した分厚いディストーションの壁を作っていくミヤとantzのギター……ライブを重ねるごとにその奏でられる轟音も、バンドのアンサンブルもより強靭なものになっていることがありありとわかる。
「忘れんなよ! 今日がラストだ!」
「後ろも前も自由なんだよ!」
「全部吐き出してこい、俺らが全部受け止めてやる!」
2本のギターが奇天烈なフレーズを作っていくインプロビゼーションをバックに京が叫んだ。そのギターは次第に大きな壁となり、yukihiroがリズムを重ねていくと、「Loser」へと傾れ込んだ。そこからの「a humble border」の流れで、フロアでは激しいサークルモッシュが巻き起こる。この無機的な雰囲気を持ったインダストリアルな楽曲はライブをもって大化けしたといっていい。ソリッドなビートはより加速的になり、研ぎ澄まされたサウンドが空間を突き刺し、オーディエンスに揺さぶりをかけていく。ライブに欠かせないナンバーになった。
「Mickey」からのラストスパート。シャッフルのリズムは土着的な祭囃子のようであり、フロアは謎の祝祭感に包まれた。「お前らそれで終わりかよ?」と、本能のままに踊り乱れるフロアを眺めながらさらに煽っていく京。「Wow~」とシンガロングが巻き起こる「Don’t forget」でその昂った士気を一気に掌握すると、さらに一切の隙を与えぬまま「疑音」を投下。フロアが割れたウォール・オブ・デスでカオティックな様相になるも、ステージではミヤを抱き寄せる京の姿が印象的だった。
yukihiroの捲し立てるスネアのロールから始まった、ラストナンバー「Vendetta」。激しさへ振り切ったEP『Seven Garbage Born of Hatred』の中でも、もっとも激しく、これまでありそうでなかったPetit Brabanconの新境地というべき楽曲だ。京のグロウルも、yukihiroの乱れ打たれるビートも荒れ狂い、弦楽器の3人はうずくまりながら楽器をかきむしり、最後の最後の一音までこれでもかというほど鳴らし切った。京は先ほどまでの猟奇的だった表情とは打って変わって、「ありがとう、バイバイ」と穏やかにステージを降りていった。yukihiroは高速でスネアとフロアタムを連打し、中指を立てて去った。そんなメンバーの表情からも、この日のライブの手応えがどれほどのものだったのかがわかった。
そんなライブであったから、オーディエンスもアンコールがないことを理解の上で、ステージに向かって絶え間ない歓声と拍手を送り続けたのだ。
終演後に早くも来年2025年に【CROSS COUNTER -01-】と銘打たれたライブシリーズが発表になった。詳細は後日発表になるというが、とんでもない内容になることはあえていうまでもないだろう。
Text by 冬将軍
Photo by 尾形隆夫 (尾形隆夫写真事務所), Yukihide “JON…” Takimoto
◎公演情報
【BURST CITY】
2024年9月21日(土)
愛知・名古屋ダイアモンドホール
<セットリスト>
opening.「move」
01. surely
02. 孤動
03. Miserable
04. Ruin of Existence
05. Dub driving
06. BATMAN
07. 主張に手を伸ばす修羅
08. 渇き
09. OBEY
10. 眼光
11. Isolated spiral
12. Loser
13. a humble border
14. Mickey
15. Don’t forget
16. 疑音
17. Vendetta
【Petit Brabancon CROSS COUNTER -01-】
2025年3月8日(土)愛知・名古屋 THE BOTTOM LINE Guest: to be announced
2025年3月9日(日)愛知・名古屋 THE BOTTOM LINE Petit Brabancon Only 2025年3月20日(木・祝)大阪・心斎橋 BIGCAT Guest: to be announced
2025年3月21日(金)大阪・心斎橋 BIGCAT Petit Brabancon Only
2025年3月26日(水)東京・恵比寿 LIQUIDROOM Guest: to be announced
2025年3月27日(木)東京・恵比寿 LIQUIDROOM Petit Brabancon Only
※詳細後日発表
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