【Editor's Talk Session】今月のテーマ:コロナ禍におけるアイドル運営の葛藤と秘策

2022年1月20日 / 10:00

Editor's Talk Session (okmusic UP's)

音楽に関するさまざなテーマを掲げて、編集部員がトークセッションを繰り広げる本企画。第26回目は東京を拠点にCANDY GO!GO!、アンダービースティーらを運営するONEtoONE Agency&RECORDSの岡部武志氏と、大阪を拠点にPOP TUNE GirlS、PANIC POP PARTYらの楽曲制作やマネジメントを行なっている株式会社SPIKeの西川佐登志氏をゲストに迎え、それぞれがコロナ禍の中で行動に移したことや、この2年間での地下アイドルシーンの変化を語ってもらった。
【座談会参加者】

■岡部武志(ONEtoONE Agency&RECORDS)

元バンドVo、MC。音楽事務所・レーベル運営をしつつ、2021年まで結婚式場演出会社も経営。BOØWYリスペクト。甘いもの好き。

■西川佐登志(株式会社SPIKe)

元バンドマン、アーティスト育成のためライヴハウス、レーベル、プロダクション、制作会社を運営。作曲もするがあまり好きではない(笑)。

■石田博嗣

大阪での音楽雑誌等の編集者を経て、music UP’s&OKMusicに関わるように。編集長だったり、ライターだったり、営業だったり、猫好きだったり…いろいろ。

■千々和香苗

学生の頃からライヴハウスで自主企画を行ない、実費でフリーマガジンを制作するなど手探りに活動し、現在はmusic UP’s&OKMusicにて奮闘中。

■岩田知大

音楽雑誌の編集、アニソンイベントの制作、アイドルの運営補佐、転職サイトの制作を経て、music UP’s&OKMusicの編集者へ。元バンドマンでアニメ好きの大阪人。
自分の経験を裏方として伝えて 夢を追う人たちの後押しになったら

千々和
「今回は東京を拠点にアイドル運営をされているONEtoONE Agency&RECORDSの岡部武志さんと、大阪を拠点にされている株式会社SPIKeの西川佐登志さんにご参加いただき、コロナ禍における地下アイドルのシーンの状況をおうかがいします。その前に、そもそもおふたりがアイドル運営を始めたきっかけは何だったのでしょうか?」
西川
「14年くらい前に今とは別のタレントプロダクションで音楽プロデューサーをやっていたんですけど、そこにアイドル志望の女の子がいて、僕がバンドマン時代にお世話になっていたライヴハウスでその子がライヴをしたいということをきっかけに、手助けする感じで運営をすることになったんです。そこから独立して作ったのが今の株式会社SPIKeで、現在は制作をはじめ、ライヴハウス、音楽プロダクション、レーベルをやっています。」
岡部
「私は今の事務所を立ち上げてから12年になるんですけど、もともとは群馬県にある結婚式場の運営や、ウエディングのプロデュース事業を20年ほどやっていたんです。そこでステージモデルや歌い手さんを東京から派遣していただいていたのですが、コスト削減のために東京に支店を出して、そこでモデルを募集するようになったんですよ。そしたら身長が低めの方からの応募も多かったので、その方たちにはモデルではなく歌唱をお願いしたんです。私も元バンドマンで音楽が好きなので、ステージ用の楽曲を制作したり、その延長で女の子たちが渋谷や新宿、池袋でライヴもするようになり、だんだん東京での事業のほうが楽しくなってきたので、本格的にアイドルの運営をするようになりました。」
千々和
「おふたりは今回が初対面ですが、元バンドマンという共通点がありますね。」
西川
「バンドをやっていた時には上京してCDも出していたんですけど、成功はしなかったんですよ。だから、自分の経験や知識を裏方として伝えることによって、夢を持っている人たちの後押しや目標への近道になればと思ってやっています。僕も楽曲は作ってますけど、現役でやっていた時とは目的が変わったので、曲のテイストがまったく違うんですね。もともと椎名林檎さんとCoccoさんを足してヘヴィロックで割ったような音楽をやっていたのが、今ではアイドルが歌いたいポップな曲や、お客さんが聴きたい曲を考えて作っています。」
千々和
「岡部さんが運営されているCANDY GO!GO!、Re:INCARNATIONはロックを前面に打ち出していますよね。」
岡部
「私がアイドル運営を始めた時は地下アイドルが流行る前で、ちょうどAKB48さんが有名になってきたくらいだったんですよ。お恥ずかしい話ですが、当時は“これから女性アイドルブームがくるかも?”くらいの気持ちで、それに乗っかるような感じで手を出したので、もちろんお客さんは増えないし、売上げにもならず、もう散々辛酸をなめましたね。そこで“もっとちゃんと考えないといけない”と思い直した時に、やっぱり自分が信じている音楽をやったほうがいいと思ったんです。バンドマン時代は同郷のBOØWYに近いビートロックをやっていたので、“80年代後半から90年代中盤の音楽を女の子が歌う”というコンセプトで仕切り直したら少しずつ観てもらえるようになって、徐々にそれが売りになっていきました。」
西川
「うちもサウンドはゴリゴリのロックなんですよ。やっぱりバンドサウンドで作るのが得意なので、生音に近い感じで作っています。今やっているPOP TUNE GirlSは名前に“ポップ”と入っていますが、グループ作る時に事務所のほうからファミコンのピコピコの音を入れたいという話があり、そういったピコピコ音は業界で“チップチューン”って言うというところから“ポップチューンガールズ”となったんですね。今は海外向けということも考えてカバー曲をやるにしても、意識してピコピコ音を入れてアレンジしています。」
千々和
「西川さんと岡部さんが裏方として支えているグループは、生歌を大事しているというのも共演点だと思います。」
岡部
「やっぱりライヴ感を大事にしたいんですよね。CANDY GO!GO!は1カ月に50本のライヴをやったこともありました。近年では生バンドでワンマンライヴをやったり、レコーディングも全部バンドに変えています。」
西川
「うちも口パクをやらせたことがなくて、最初から絶対に生歌なんですよ。アイドルとはいえ、大事なのは楽曲やと思うんです。まず前提としていい曲で、そこに運が重なって初めて売れるのかなと。最近ではPOP TUNE GirlSとPANIC POP PARTYの合同ユニット・ぱにぽぷちゅが台湾のオーディションで勝ち上がったんですけど、審査員の人に評価ポイントを訊いたら決め手は楽曲だったみたいです。」
岡部
「それは本当にそう思いますね。」
岩田
「今でこそ女性アイドルグループは星の数ほどありますけど、おふたりがおっしゃった生歌だったり、コンセプトなど、こだわりや一貫した軸を持っているアイドルが生き残っているように思います。」
西川
「バンドもそうですもんね。でも、サウンドはかなりこだわっていますけど、メロディーや歌詞は大衆性が重要なんですよ。多くの人に聴いてもらうには、芸術性を持っている人が大衆性に寄るのか、大衆性を表現できる人に芸術性を持たせるかのどちらかだと思うんですね。アイドルは基本的に大衆性が大前提だと思うので、そこにどう色をつけるのかっていうことを考えています。」
ステージスキルが上がった オーダーメイドライヴ

岩田
「2020年からのコロナ禍ではどんな打撃がありましたか? アイドルは特に収入源のひとつである特典会もできなくなってしまったと思いますが。」
西川
「うちが運営しているグループではCDの複数購入をさせていないんですね。売上げの中心はチェキなので、うちの会社の音楽部門はずっと赤字です。他の事業もやっていて、今はそこで黒になっているので、アイドルに投資していると思っています。ビルの1階がライヴハウスで、2階が楽屋、3階が事務所とスタジオ、4階がダンススタジオになっているんですけど、全グループ共通で本人たちが負担するのはこのビルまでの交通費だけで、それ以外は全部会社が出すようにしているから、もともと赤なんですけど。だから、“あぁ、赤やな”くらいの感覚でした。」
岩田
「特に身動きがとれなかった最初の緊急事態宣言中(2020年4〜5月)は、どのように活動されていましたか?」
西川
「全員休ませていました。でも、家にひとりでこもっていたら気持ちが病むじゃないですか。だから、スタジオを解放して、練習しなくてもいいから息抜きに来てもらっていましたね。あとは、メンバーそれぞれに短い歌詞を書かせて、Pocochaで配信しながら、その場で僕が曲を作るっていうのもやっていました。“西川、先に曲作ってるやろ!”と言われるのが嫌だったので、その場で本人にどんな曲にしたいか要望を訊きながら(笑)。で、曲を作ったらそのままレコーディングして、ハモリも入れ、修正もして全部で2時間くらいで完成させるっていうのを週に何回かやって、その様子を各々がTikTokにアップするっていう。バズらなかったけど、それは結構評判が良かったです。緊急事態宣言が明けてからは、自社のライヴハウスで感染対策をすると定員が11人だったので、11人のみのライヴを開催して、最前列から順にチケット代を変えてみたり。そうやってなんとか売上げを作ってやっていましたけど、出演者も会社の中だけでやっていたので、お客さんは減っていきましたね。代わり映えがしないから、やっぱり飽きてくるんですよ。それだとメンバーのモチベーションも下がってしまうので、途中からはMVばっかり作っていましたね。どうやったら本人たちのモチベーションを保ってあげられるかっていうのが、ずっと心配でした。」
岡部
「CANDY GO!GO!は収録したライヴを届けるサービスを始めたんですよ。注文してくれたお客さんが考えたセットリストでライヴを収録してお渡しするという、オーダーメイドライヴというもので、簡単に言うと顧客フォローに走りました。リードヴォーカルやフォーメーションも好きなようにオーダーができるので、ものすごい手間がかかったんですけど、400通りくらい撮りましたね。持ち曲も100曲くらいあるので、最初はメンバーからも大ブーイングで“こんなことできるわけない!”と言われたんですけど(笑)。生でライヴをやる機会が減ったぶん、ほぼ毎日ライヴ収録をしていました。あとは、通販にも力を入れて、これを機に注文から発注までを全部社内でやるようにしたんです。チェキは普段のライヴでは撮れないような私服とかコスプレにして、そこにサインやメッセージを書いたりと、その面倒なことをやっている感じが共感を得たのか、たくさん注文をいただいて、まさかの前年比アップという(笑)。」
千々和
「オーダーメイドライヴを始められた2020年夏頃にインタビューでメンバーのみなさんにお会いした時に、ものすごく元気というか、“すごく忙しいです!”という感じで活き活きしていたのを覚えています。」
岡部
「そうですね。大変だったんですけど、そのおかげでひとりひとりのステージスキルが上がったのは本当に良かったです。自分だけじゃなくて、他のメンバーがどういう動きをしているのかが分かるようになるので、オーダーメイドライヴは今も継続しています。なかなかライヴに来られないお客さんも楽しんでくれているのも嬉しいですね。なので、CDリリースも例年と変わらないペースでやっていたし、インストアライヴも店舗の方と相談してみたりと、いろいろ挑戦していました。」
西川
「僕の周りの成功例で言うと、配信ライヴオンリーに切り替えて、カメラを5台くらい使って、しっかりチームを組んだ状態で大きい会場を押さえているところもありました。今ではアイドルに会えるのが普通ですけど、昔ってテレビの向こう側の人だったじゃないですか。そこのグループは、いち早くクオリティーの高い配信ライヴに力を入れたから、お客さんがその感覚になってくれて、売上げも上がったみたいです。メンバーの意識も目の前のお客さんだけじゃなくて、その向こう側も意識するようにもなって。うちはライヴハウスを運営していることもあって、そういった距離感のところはうまく使えなかったんですけど。」
石田
「それぞれの持っている個性をどう活かせるかっていうところが、結局は重要になりましたよね。ライヴでのパフォーマンスや楽曲の良さ、MVのクオリティーとかも含めて、何でお客さんを惹きつけるのかって。」
岡部
「そうですね。最初にライヴができなくなった時は、接触できない中でいかに接触するかっていう、音楽よりもコミュニケーションで切り抜けていこうとするグループが多かったんですけど、なかなか難しかったみたいで。」
西川
「配信も最初は反響があるんですけど、だんだん同じ人ばっかりが観てくれているだけで、お客さんも飽きてしまうのでやめました。あと、1対1でタレントとお話しできるサービスとかも試してみました。確かに売上げは作れるけど、お客さんとアイドルの距離が近くなりすぎてしまうから、それはあまり良くないなと。それに、今まではライヴ会場まで行って、物販を買って、チェキを撮って、やっと少し話せるくらいだったのが、今ではスマートフォンでコメント打ったら反応してくれるじゃないですか。そこのバランスも難しいなと。」
岡部
「まったく同じ流れでうちもやめたんですよ。お客さんも疲弊してきちゃうんですよね。逆にお客さんが離れていってしまうので、先にメンバーから“これはやめましょう”と言われました。」
生の楽しさこそが ライヴに足を運ぶ意味

千々和
「とはいえ、今は感染拡大の状況によっては制限がある中でもライヴを開催したり、他グループとの共演もできるようになりましたね。」
西川
「今でも難しいと感じているのはサーキットイベントですね。うちは大阪が拠点なので、近場のライヴハウスだったらいいんですけど、遠征をした時は出番が終わった瞬間にお客さんがいなくなったりして、お客さん呼んでいるのがうちのグループくらいだったりするんですよ。遠征は時間もお金もかかるので、この状況では頻繁に行くのは当分難しいなと。」
岡部
「うちは多数の出演者がいるイベントには出ないようにしています。イベンターさんも大変な状況なので、物販を出すにも手数料がかかったり、コロナ禍以前とは条件がかなり変わっているんですよ。運営的なジャッジメントとしては、対バンイベントはあくまでプロモーション宣伝の一環として考えて、自主企画に他のグループを呼んだりして、なるべく自社で完結のできるものにしています。」
千々和
「バンドのライヴだと、そもそも人気がないとお客さんからの声出しってないんですよ。でも、アイドルのライヴでは200人キャパのライヴでも歓声やコールがあるので、声出しNGっていうのが特にお客さんの足が遠のく理由のひとつになっていると思います。」
西川
「状況を見つつではありますけど、自分の箱で主催する時はマスク2枚付けていたら声出しOKにしているので、“声出しできるなら行く”って来てくれる方もいますね。アクリル板も立ててやっているので、もちろんクラスターは起こっていないです。感染が広がるのって、だいたいが楽屋なんですよ。」
岡部
「そうですね。お客さんは入場時に体温を計って、アルコール消毒もしているのに、出演者や関係者の管理が甘いっていうのは目にするので、それで文句を言ったこともあります。その状態で楽屋の1フロアーに人が集まっちゃったら、もうダメですよね。うちは事務所の周りにライヴハウスがあるので、ライヴがある日は事務所内の部屋をメンバーの待機場所に使う時もあります。あと、そういった状況でクラスターを出したところがちゃんと公表をしないんですよ。それはフェアじゃないですよね。一時期はビジネスにも影響すると思いますけど、ちゃんと対応したほうがあとあとプラスになるのに。もっとひとりひとりが意識して行動していれば防げることがザルになっていて、そりゃお客さんも来なくなるよって思う時もあります。」
西川
「そこは自分たちだけが注意していても意味がないですからね。」
千々和
「お客さんが飽きてしまわないように工夫をしながら、自社で完結できる範囲での活動がメインになるわけですね。」
西川
「なので、今はライヴ力を上げることに集中しています。さっきも言った生歌の話にもなりますけど、ライヴに足を運ぶ意味っていうのは、やっぱり生の楽しさだと思うんですよ。」
岡部
「同感です。せっかくライヴが通常通りに再開できても、お客さんがいなかったら意味がないですからね。私たちは私たちが考えるコンセプトのものを作っていかないと生き残れないんじゃないかと思います。」
石田
「コロナ禍の中で切磋琢磨したからこそ、生き残るための方法が明確に見えましたね。」
岡部
「はい。横並びで同じようなイベントに出ていたグループが何組もなくなっているし、今もまだ油断ならない状況なので。ライヴの開催自体もそうですけど、きっとまたお客さんもライヴを控えるようになると思うんです。私も西川さんと同じ考えで、そうなると最終的にはグループのコンセプトや、楽曲の良さに戻ってくると思います。」
西川
「そうですよね。だから、僕たちは信じているものを作り続けます。」


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