Eins:Vier主宰イベント『KATHARSIS 2023』のオフィシャルレポートが到着

2024年1月26日 / 12:00

12月23日(土)@赤羽ReNY alpha photo by Reiko Arakawa(zoisite) (okmusic UP's)

 志を貫徹することによって、やっと心願が成就したということになろうか。本来であれば2020年に開催されるはずだったEins:Vier主宰のイベントが、ここに来てようやく実現したことをまずはここにご報告したい。[Eins:Vier PRESENTS KATHARSIS 2023]と題され、昨年12月22(金)と23(土)に赤羽ReNY alphaにて行われたこの場では、Eins:Vierを含む計5バンドがそれぞれのアーティストらしい聴かせ方と見せ方をもって、さまざまなタイプのカタルシスを生み出していくことになったのだった。(注:カタルシス=演劇・文学・音楽などの鑑賞により、受け手側の心中に鬱積している情緒が解放されたり、浄化されることを指す言葉。アリストテレスが『詩学』で解いた)
【DAY1:12月22日(金)】 ■ H.U.G ■

 かくして、第1夜の幕開けを飾ったのは2023年6月に1stアルバム『HELIOS』を発表し、その存在を広く知らしめることになったH.U.G。

 コンポーザーとしても優れた才を持つギタリスト・Karyu(ex.D’ESPAIRSRAY~Angelo)が、多彩な表現力を持つヴォーカリスト・ryo (ex. GULLET~ex.9GOATS BLACK OUT~HOLLOWGRAM)と、BUCK-TICKなども手掛ける敏腕マニピュレーター・横山和俊(YokodieS)のふたりを迎えて起ち上げたこのバンドは、昨年アルバムを出した後に初の全国ツアーも経験しており、言わば今がちょうどライヴバンドとして伸び盛りな時期に突入しているところでもある。

 アルバムの表題曲「HELIOS」からスタートした今宵のステージでは、Karyuとは別バンドでも一緒に活動してきたドラマー・TAKEO(PIERROT/Angelo)と、昨今さまざまな現場でも活躍する百戦錬磨のベーシスト・NAOKI(FANTASISTA/ex.Kagrra,)が脇を固める中、途中にはメンバー紹介などもまじえながら、初見のオーディエンスに対してもわかりやすいパフォーマンスを展開してくれていた印象が強い。

「実は、Eins:Vierが2018年に復活されて以降のアルバムや作品のデザインを、全部ではないですけど僕がさせてもらってます。2020年の時は違うバンドでこのイベントに参加を予定していて、今回はH.U.Gでの参加になりましたが、この場に一緒に出ることが出来てとっても嬉しいです!Eins:Vierさん、ありがとうございます!!」(ryo)

 リリース前の新曲にして既に完成度の高い洗練された雰囲気を放っていた「ロゼ」や、キャッチーなサビが映えた「HEART」、スケール感を漂わせた「SEEDS」と、限られた中でもやりきったライヴを提示してくれたH.U.Gは、今春に3月30日(土) の赤羽ReNY alpha公演まで続く[H.U.G TOUR 2024 -VERSE-]を控えているとのこと。スタートダッシュのフェーズを経て、さらに進み行くH.U.Gの今後にご注目あれ。
■ メリー ■

 習字、復活。いきなり何の話?と思われる方もいるであろうが、この日の2番手として登場したのはメリーで、メリーのライヴといえばヴォーカリスト・ガラがお立ち台がわりの学習机を使いながら、MCの代わりに即興習字のかたちで観衆に意思伝達する、というスタイルがかつてはひとつの定番だったのである。

 メリーは良い意味でアングラ志向、アマノジャク性質が強いバンドで、たとえば最新シングル『ユーモア』については90年代に一世を風靡した短冊型紙パッケージ8cmCD形態で敢えてのリリースをした、と音楽メディアなどで話題になったことが記憶に新しい。また、昨秋から始まって2月10日まで続く予定の[メリー 2023-2024 CONCEPT TOUR 「10」]に関しては、全国10ヵ所で毎公演ごとに異なるコンセプトのライヴを展開しているとのことで、ある意味この夜のステージでも彼らはコンセプチュアルに懐古的アプローチをみせてくれた、ということになるのかもしれない。

「たいだんで しゅうじみたい いわれたから」「アインスは ぜったいなので」「すみはいたら よしつぐさんに しばかれる」

 ちなみに、この“たいだん”とは今回のイベントに向けて企画された、各バンドのフロントマンを集めた対談のことを指す。そして、Yoshitsuguにシバかれると書きながらもガラは「不均衡キネマ」の前に今し方まで使っていた墨汁を一気飲みし、それを思い切りダラーッと吐いてみせることに。その瞬間、客席フロアからは「ホントに吐いちゃった!!」という驚きの色を含んだ歓声と悲鳴が湧きあがったが、そんなことはおかまいなしでガラが歌い出し、楽器隊は楽器隊で通常運行のまま演奏をしてみせる、というその姿はやはり相変わらず最高にクールでいてホットだなと感じた次第である。

 なお、ツアーファイナルとなる2月10日(土)の大阪club vijon公演は“メガネ限定GIG”というコンセプトになるそうなので、みなさまぜひともご準備のほどを。
■ Eins:Vier ■

 そして、こうした記念すべき[Eins:Vier PRESENTS KATHARSIS 2023]のDAY 1を、主宰者およびH.U.Gやメリーの先輩格として締めくくってくれたのは、もちろんEins:Vierの面々にほかならない。

 時を経てもまるで色あせることのない名曲「Dear Song」から始まり、そこはかとない高揚感の漂う曲調にあわせて観客たちがサビで手を挙げた「Not saved yet」と続いて、まずはHirofumiが以下のように挨拶の言葉を述べてみせる。

「ようこそ、[Eins:Vier PRESENTS KATHARSIS 2023]へ!来てくれて本当にどうもありがとう。いやー、H.U.Gもメリーもめっちゃノリノリで激しかったし、ほんまにえぇ感じやったね。そして、彼らのライヴを観てて思い出したわ。KATHARSISって、随分前に俺らが地元の大阪で主宰してやってたイベントなんですけれども、当時は5バンドくらい出てたんかな。時代的にも今以上に黒塗りの人たちがいっぱい出てて、みんなとても激しくて、凄いノリノリな中で最後に俺らがスーンと出て行って(笑)、遅いテンポの曲をなんとか踏ん張ってやってた、という感じでした。今日もなんとか踏ん張って最後までやるんで(笑)、楽しんでいってください。全力でいきますんで!!」(Hirofumi)

 確かに、Eins:Vierには爆速チューンのようなものは昔も今もない。デスボイスが入る系統の曲なども、さすがに彼らがやるのは想像しがたいところがある。だがしかし、Eins:VierにはEins:Vierにしか生み出せない世界が当然あり、その中にはEins:Vierならではの熱さを持った曲もあるのだ。そのひとつが、このMCの次に演奏されたアッパーチューン「Notice」。Yoshitsuguの紡ぎ出すエフェクティヴなギターフレーズに、Lunaの躍動するベースフレーズがからみ、サポートドラマー・岡本唯史の叩き出す律動を土台にして、Hirofumiがありったけの気持ちを込めて歌いあげていくさまは実にエモい。

 聴衆がリズムとシンクロしながらジャンプした「Both we and audience」から、濃密でカオスな空気が漂った「L.E.S.S.O.N」、そこから一転しての爽快感さえ感じる「AFTER」への流れも心地よいギャップがあり、結局どのようなタイプの楽曲であっても説得力を持たせながら聴かせることが出来るEins:Vierは、つくづく唯一無二の個性を持ったバンドだ、とこのライヴを通して我々は再確認することになった。その事実を後輩バンドたちにこの場で示せたのもまた、意義深いことだったに違いない。

「因縁の[Eins:Vier PRESENTS KATHARSIS 2023]というか、2020年の時は結局コロナで出来んかったからね。でも、遂にこうして実現しました。今日はH.U.Gさん、メリーさんに快く出演してただき、ありがとうございます」(Luna)

「最後に、今日出てくれたヴォーカリストふたりが僕たちの曲をセッションしてくれるということで、H.U.Gのryoとメリーのガラを呼びたいと思います」(Hirofumi)

「そして、もうひとり。今回のイベントに向けたインタビューで、ライターの人から「メリーにはめちゃめちゃEins:Vierのことが好きなメンバーがいるから、くれぐれも優しくしてあげてくださいね」って言われてんけど、俺いつでもむちゃくちゃ優しいっちゅうねん(笑)。では、その子も呼びましょう。メリー・テツ!」(Luna)

 この世代を超えてのアンコールセッションでは、Eins:Vierのライヴでもアンコールで演奏されることが多い「In your dream」を、レアなトリプルヴォーカルとメリー・テツのベース、というまたとない組み合わせで聴くことが出来た。そこにはリスペクトする側とされる側という立場の差をも超えた、深い音楽への愛がふんだんに織り込まれていたと確信する。ワンマンライヴとは一味違う、イベントならではの妙味がそこにはあった。
【DAY2:12月23日(土)】

 明けての第2夜。タイトル自体は前夜と同じ[Eins:Vier PRESENTS KATHARSIS 2023]であったものの、共演バンドがValentine D.C.とGargoyleの並びであったことを思うと、この日は実質“After ZERO祭り”だったと言えるのではなかろうか。

 念のために少し解説しておくと、After ZEROとは1989年に設立されたインディーズレーベル。その母体は今はなき大阪のライヴハウス・BAHAMAであり、Gargoyleが第1弾アーティストとしてアナログシングル『蠢[Ugomeki]』をリリースして以降、1990年にはEins:VierがサブレーベルのNeuroticから『Chaos Mode』を発表したり、1994年にはValentine D.Cも8cmCD『Deluxe Chocolate』を出したりもしていた。

 また、1991年に発売されたコンピレーションアルバム『Zeroism ・西方見聞録』には3バンドが揃い踏みすることにもなり、彼らは東京のシーンとは一線を画す関西のハイエナジーなムーヴメントを象徴するバンドたちとして、異彩を放っていたと言える。

 あれから30年以上の月日が経った今、もはやAfter ZEROもレーベルとしては現存していないものの、それでもここに3バンドが勢ぞろいしたことの意味は大きい。
■ Valentine D.C ■

 そんなAfter ZEROレーベルの中で言えば三男的なValentine D.Cは、そのポジションもあってか今夜のトッパーとして登壇。曲や詞に対してのノスタルジーは感じるとしても、あくまで聴こえてくるのは今まさに眼の前で演奏している彼らの放つ音であって、彼らは確かにバンドとしての力強い息吹をこのステージ上から場内へと届けてくれていた。

 彼らは1989年に始動し、その後インディーズシーンからメジャーへとフィールドを移すも、1999年に一度は解散。幾度かの限定復活を経つつ、2007年にはヴォーカリスト・Ken-ichiとベーシスト・JunのふたりでValentine D.Cとしての活動を再開したという経緯があるが、なんと今回のライヴについては実質的な“After ZERO祭り”であったことと、2024年に35周年を控えていることもあって、オリジナルメンバーとなるギタリスト・Naoyaとドラマー・Takeshiも参戦していたところが特筆すべき点だった。

「最初はこのイベント、2020年4月の予定だったんですよ。そこから3年が経っちゃっけど、でも良かった。Eins:Vierが「もういいや」となってたら、実現出来てなかったと思うんで。意地でもやるっていう姿勢で呼んでくれたんで、ほんとにありがたいなと思ってます。そして、こんな機会ってあんまりないからさ。Gargoyleも凄いし、Eins:Vierはもちろん素晴らしいし、Valentine D.Cだって凄いじゃないですか(笑)。君たちはこの素晴らしい日の目撃者になっているわけなので、楽しんで帰ってよ!」(Ken-ichi)

 聴きながらつい感極まってしまいそうになった名曲「カーテンコール」をはじめとして、Valentine D.Cの楽曲はどれも人肌な温度感を持ったものばかり。打ち込みなどを使うことなく、ひたすらに実直に誠実に聴かせて惹きつけるそのカッコ良さは現代にあってこそ光るものでもある。2月10日(土)には 高田馬場CLUB PHASEにて今回と同体制で[the 35th VDC -Show must GO ON] が開催されるとのことなので、往時の魅力に貫録といぶし銀の魅力までプラスされた今のValentine D.Cを、ぜひとも再び目撃されたし。
■ Gargoyle ■

 凄絶なる怪演、ここに極まれり。このたび2日間にわたって盛大に繰り広げられた[Eins:Vier PRESENTS KATHARSIS 2023]にあって、最も人並み外れた立ち居振る舞いを舞台上にて見せつけたのは、誰がなんと言おうともGargoyleだと断言したい。

 1987年に始動して以来、映画『魔界転生』の世界を地で行くような“人ならざるもの”に限りなく近い存在感を持つKIBAがフロントに立ち、ドラマティックでいて実は生々しさも持った歌詞と、まがまがしいほどのヘヴィなメタル系音像を呈してきたGargoyleは、日本の音楽シーンの中のどこにも属さない、良い意味で奇っ怪なアーティストとしてそろそろ40年近く走り続けてきたことになるかと思われる。

 ただし、近年はKIBAがひとりでGargoyleの看板を掲げているとのことで、普段はサポートメンバーを従えてのライヴ活動をしているそうだが、今回の実質的な“After ZERO祭り”はやはり特別だった。この場にはオリジナルメンバーでありKIBAにとっての盟友でもあるベーシスト・TOSHIがゲストとして登場し、アグレッシヴチューン「完全な毒を要求する」ではコール的マイクパフォーマンスにまでこぞって加勢してくれたのだ。

「今日はEins:VierとValentine D.Cに挟まれて、やって来ましたよ。どうもGargoyleです、よろしくお願いします!僕さっき楽屋で話してて「TOSHIくん、来年還暦なんやろ?」って言うたら「違う、再来年や!」と言ってたんですが(笑)、まぁ我々そのくらいのお歳ではありますよ?でも、元気いっぱいやらしてもらってまーす!」(KIBA)

 その言葉どおり、Gargoyleは曲調こそ多少の硬軟あれども、ラストの「DESTORY」まで一貫して熾烈で激烈なステージアクトを完遂。来る2月24日には1996年に初開催された伝説的メタルイベントの現代版[LIGHTNING&THUNDER 2024]が柏パルーザにて開催され、そこではPhantom Excaliver、SEX MACHINEGUNS、TOKYO YANKEESと共にGargoyleも名を連ねるそうだ。荒ぶる猛者どもは柏へいざ!
■ Eins:Vier ■

 さて。激辛カレーのあとに飲むラッシーのごとく、Gargoyleのあとに観るEins:Vierから、この夜いつもより癒やしの波動を多く感じたのは何も筆者だけではあるまい。それはどちらが良いとか好きとかの話はなく、激辛カレーは激辛カレーでヤミツキになるし、ラッシーはラッシーで何時飲んでも安心出来る味だよね、というような話に近いのかも。

 やわらかい気配をたたえたミッドチューン「Words for Mary」、ちょうどクリスマスを直前に控えていたタイミングにとても似合っていた冬の歌「街の灯」。この2曲を歌えたところではさまれたのは、Hirofumiのこの言葉。

「昨日は俺たちが直接知らない、俺たちより世代としては下の若いバンドたちと楽しい時間を過ごしました。今日は“仲間”と一緒にやりたいなと思って、みんなを呼んで集めたら“Zeroism(After ZEROレーベルのイベント)”になっちゃいました(笑)。何十年経っても関係性が崩れない、この人たちしかいないっていう感覚でつながれているみんなも含めた仲間たちと、この時間を過ごせているのって最高やなと思います。今日もハッピーで良い時間を過ごしていきましょう」(Hirofumi) 

 エッジーなYoshitsuguのギターワークと、Lunaの歌うようなベースラインが響きあう中で、Hirofumiによるストーリーテラー的なヴォーカリゼイションが映えた「Not saved yet」などを歌ったあとに、さらにMCでHirofumiが続けた言葉。これも、今回のライヴにおいては我々にとって相当に“沁みる”ものとなった気がする。

「みんなが元気で音楽を続けているからこそ、こういうイベントが出来るんやんなっていうことをあらためて感じてます。やっぱり、俺たちもそれなりに歳なんでね。でも、これは来てくれたみんなにも言えることやで。元気で俺たちに会いに来てくれて、ほんまにありがとうございます」(Hirofumi)

 ここでは具体名こそ出なかったものの、思えば昨年この世を去ったX JAPANのHEATHも、元来は関西のシーンで彼らと同時代に活動していた御仁。Hirofumiのみならず、この日に出演していた全メンバーとも、物思うところは多々あったことだろう。誰もどうしようも出来ないことであり、抗いようのないことだけに、彼らの心中は察するにあまりある。だからというのもあるのだろうか。本編最後に聴けた「In your dream」には、ただならぬ輝きと願いがこもっていたように感じた次第だ。

「絆を感じる盛り上がりですね。凄く“仲間”を感じます。Valentine D.Cさん、Gargoyleさん、ありがとうございました。今日は楽屋裏でも、みんなとめっちゃ盛り上がってるからね(笑)。楽しい1日でした。遠くない未来なのか、遠い未来なのかもしれんけど、またみんなと集まって、素敵なライヴが出来たら良いなと思ってます。ほんまにいつも支えてくれてありがとう。感謝してます!!」(Luna)

 DAY2のアンコールで、こう発言したのはLunaだが。KIBA、Ken-ichiが参加してHirofumiと共に「L.E.S.S.O.N」を歌った“Zeroismセッション”は場内を巻き込みながらのハイボルテージなテンションをマークし、結果的にダブルアンコールにまで発展。

「今日は仲間たちとの楽しい集いということで、最後は今回やってなかったこの曲をやろうと思います」(Hirofumi)

 [Eins:Vier PRESENTS KATHARSIS 2023]の主宰者として、彼らが単独で奏でだしたのは1990年にAfter ZEROのサブレーベル・Neuroticからリリースされた1stミニアルバム『Chaos Mode』の最後を飾っていた「I feel that she will come」。詞の中には〈いつ会えるとも知れぬあなたを待ち続ける〉という1節があり、それは解釈の仕方によっては未来を希求するものとして聴くことが出来たはず。

 志を貫徹しながら、やっと叶えた願いの次は何を夢見ようか。まずは何時の日かやってくるであろう、あらたなカタルシスの訪れを少し気長に待ち続けることとしよう。
photo by Reiko Arakawa(zoisite)

text by Yuki Sugie


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