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野宮真貴の3都市ビルボードライブ・ツアーがスタートした。2月14日のビルボードライブ横浜では【Valentine’s Day Live 2024 ~Be My Baby~】と題し、ザ・スクーターズと小山田圭吾をゲストに迎え、一夜限りのスペシャル・ライブを開催。【野宮真貴、渋谷系を歌う。】シリーズでアップデートを続ける野宮真貴とゲストの貴重な共演、彼らを繋いだ渋谷系のキーパーソンに捧げられたこの日のステージの模様をお届けする。
季節外れの暖かい気候に恵まれた2月14日のバレンタイン・デー。ビルボードライブ横浜に集まった観客の多くは、この日のステージがピチカート・ファイヴの「万事快調」でスタートした瞬間、小躍りしたくなったに違いない。『SWEET PIZZICATO FIVE』(1992年)のこのグルーヴィーなソウル・ミュージックは渋谷系時代の幕開けともいえる曲だった。パコ・ラバンヌのディスク・ドレスに身を包んだ今宵の野宮真貴が<タクシーを拾って どこかに行こうよ>と歌うと、それだけで気分がアガる、気持ちがはやるのがピチカート・マニア!
「Valentine’s Day Liveへようこそ。今夜は皆さんに私からの音楽のプレゼントをお届けします」
2曲目は小泉今日子の「あたしのロリポップ」。『No.17』(1990年)に収録されたこの曲は、1964年に全英で大ヒットしたミリー・スモールの「My Boy Lollipop」の日本語カバー。その訳詞を手がけたのがウディ川勝ことエディター/ライターの川勝正幸(2012年没)。このポップなスカ・ナンバーを川勝と深い親交があった野宮がトリビュートしたのは感慨深い。
今回の3都市ツアーは、野宮真貴にとって特別な意味がある。ピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターをはじめ渋谷系を支えたアート・ディレクターの信藤三雄が2023年2月10日に亡くなって1年。その一周忌に近いバレンタイン・デーに開催されたのがこの夜のステージなのだ。
「素敵なミュージシャンでもあった信藤さんに届くようなライブをしたいと思います」と、ここでザ・スクーターズを呼び込む。信藤が率い、80年代から現在まで、“東京モータウン・サウンド”を鳴らし続けるザ・スクーターズのフロント・メンバー5人+ターバン・チャダJr.が登場。野宮真貴とおそろいの衣装でステージに並ぶと6人のガールズ・グループとなり、往年のモータウン・ショーのごとし! このメンバーで代表曲「東京ディスコナイト」を歌い、踊るファッショナブルなゴージャス感が堪らない。小泉今日子が90年代にカバー(『Bambinater』(1992年))し、和モノクラシックとして今なおクラブシーンで人気を誇るこの曲でザ・スクーターズを知った人も多いだろう。信藤は1982年のデビュー時から再結成以降もリーダーを務めていたのだ。
「音楽をこよなく愛していた人でした。ザ・スクーターズを遺してくれて感謝しています」とロニー・バリーが信藤の思い出を語り、橋本淳・筒美京平の黄金コンビが書き下ろした「HEY GIRL」をサンデーのサックスを交えながら、野宮&ビューティで歌った。「HEY GIRL」は、昨年の【野宮真貴、渋谷系歌謡曲を歌う。】でも披露され、この日にリリースされた平山みき&野宮真貴名義のシングル『アーティスト/ホットな地球よ』のボーナス・トラックにも収録。筒美京平、信藤三雄という稀代の才人を偲びつつ、ゴキゲンな60’sガールズグループ・スタイルのパフォーマンスをキメてくれた。さらに、「小西さんは若い頃から信藤さんにとても似ていた」というロニーの証言をはさんで、30年ぶりのオリジナル・アルバム『女は何度も勝負する』(2012年)に収録された小西康陽の作詞作曲による「かなしいうわさ」を披露。小西康陽がザ・スクーターズの大ファンであったことからピチカートのジャケットを信藤に依頼したというエピソードはのちの渋谷系につながるバタフライ・エフェクトだったのだ。<世界中に悲しい話があふれてる>という歌詞の一節がいま、とても沁みるけれど、ロニー嬢のパンチの効いた唯一無二の歌声がそんな憂いを吹き飛ばすように響き渡る。
ターバンがソウル・マナーにのっとった「ビューティー! ジャッキー! ココ! サンデー! ロニー・バリー! ザ・スクーターズ!」とメンバー紹介し、短いステージながら、いまなお東京で一番のパーティー・バンドの楽しさを伝え、ステージをあとにした。
大きなリボンがあしらわれた真紅のドレスにハートのヘッド・ドレスで再びステージに現れた野宮真貴はここで新しいバンドのメンバーを紹介。【渋谷系を歌う。】シリーズでビルボードライブのステージを続けて10年。11年目の今年の3都市ツアーはCorneliusバンドや様々なセッションで知られる堀江博久(key)をバンドリーダーに、TESTSETやQUBITで活躍中の永井聖一(g) 、原 “GEN” 秀樹(ds) 、村田シゲ(b)というフレッシュなメンバーで挑む。
このメンバーでの新境地も楽しみだが、永井のアコースティック・ギターでライブでは初めて歌うという「face B」は新鮮な驚きだった。1994年のピチカートのシングル『HAPPY SAD』のカップリングでオリジナル・アルバム未収録のレア曲ながら、<溶け出したチョコレート色のあふれるおもい>という歌詞をしっとり、ロマンチックに聴かせてくれた。
「ここで素敵なゲストをお呼びします。小山田圭吾くん!」
スペシャルゲストとしてアナウンスされていた小山田圭吾がステージに駆け上がる。1993年のピチカート・ファイヴのアルバム『ボサ・ノヴァ2001』の共同プロデュースを手がけたときは、まだCorneliusとしてデビューする直前だった。小山田圭吾がエレキ・シタールを弾きながら野宮とデュエットしたのは、同アルバムの収録曲「マジック・カーペット・ライド」。川勝の誕生パーティや昨年の信藤の追悼イベントでも披露された曲だが、公の場で二人が歌うのは初めて。ソフト・サイケデリックなアレンジとドリーミーな歌詞、そして二人のイノセントな歌声と相まって、観客を瞬時に夢見心地にさせる。30年の時を超えて、二人がこの曲を歌うミラクルをそこに居合わせた誰もが感じたに違いない。
「信藤さんの思い出といえば、『コマネチ』(笑)」と、小山田が在りし日の信藤のユーモラスな一面を話し、リラックスした雰囲気が漂うなか、「小山田くんともう1曲歌います」。それが「続きを」であった。2011年に小山田がsalyu × salyuに提供し、自身もセルフカバー(12inchシングル『変わる消える』収録)。二人が歌う曲をあれやこれや想像していたファンもいたと思うが、「続きを」には意表を突かれたのではないだろうか。どこか郷愁を誘う優しい歌声が印象的なこの曲を野宮との共演で聴けたのは貴重かつ至福だった。信藤がつないだ縁は思いがけない素敵な「続きを」を魅せてくれる。
小山田圭吾を見送ったあとはバレンタイン・デーにちなみ、ラブソングを2曲。「Portable Love」は、野宮真貴のデビュー40周年記念アルバム『New Beautiful』で80年代に野宮が活動していたポータブル・ロックの新曲として発表された。「マジック・カーペット・ライド」にも通じるマジカルな世界を表現。作詞は野宮自身が手がけている。
「信藤さんの言葉、『世の中で一番偉いのは音楽なんだよ』をいま、とても実感しています」とMCでその想いを語り、GLIM SPANKYの松尾レミが作詞作曲した「CANDY MOON」へ。ピチカート・ファイヴを聴いて育った世代がつくった愛らしい渋谷系サウンドをポップに響かせて、本編を締めくくった。
アンコールでは再びザ・スクーターズがオン・ステージ。小西康陽が生前の信藤にリクエストし、没後にリリースされたザ・スクーターズによる「東京は夜の七時」のカバーを野宮真貴とともに披露。黒いミニドレスにバービードールのようなヘアスタイルの野宮と白黒の市松模様の60’sルックのザ・スクーターズが歌う今宵のモータウン・スタイルの「東京は夜の七時」に観客も総立ち。ピチカート・ファイヴ×ザ・スクーターズの夢の共演が叶った、それは美しく、少し切なく、華やかな景色だった。
「ここでもう一度、小山田くんをお呼びしましょう」。小山田圭吾もステージに上がり、印象的なギターのカッティングが聞こえてきた。野宮真貴、ザ・スクーターズfeat.小山田圭吾でピチカート・ファイヴの「HAPPY SAD」が聴けるとは、ファン垂涎のうれしすぎるサプライズ! 最後は渋谷系ソウル・クラシックで大団円を迎えるというセットリストにオーディエンスもかつてないほど盛り上がり、一夜限りのステージを心ゆくまで堪能した。
【Valentine’s Day Live 2024 ~Be My Baby~】は、野宮真貴プレゼンツ、信藤三雄トリビュート・ライブだからこそ実現した“伝説の夜”だったのかもしれない。
「私の誕生日月の3月には、ドレスコーズの志磨遼平くんをゲストにお迎えするのでロックでグラマラスなステージをご期待ください」。
信藤三雄トリビュートは続く。「野宮さんは志磨くんと何か一緒にやったほうがいい」という信藤の言葉がきっかけで3月の大阪・東京公演ではこの初共演が実現する。ピチカート・ファイヴをリスペクトする志磨遼平と音楽の原点をロックに持つ野宮真貴が繰り広げる“伝説の夜”を再び。
Text by Kyoko Sano
Photo by Masanori Naruse
◎公演情報
【野宮真貴
Valentine’s Day Live 2024 ~Be My Baby~】
2024年2月14日(水)
神奈川・ビルボードライブ横浜
<メンバー>
野宮真貴(Vo.)
堀江博久(Key.)
永井聖一(Gt.)
原 “GEN” 秀樹(Dr.)
村田シゲ(Ba.)
Guest
ザ・スクーターズ
Special Guest
小山田圭吾
【野宮真貴
Birthday Live 2024 ~Glamorous Night~】
2024年3月9日(土)
大阪・ビルボードライブ大阪
1stステージ OPEN 15:30 / START 16:30
2ndステージ OPEN 18:30 / START 19:30
2024年3月12日(火)
東京・ビルボードライブ東京
1stステージ OPEN 17:00 / START 18:00
2ndステージ OPEN 20:00 / START 21:00
<メンバー>
野宮真貴(Vo.)
堀江博久(Key.)
永井聖一(Gt.)
原 “GEN” 秀樹(Dr.)
勝原大策 (Ba.)
Guest
志磨遼平(ドレスコーズ)
チケット:
サービスエリア 8,600円
カジュアルエリア 7,900円(1ドリンク付)
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