スカパラ35周年記念特別公演「情熱のスカと熱響のオーケストラサウンド、響き合わせることは生きる歓び」服部隆之(指揮・音楽監修)、ハナレグミ、中納良恵(EGO-WRAPPIN')、東京フィルを迎えて

2024年6月5日 / 18:00

 今年デビュー35周年を迎えた東京スカパラダイスオーケストラ(以下スカパラ)、そのアニバーサリーイヤーの幕開けを飾る初のフルオーケストラコンサート【billboard classics Tokyo Ska Paradise Orchestra 35th Anniversary symphonic concert】が、5月25日山梨県・河口湖ステラシアターで行われた。指揮と音楽監修は日本を代表する音楽家の一人・服部隆之、そして演奏は東京フィルハーモニー交響楽団。スカとオーケストラサウンド、リズムと旋律とが交差し生まれる熱い“うねり”に、取材ノートには“言葉にできない素晴らしさ”と、文章を書く人間としては決して使ってはいけないワードが、太い文字で記されていた。

 スカパラ初のステラシアター、そしてフルオーケストラとの初共演、一体どんなライブになるのか、メンバーの登場を待つ野外劇場は、ワクワク感とドキドキ感で満ちていた。「るろうの形代」が流れてきて、NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(T.Sax)、谷中敦(B.Sax)、加藤隆志(G)、川上つよし(B)、沖祐市(Key)、大森はじめ(Per)、茂木欣一(Dr)が登場。ステラシアターは、ステージ後方に富士山を望み(この日は残念ながら雲に隠れていた)、半円形のすり鉢状の客席が広がる心地いい空間。メンバーを迎える総立ちの観客の歓声と大きな拍手が、上からステージに降り注ぐ。気のせいか、谷中は早くも感極まったような表情だった。

 オープニングナンバーは「火の玉ジャイヴ」。客席は一気にヒートアップし、続く「ルパン三世のテーマ’78」では客席全員で踊り、イントロが流れた瞬間歓声が起こった「MONSTER ROCK」とアッパーチューンが続き、早くも熱狂が生まれる。谷中は空を見上げ「ステラシアター最高! 空まで突き抜けるように演奏します」と興奮した様子で客席に向けて語り、さらに「お客さんに囲まれ一瞬たりとも気を抜けないけど、一瞬たりとも気を抜かせない演奏をします」と、このライブが最高なものになることを約束した。まさにこの言葉通りのライブだった。

 谷中、大森、GAMOが中心となってボーカルを取る「DOWN BEAT STOMP」ではメンバーも客席も弾け、メドレーに突入。「Stroke Of Fate」、そして「Call From Rio」は突くような音がこだまして、全員でタオルを振り回し、「Natty Parade」では全員で手を振り、凄まじい一体感が生まれる。それぞれのノリで楽しみながらもこの一体感を楽しむのもライブの醍醐味だ。

 沖が「35年間で一番お客さんの顔がひとり一人ハッキリ見える。今日は体験したことがないことが次々と起こっている」と感激した様子で語る。そしてデビューアルバム『スカパラ登場』(1990年)に収録されている「君と僕」を口笛とアコーディオンで披露する。口笛のメロディは温かで少し切なくて、ノスタルジックな気持ちにさせてくれる。口笛とアコーディオンの音がそよ風と野鳥のさえずりと溶け合い、爽やかで心地よい空気に包まれる。後半からホーンズが合流し、まるでメロディを慈しむかのような優しい演奏で胸に迫ってきた。

 そして今年2月に配信リリースしたムロツヨシ主演映画『身代わり忠臣蔵』のテーマ曲「The Last Ninja」を披露。和のテイストを感じるハイスピードのナンバーに、再び客席はノリノリだ。ここで谷中がシークレットゲストのムロツヨシを呼び込むと、大きなどよめきが起こる。親交が深い二組は4月19日放送の『あさイチ』(NHK)にスカパラが出演した際、ムロツヨシがメッセージを寄せ「前日から河口湖に行ってます」と語り、谷中からムロに「本当に出ますか? 観る方? やる方?」と連絡がいき、この日のステージが実現したというエピソードが明かされると客席は爆笑。もちろん歌うのは「めでたしソング feat.ムロツヨシ」だ。ハイテンションの中毒性があるナンバーをムロが熱唱し、会場全体も最高潮になったところで、第一部が終了。

 東京フィルハーモニー交響楽団が大きな拍手に迎えられてステージに登場し、第二部がスタート。服部隆之アレンジのスカパラメドレーは「MONSTER ROCK」から。ド迫力の音が放たれ、客席も全身で受け止め体を揺らす。「ホールインワン」「DOWN BEAT STOMP」とスカパラのおなじみの曲が、服部のアレンジにより、違う角度から光が当てられたように美しさを増し、表現される。服部の指揮はどこまでもしなやかで、その背中からもエネルギーが伝わってくる。それに鼓舞されるようにコンサートマスターの室屋光一郎と東京フィルの音も、どこまでも豊潤さを増していく。「めくれたオレンジ」は映画のサントラのような壮大さで、「美しく燃える森」もオリジナルとは違う表情で引き込まれる。途中からスカパラのメンバーが合流し、ビートが加わる。そして「Break Into The Light~約束の帽子~」でメドレーを締める。

 東京フィルの圧巻の音は、繊細な音が幾重にも重なって生まれ、美しい音圧になることが客席にも伝わったはずだ。そしてその音の威力、魔力から、とんでもないライブになると感じたはずだ。谷中が何度も東フィルのメンバーに感謝を示し「のっけから胸が熱くなりました」と感激した様子だった。服部のスカパラへのリスペクトと愛情が詰まったアレンジに、メンバーもそしてずっと応援し続けてきたファンも感動していた。

 そして「Break Into The Light」を披露。茂木は「夢とファンタジー。瞬きしている暇はないですよ」と興奮した様子で「銀河と迷路」へ。東フィルの音とスカパラの音とが絶妙にブレンド、新鮮な響きが生まれ胸が熱くなる。メンバーもこれまでにはない素晴らしい音の感触に、手応えを感じていた。

 ここでハナレグミが登場。「音が泉のように湧き、心地よいリズムが生まれるここはまさにオアシス」と「オアシス」が投下される。『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーのテーマを入れ込むなど、服部のウィットに富んだアレンジに客席が沸く。歌い終えたハナレグミは「こんなライブ、人生で初めて」と興奮を隠せない様子だった。そしてローズのイントロからスカのリズムが生まれ、2005年のコラボ曲「追憶のライラック」を披露。甘くメロウなハナレグミの歌が澄んだ空気の中優しく響き渡る。オーケストラの音が歌とスカパラのサウンドに寄り添いながらも輝きを増していく。ハナレグミもメンバーも心から楽しんでいるのが伝わってくる。「オリビアを聴きながら」は、辛い恋の終わりを描いている曲だが、このコラボでは客席と大合唱し、どこまでもポジティブな多幸感を全ての人の心に運んでくる。

 「5 days of TEQUILA」はオーケストラが入ってくるアレンジが意外だったのか、間奏で客席からどよめきが起こる。ここで谷中が中納良恵(EGO-WRAPPIN‘)を呼び込む。「黄昏を遊ぶ猫」をソウルフルなボーカルで聴かせる。中納の歌はもちろん、ボーカリストとしての佇まい、妖艶な動きに客席は目を奪われる。中納は「気持ちいいー!」と、開放的な空間で極上の音に包まれる幸せを噛みしめている。そして「こんなスペシャルな日に呼んでもらってありがとうございます」とメンバーと客席に感謝を伝える。薄暮の迫る会場。「縦書きの雨」はスカパラと中納が初めてコラボした楽曲だ。「黄昏~」とは一転して優しくクールなボーカルと、スカパラ、オーケストラが奏でる温かみのあるサウンドのアンサンブルが切なく、心地いい。

 ドラマ『ブギウギ』の主題歌「ハッピー☆ブギ」は、服部隆之が作詞・曲・アレンジを手がけ、中納、さかいゆう、趣里が歌い、「半年間、毎日一日3回流れていた曲」(中納)、「中納さんのために書いた曲」(服部)だ。そして服部が「こんなめでたい席でやらせてもらってもいいんでしょうか」と語り、貴重なセッションが始まった。誰もが思わず口ずさんでしまう人懐っこいメロディと歌詞、まさにハッピーオーラを湛えた曲だ。オリジナルには入っていなかったオーケストラサウンドが加わることで、この曲が持つハッピーさの中の切なさが、よりクローズアップされる。

 中納の歌の余韻が残る中、沖のピアノが「水琴窟-SUIKINKUTSU-」の美しいメロディを奏で始めると、夕闇迫る会場に静かに感動が広がる。沖のエモーショナルなピアノソロは圧巻で、オーケストラとの掛け合いでは音が共鳴し合い心に迫ってくる。涙を流しながら聴いている人も多かった。

 そしていよいよクライマックスだ。「Paradise Has No Border」の軽やかなピアノが跳ねると、ホーンズがおなじみのあのフレーズをまさに爆発させる。客席のテンションはマックスになる。客席も指揮の服部もタオルを掲げている。GAMOが「どこが一番盛り上がってるんだ」と客席を煽りさらに「東京フィル、本当に盛り上がっているのか!」とオーケストラも煽る。すると弦楽器が「アイネクライネナハトムジーク」、金管楽器が「展覧会の絵」、全体で「剣の舞」「カルメン」という誰もが知るクラシック曲のフレーズを高速で弾き、応える。日本最高峰のオーケストラの“本気”の遊びから放たれる音は圧倒的に美しく、客席は高揚感と恍惚感で満たされていた。まさに大団円で本編が終了。

 アンコールの拍手が鳴りやまない。オーケストラのメンバーもアンコールを煽る。再びメンバーが登場し、まずは谷中がボーカルを取る「All Good Ska is One」だ。ハッピーな空気が客席に広がる。気温はグッと下がってきたが、まだまだ終わらないというステージと客席の思いが熱気となって会場を包む。谷中は「今日のようなライブは35年の中で初めて。35年間の思い出を確認していくような時間で、やってきたことが間違いではなかった、このままでいいんだと勇気づけられた」と涙で言葉を詰まらせながら語っていた。「スカパラとは同期と思っているので今日呼んでいただけて光栄です」と語る服部とスカパラは、音楽活動のスタート時期が同じで、共に小沢健二の名盤『LIFE』(1994)の制作に携わっていた。そんな“同志”のスカパラの音楽を、服部は称えるように気高く美しいアレンジを施し、東京フィルが丁寧にかつ情熱的な演奏でスカパラ愛を伝えた。

 ラストはハナレグミが中納をエスコートしながらステージに再び登場し「ジャングル ブギ」だ。スカパラの代表曲のひとつだが、この曲は服部の祖父・良一が1948年に発表した昭和の名曲だ。スカパラの演奏と中納とハナレグミの歌、オーケストラの熱い演奏、ステージにいる全ての人の情熱が迫力のあるグルーヴを生みだしていた。

 全てのセッションを終え、茂木は「信じられない夢のような楽しい時間。一回だけは淋しい」と興奮した様子で語ると客席から大きな拍手が沸き起こる。さらに「35年間が報われるようなアレンジを服部さんが作ってくれました」と服部に感謝すると服部も「スカパラ大好き。メンバーに入れて(笑)」と、二組の絆の深さを感じさせるラストシーンだ。そして誰もいなくなったステージの後方に花火が打ち揚げられ、歓声があがる。心揺さぶられた150分、まさに夢の跡、客席は余韻に浸っていた。

 スカパラ9人が作る音圧、そして60人を超えるオーケストラが生む音圧がどうブレンドするのか、ケンカしないのか、最初は想像するのが難しかった。しかし、服部隆之という日本屈指の音楽家が両者のストロング・ポイント、それぞれの良さを高め合うアレンジを練り、演奏を作り上げ、響き合わせることができた。翌日、沖はSNSにこんなメッセージを発信した。「服部隆之さん指揮、東京フィルとの共演、中納良恵さん、ハナレグミを迎えての「ジャングル ブギ」は、スカパラの歴史の中でも大きな大きなトピックに。危険なほどの気迫とグルーヴ。自分ではない何かの大きな流れの中にいるような。でも自分の手で触れている瞬間。ありがとうございました」——メンバーも服部も東京フィルも、そしてファンも忘れられないライブになったのではないだろうか。情熱のスカと熱響のオーケストラサウンド、響き合わせることは生きる歓びだ。音楽は聴く人を幸せにするのはもちろん、歌う人、演奏する人も幸せにする。そう感じさせてくれる“言葉にできない素晴らしさ”だった。

Text by 田中久勝
Photos by 仁礼博

◎公演情報
【デビュー35周年記念特別公演 東京スカパラダイスオーケストラ×ビルボードクラシックス at 河口湖ステラシアター billboard classics Tokyo Ska Paradise Orchestra 35th Anniversary symphonic concert】
2024年5月25日(土) OPEN16:00/START17:00 河口湖ステラシアター ※終演
出演:東京スカパラダイスオーケストラ
ゲストボーカル:ハナレグミ、中納良恵(EGO-WRAPPIN’)
指揮・音楽監修/編曲:服部隆之
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

セットリスト
<第1部>
M1 火の玉ジャイヴ
M2 ルパン三世のテーマ’78
M3 MONSTER ROCK
M4 DOWN BEAT STOMP
M5 STROKE OF FATE
M6 CALL FROM RIO
M7 Natty Parade
M8 SKA ME CRAZY
M9 君と僕
M10 The Last Ninja
M11 めでたしソング feat.ムロツヨシ

<第2部>
M1 Overture
・MONSTER ROCK
・ホール イン ワン
・DOWN BEAT STOMP
・めくれたオレンジ
・美しく燃える森
M2 Break Into The Light~約束の帽子~
M3 銀河と迷路
M4 オアシス(ゲスト:ハナレグミ)
M5 追憶のライラック(ゲスト:ハナレグミ)
M6 オリビアを聴きながら(ゲスト:ハナレグミ)
M7 5 Days of TEQUILA
M8 黄昏を遊ぶ猫(ゲスト:中納良恵)
M9 縦書きの雨(ゲスト:中納良恵)
M10. ハッピー☆ブギ(ゲスト:中納良恵)
M11 水琴窟-SUIKINKUTSU-
M12 Paradise Has No Border
EC1 All Good Ska Is One
EC2 ジャングル ブギ(ゲスト:ハナレグミ、中納良恵)


音楽ニュースMUSIC NEWS

【深ヨミ】デビューシングルが首位獲得、IS:SUE『1st IS:SUE』の地域別の販売動向を調査

J-POP2024年6月30日

 2024年7月1日付のBillboard JAPAN週間“Top Singles Sales”で、IS:SUEの『1st IS:SUE』が133,769枚を売り上げ首位を獲得した。(集計期間2024年6月17日~6月23日)  『1st … 続きを読む

Ado本人によるニューアルバム『残夢』商品解説動画が公開

J-POP2024年6月29日

 Ado本人によるニューアルバム『残夢』の商品解説動画が公開された。  2024年7月10日にリリースとなる今作には、全16曲が収録。また、“完全数量限定:BIGアクリルスタンド&Blu-ray盤”、“初回限定:Blu-ray盤”、 … 続きを読む

須田景凪、キョンシーとの大騒動を描く「ユーエンミー」MV公開

J-POP2024年6月29日

 須田景凪が、新曲「ユーエンミー」を配信リリースし、ミュージックビデオを公開した。  新曲「ユーエンミー」は、2024年7月11日より放送スタートとなる読売テレビ・日本テレビ系プラチナイト木曜ドラマ『クラスメイトの女子、全員好きでした』の主 … 続きを読む

クリープハイプのトリビュートアルバム、2組目の参加アーティストはindigo la End

J-POP2024年6月29日

 クリープハイプのトリビュートアルバム『もしも生まれ変わったならそっとこんな声になって』の参加アーティスト2組目が発表された。  本作は、クリープハイプ現メンバー15周年を記念して、2024年8月28日にリリースされる初のトリビュートアルバ … 続きを読む

Creepy Nuts、「Bling-Bang-Bang-Born」全国ホールツアーファイナル公演でのライブ映像公開

J-POP2024年6月29日

 Creepy Nutsが、全国ツアー【Creepy Nuts ONE MAN TOUR 2024】での「Bling-Bang-Bang-Born」ライブ映像を公開した。  これは、6月16日に東京・国立代々木競技場 第一体育館にて開催され … 続きを読む

Willfriends

page top