LUNA SEAが創るサウンドの臨界点の、さらなる先を顕した大傑作『STYLE』

2023年11月29日 / 18:00

当サイトでもライヴレポートを掲載した通り、アルバム『MOTHER』と『STYLE』を再現するライヴ『LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023』を10月にスタートさせたLUNA SEA。11月29日、その『MOTHER』と『STYLE』のフルリテイクのセルフカバーアルバムがいよいよリリースされた。ともに1990年代邦楽ロックの名盤中の名盤であり、いわゆるビジュアル系バンドはもちろんのこと、のちのギターロックやパンク、J-ROCKにも影響を与えた作品。もしいずれかのアルバムがなかったとしたら、日本の音楽シーンは今とは形を変えていたに違いない。LUNA SEAの名盤は2015年に『MOTHER』を紹介しているので、今週は『STYLE』をピックアップする。
快進撃中に発表された決定打的作品

本作『STYLE』は1992年のメジャーデビューから2000年の終幕に至るまで──言わば20世紀のLUNA SEAが、最も乗りに乗っていた時期のアルバムであったことがひとつ言えると思う。1993年8月には初の単独武道館公演を行ない、翌1994年9月にリリースした4thシングル「TRUE BLUE」はチャート初登場1位となっており、『STYLE』以前からすでにブレイクを果たしていたのは間違いない。同年10月リリースの4thアルバム『MOTHER』もチャート初登場2位で、約70万枚の売り上げを記録した。しかしながら、LUNA SEAの天辺はまだ先にあった。1994年12月には追加公演を含めて日本武道館で3デイズのライヴを決行し、翌1995年3月17日からスタートした全国27か所31公演に及ぶ『LUNA SEA CONCERT TOUR 1995 MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE』も大成功のうちに終了。そののち、同年5月リリースのビデオクリップ集『ECLIPSE』が初登場1位となり、映像作品でもトップを獲得する。続く11月リリースの6thシングル「DESIRE」も当たり前のように初登場1位となった。そして、何と言っても、この1994年で忘れられないのは、12月23日に開催された初の東京ドームライヴ『LUNATIC TOKYO』である。チケットは即日SOLD OUTし、留まるところを知らないLUNA SEA人気を実感させられた。翌1995年3月に発売した7thシングル「END OF SORROW」も、もはやこの頃は定位置だったと言ってもいい初登場1位であった。快進撃がまったく止まらない中、満を持して同年4月に発表されたのが5th『STYLE』である。こちらも当然チャート初登場第1位。貫禄を見せつけた格好だった。

ちなみにその後も勢いは衰えることなく、同年7月リリースのライヴビデオ『LUNATIC TOKYO〜1995・12・23 TOKYO DOME〜』が初登場第1位で、8thシングル「IN SILENCE」は初登場第2位を記録(ここまで1位を続けてきたので、2位というと意外な気もするが、アルバム収録曲のシングルカットなので、この結果は相当に立派なものだ)。さらに、7月16日の横浜アリーナ2日間公演を皮切りに、全国9カ所16公演の全国アリーナツアー『LUNA SEA CONCERT TOUR 1996 UN ENDING STYLE』を決行し、間髪開けず、10月22日からは全国28カ所28公演の全国ホールツアー『UN ENDING STYLE ENCORE TOUR 1996 〜TO RISE』で日本国内を駆け巡った。

その後は、リアルタイムで当時のLUNA SEAを見ていたファンにとってはよくご存じの通り、12月の『UN ENDING STYLE TOUR FINAL Christmas STADIUM〜真冬の野外〜 in 横浜スタジアム』を終えて、1年間の充電期間に入る。充電の理由は、[Jによれば、7月からの全国ツアーが始まる頃に、メンバーでの話し合いが持たれ、「次のビジョンへ行くためには、一人ひとりのメンバーが力を付けて、新しいルナシーを作らなければダメ」であり、1997年を「みんなの自主トレーニングの期間にあてよう」という結論に至った]ということではあるが、こうしてLUNA SEAの歴史を振り返ってみると、個人的には“そりゃあ充電も止むなしだろう”とは思う([]はWikipediaからの引用)。1992年のメジャー以降、LUNA SEAはその活動のスピードを緩めることなく、突っ走ってきた。1994年頃からはギアがトップに入り、少なくともバンド勢の中には、その勢いに並ぶものはいなかったと言っても良かろう。“次のビジョン”“自主トレ”に充てたというのはそれはそうだったのだろうが、まずはひと息つくことも必要だったのだろうと、一般人としては邪推するところだ。
LUNA SEAらしさと実験性が同居

今、多くの人が感じるLUNA SEAらしさ。本作でそれは完成されていたと筆者は見る。何と言っても、先行リリースされていたシングル曲である。M8「END OF SORROW」とM9「DESIRE」。前者が1995年3月リリースの7thシングルがそれで、1995年11月リリースの6thシングルであることは前述の通り。ともにシンコペーションを多用したナンバー──まず、そこが何ともLUNA SEAらしい。先日、取材させてもらった某ビジュアル系バンドの音源に、これらと同様にシンコペーションを多用した楽曲があって、その辺を指摘すると、“僕の中ではLUNA SEAさんなど、いわゆるビジュアル系バンドの楽曲はシンコペーションなんですよ”と屈託なく話してくれた。彼らなりのリスペクトであり、オマージュがそこにはあった。LUNA SEAをビジュアル系とするかどうかは意見が分かれるかもしれないが、それは一旦脇に置いておくとして、30年近く経っても、後発のバンドがシンコペーションにLUNA SEAらしさを感じていたということは、それだけ楽曲の印象として強烈に印象付けられているということだろう。筆者も同じ想いである。いわゆる、喰ったリズムでグイグイと進んでいく楽曲は、最も勢いに乗っていたLUNA SEAを象徴するものと言える。

加えて言うと、イントロでモノローグが入るところや、サビの後半でブレイク(《あぁ トキメキ を…》《あぁ セツナサ を…》の箇所)、もっと言えば、そのブレイクの背後ではクリアトーンのギターのアルペジオが鳴っているところなども実に彼ららしい。ある意味で“けれん”と言ってもいいサウンドメイキングであり、今聴いても実にカッコ良い。「END OF SORROW」がシングルリリースされた時の某音専誌のインタビューでSUGIZOは、“無理してキャッチーに作ったわけでもないし、シングルを想定して作ったわけでもないし、曲の出来上がり方からアレンジまで、何から何まで本当に自然の状態でできた”と振り返っていた。この発言からは、メンバー自身も同曲に自分たちらしさを感じていたことが分かると思う。

そうした今もLUNA SEAらしさを感じるもの──言ってしまえば、“LUNA SEAメソッド”のあるナンバーだけでなく、縦横無尽に各音を折り重ねている楽曲を収録しているのが本作『STYLE』でもあろう。オープニングであるM1「WITH LOVE」からそれが表れている。アナログレコードのノイズから始まるロッカバラードではあって、オールドスクールなナンバーだと思って聴いていくと、まったくその範疇に収まらない楽曲であることが徐々に分かってくる仕様。ドラムは淡々としているし、ベースは個性的なフレーズではあるものの、そこまで突飛な演奏ではないと思われるが、その上に乗るギターは奔放としか言いようがない。インダストリアル的なノイジーさを見せたと思えば、深めのディレイがかかった独特の残響音を出し、かと思えば、間奏のソロはアコギが鳴らされ、さらには時にバイオリンも聴こえてくる。しかも、その奔放の背後では、堅実なサイドギターのアルペジオが鳴っている。それでいて、テンポは緩めで歌もゆったりとしているので、艶めかしさも併せ持つという──これは最大級の賛辞として述べるが、何とも奇妙、奇怪なロックチューンである。

そのM1とタイプは異なるものの、M4「RA-SE-N」もまた奇妙、奇怪なナンバーと言えると思う。サビだけ抽出するといわゆるオルタナに思える。しかし、事はそう簡単ではないのがLUNA SEAのLUNA SEAたる所以だろう。イントロからそこに至るまでのリズムが単純ではないのである。5/4拍子。よくあるロックナンバー的な感覚で聴いていくと、どこか“つんのめる”感覚があって、この楽曲がこの先どうなっていくのかと微妙に不安を覚えるような雰囲気すらある。後半では4/4拍子となり、開放感があるものの、ラストは再び5/4拍子となるので、不安感は拭えないままで楽曲は終わっていく。“「RA-SE-N」=螺旋”とは、実に上手いタイトルだと思う。1曲の中にしっかりとバンドが表現したかった世界観が広がっている。

M7「1999」もサウンドアプローチの実験性はM1に近いように思う。ほぼ全編を支配する性急ビートとサビのリフレインは、彼らがインディーズ時代からやってきたハードコアなサウンドを彷彿させるものだが、密集感だけに終始していないのは、当たり前のことながら、バンドの進化と深化を感じるところだろう。短い楽曲ながら、さまざまな音がそれとは分からないように散りばめられているようで、ヒップホップ的なアプローチもLUNA SEAというバンドに取り込まれるとこうなるという好例なのかもしれない。懐の深さが分かるM7でもある。
揺るぎなき5人のアンサンブル

『STYLE』はそれまでの“LUNA SEAメソッド”あり、実験性を増したナンバーありと、バンドのキャパシティが広がったことを示したアルバムである。それはそれで間違いがないところだと思う。だが、忘れてはいけないのは、LUNA SEAのベーシックは各メンバーが司る5つの音が折り重なって出来上がっているということであろう。前作以上に奔放になったサウンドメイキングにしても、決して他のメンバーをスポイルしていない。そこは本作の大きなポイントだと見る。M10「IN SILENCE」が分かりやすい。タイトルを直訳すれば“沈黙の中”、あるいは“静けさの中”だろう。イントロからアコギのストロークとクリアトーンのエレキのアルペジオが重なっていく。その音色はまさに静謐と言ってもいいと思う。《風は 笑う様に 砂を巻き上げた》《耳を澄ましても 波の音だけ》という歌詞にもマッチしている。しかしながら、バンドサウンドはそこだけに終始しない。1サビからリズム隊がドラマチックに入ってくる。ベースは他の楽曲に比べてかなり低音をキープしており、突出した感じはないものの、ジャングルビートと言ってもいいドラムが響き続ける。沈黙、静けさとは対極にあると言っていい躍動感がある。喧噪と言ってもいいかもしれない。タイトルだけから考えたら、ここまでドラムが強調される必要はなかろう。もしソロ作品であったらばこうはならなかったかもしれない。そう邪推したくなるほどに個性的ではある。だが、このドラミングがあることで、M10の世界観はさらに立体的に広がっていると思う。蛇足ながら、勝手に筆者が思うところを述べるならば、《憎んだ あの頃は》《目を凝らしても 答えなどない》から想像できる焦燥感、あるいは《そっと oh my heart 見つけたい》で垣間見えるわずかな前向きさを、ドラミングが後押ししているように感じられる。ひとつの情景だけで語ることができないものが、バンドサウンドであるからこそ表現されている。そんな気がしてならないのだ。

こうしたバンドアンサンブルの妙は、改めてそこに注目すると、全編にしっかりと宿っていることが確認出来る。シンプルな構成であるM2「G.」やM3「HURT」は当たり前のようにそれを感じるところだが(特にM3は初心者がコピーしたくなるような、ストレートなカッコ良さがある)、長尺のミッドチューン、M6「FOREVER & EVER」やM11「SELVES」でも、あくまでも5つの音があってLUNA SEAになるというかたちが如何なく発揮されているように思う。ともに外音──M6はストリングス、M11では鐘の音や逆再生サウンドが配されているものの、どちらもそこは変に強調されていない。そればかりか、バンドサウンドも抑制が効いているというか、変にテンションを上げることなく、緊張感を持続させているところが聴きどころであろう。何と言うか、どちらも“はい、バラードですよ!”みたいな下世話さがまるでないのだ。この辺りからは、バンドが成熟期に入っていたことを伺わせる。今になって思えば、この『STYLE』のあとで充電期間が必要だったというのも、これらのサウンドが証明していたのだろう。
TEXT:帆苅智之
アルバム『STYLE』
1995年発表作品

<収録曲>

1.WITH LOVE

2.G.

3.HURT

4.RA-SE-N

5.LUV U

6.FOREVER & EVER

7.1999

8.END OF SORROW

9.DESIRE

10.IN SILENCE

11.SELVES


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