『LOVE GOES ON…』の歌声を聴けば誰もが納得、DREAMS COME TRUEが愛され続けている理由

2019年7月17日 / 18:00

DREAMS COME TRUEが4年に1度開催しているグレイテストヒッツ・ライヴ『史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2019』が7月14日、埼玉・さいたまスーパーアリーナからスタートした。遅ればせながら、当コラムでも彼女らの過去作品にスポットを当ててみたい。今も根強い人気を誇る「うれしい!たのしい!大好き!」「未来予想図II」が収録された最初のヒットアルバム『LOVE GOES ON…』である。
ドリカムとは吉田美和なり

DREAMS COME TRUE(以下、ドリカム)の魅力とは何かと言えば、それはもう吉田美和(Vo)の魅力に他ならない。そう断言しても、それが決して中村正人(Ba)の存在を軽んじている発言ではないことは、生粋のドリカムファン(ベイビーズ?)には理解してもらえると思う。中村が“最初はバンドを組むのではなく、吉田のマネージャーになろうと思っていた”というのはファンの間では有名な話だと思うし、今も事あるごとに“自分は吉田の保護者”といった主旨の発言をしている。2002年までメンバーであった西川隆宏(Key)が“吉田のためなら何でもやる”とドリカムに参加したこともファンのよく知る話であろう。

また、これも中村の発言であるが、仮にふたりが仲違いすることになったとしても、そこで解散とはならず、中村が脱退するだけと彼自身が語ったことがある。氏曰く“吉田ひとりになってもドリカム”だという。これはテレビのバラエティー番組での発言だということだが、吉田美和の圧倒的な存在感を強烈に感じさせるひと言である(もちろん、この発言は逆説的にふたりの結び付きが強固であることの証左であろうし、仮の話にしても解散や脱退を公にできる中村の決意、その凄みも感じるところである)。

あと、これはソースが示せないので都市伝説の類い、与太話のひとつとして聞き流してもらって構わないのが、ずいぶん前にこんな話を聞いたことがある。プロデューサーだったかディレクターだったか忘れたけれども、その人とデビュー前のドリカムとの出会いの話だ。ある時、部下だったか知り合いだったかから“この女性シンガーを聴いてみてください”とデビュー前の吉田美和の歌が収められたデモテープを渡された。日々そうした売込みがとても多かったことに加えて、テープを渡された人がルックスを重視する人だったのか、その時たまたまアイドルの制作を考えていたかで、渡されたテープをすぐ聴かずに放っておいたという。しかしながら、“あのテープ、聴いてもらいましたか?”とあまりにもしつこく訊いてくるので、渋々、重い腰を上げた。“これで大したことがなかったらとっちめてやる”と思ったとか思ったとか、確かそんなふうに思っていたという話だったと思う。だが、1曲聴き終えてその人の表情が一変。紹介してくれた人に“この娘のルックスがどうであろうと、俺が手掛ける!”と豪語したそうである。かなりうろ覚えで恐縮だが、ドリカム、吉田美和がもともとすごかったことを示す話として忘れ得ない逸話である(もしかするとまったくの作り話である可能性も否めないので、それをご承知いただければ幸いです)。
1曲目から吉田の魅力がさく裂

吉田美和の圧倒的な歌唱力、メロディメーカーとしての資質、そして独特な歌詞世界を描く作家的才能は、早くから発揮されていたことは誰もが認めることであろうし、メンバー、スタッフもその言わば“吉田推し”を意識していたことは初期作品──今回取り上げる2ndアルバム『LOVE GOES ON…』からもはっきりと見て取れるところであろう。筆者は熱心にドリカムを聴いてきたわけではない、完全なる半可通であるが、オープニングM1「うれしい!たのしい!大好き! (‘EVERLASTING’ VERSION)」から本作が“吉田美和での一点突破”のアルバムであることはよく分かる。3rdシングル「うれしはずかし朝帰り」C/Wである「うれしい!たのしい!大好き!」は、本作収録にあたってレコーディングし直しており、コーラスの一部も変わっているそうだが、誰の目にも明らかなのはイントロ前の吉田のシャウトが加わっていることであろう。シングル収録版とのバージョン違いは別に珍しいことではないけれども、若干マニアックとも思えるソウルフルな歌唱をアルバムの冒頭も冒頭に持って来る辺り、どう考えても“まずこのヴォーカルを聴いてほしい”ということだと思う。

そもそも「うれしい!たのしい!大好き!」は吉田の歌唱を含むメロディーを重視した楽曲である。“本来のイントロ”という言い方でいいのかどうか分からないが、アルバム収録版では吉田のシャウトのあとでシンセが奏でるブラスっぽい部分のメロディーは、この楽曲のサビメロそのもので、サビをよりキャッチーに聴かせる常套手段を用いている。それにもかかわらず、別イントロ──しかも、メロディーというよりもヴォイスパフォーマンスに近いヴォーカルを収録している辺り、念押しというよりもほとんどダメ押し、止めを刺しにきているくらいの印象だ。下手にバンドらしさを重視したりすると、突飛なイントロを加えて蛇足も甚だしくなる恐れもある。誰とは言わないが、そういうケースがないわけでもない。「うれしい!たのしい!大好き!」はそうなっていないだけでなく、発表から30年経った今聴いても、これ以外にない大正解に思える。それは無論、吉田の素晴らしさもさることながら、彼女以外のメンバーの慧眼によるところとも言える。

そのM1「うれしい!たのしい!大好き!!」に続いては、シングルの表題作であるM2「うれしはずかし朝帰り」が、シングル曲らしくアルバム2曲目という位置に収まっている。C/Wであった「うれしい!たのしい!大好き!」が今やドリカムの代表曲のひとつとなっていることで若干影が薄い気もする「うれしはずかし朝帰り」であるが(あくまでも個人的には…です)、この頃の吉田の声質がそうであったのか、この歌唱にはどこか幼い印象があって、そこがとてもよい。以下のような歌詞がある。

《ショーウィンドウに映る姿 気にしながら/ちょっとむくんだまぶたを 右手で押さえる/人が見たら 朝帰りってわかるかしら/髪もイマイチきまってないし》《電車の中で思い出し笑い 人に見られて/赤い顔して 眠ったふり》(M2「うれしはずかし朝帰り」)。

文字面だけ見るとこちらのほうが赤面してしまうようなかわいらしい内容。嬉しさだけなら上滑りするだろうし、恥ずかしさだけならコミックソングだろう。ポップに歌われることで、まさに嬉しさと恥ずかしさがない交ぜになった感情を表現している点は実にお見事だ。それが少し幼い感じの吉田の歌唱が加味されることで味わいが増していると思う。ちなみにM6「自分勝手な夜」においても、特に後半のスキャット部分で少女っぽさの残る歌声を聴くことができるが、こちらは歌詞の内容がタイトル通りなので、共感できるかどうかは人それぞれのような気がする。
J-POPを代表する「未来予想図II」

M3「BIG MOUTHの逆襲」、M4「MEDICINE」は中村作曲のナンバーだが、この辺りからは中村のディレクション能力の確かさといったものがうかがえるような気がする。M3はファンキー、M4はややマイナー系と、同じソウルでもタイプは異なるものの、いずれも吉田のヴォーカリゼーションの特徴をよくとらえていると思う。「BIG MOUTHの逆襲」は言葉の乗せ方が洋楽的というか、ドリカムの中では音符に言葉が詰まっているタイプ。それゆえにか、フリーキーな歌唱も聴くことができる。個人的に注目したのは「MEDICINE」。吉田のハイトーンでの表現方法の素晴らしさは言うまでもないが、比較的低音域の落ち着いた感じの歌唱も彼女ならではものだ。のちのドリカムのヒット曲で言うと「やさしいキスをして」(2004年)辺りがそうであろうか。ポップさやエネルギッシュさとは別ベクトルの、かなりいい雰囲気を持っている。「MEDICINE」のサビ後半(さらに具体的に言えば、《これからあなたがめぐり会う/Same as me. 私と同じ名前に 出会うたびに》の《めぐり会う》と《私と同じ名前に》)がまさにそれ。確かな貫禄のようなものを感じさせる。実際に中村がどこまで意識していたのか分からないが、吉田の魅力を最大限に引き出すことを考えた末のことであったと想像できる。

それ以降、80年代風歌謡曲といった面持ちのM5「LAT.43°N〜forty-three degrees north latitude〜」。オフビートでダンサブルなM6「自分勝手な夜」。基本はポップチューンだが、ゴスペル調というか、ドゥーワップ調のイントロや、ややサイケデリックなサウンドも聴けるなど遊び心が感じられるM7「星空が映る海」。サンバのリズムのクリスマスソングM8「サンタと天使が笑う夜」。打ち込みによるずしりとしたリズムが効いたアルバムのタイトルチューンM9「LOVE GOES ON…」。そんなバラエティーに富んだ楽曲が連なる本作の果てには、7分を超える超大作M10「未来予想図II」が待っている。これまで数多くのアーティストにカバーされて、今やドリカムを代表する楽曲のみならず、平成を代表…いや、J-POPを代表する楽曲と言っても過言ではないナンバー。その旋律の優秀さは、もはや言うまでもなかろう。語りかけているような、または思い出をなぞる独り言かのようなメロディーラインは、世代を超えて多くの人たちに支持されてきた。

《私を降ろした後 角を曲がるまで見送ると/いつもブレーキランプ5回点滅/ア・イ・シ・テ・ルのサイン》《2人でバイクのメット 5回ぶつけたあの合図/サイン変わった今も 同じ気持ちで素直に愛してる》(M10「未来予想図II」)。

上記のフレーズもあまりにも有名だ。実生活でブレーキランプを5回点滅させている人はまずいないだろうが(「未来予想図II」が流行った時期にはわりといたような気もするが…)、しかもふたりだけが知る恋愛における幸福感の表現としては秀逸ではあろう。これがBメロというのもいい。ここで高まった感情がサビでさらに解放に向かうわけで、その構成にも吉田美和の優れた手法が垣間見れる。

《きっと何年たっても こうして変わらぬ気持ちで/過ごしてゆけるのね あなたとだから/ずっと心に描く未来予想図は/ほら思った通りにかなえられてく》(M10「未来予想図II」)。

《きっと》と《ずっと》をフレーズの頭に置く辺りも巧みである(楽譜的に見れば小節のお尻からシンコペーションで次小節へつながっているようである)。また、エレキギターは結構ノイジーだが、かと言って楽曲の雰囲気を損ねない程度にさりげなく入っているところとか、吉田の自ハモではなく、中村(だよね?)のハーモニーがアクセントになっているところとか、小技もピリリと効いている。問答無用の名曲であり、フィナーレを飾るに相応しい楽曲でもある。

聴けば聴くほどに、吉田美和の才能がさく裂していることがよく分かる『LOVE GOES ON…』。30年前の作品であるにもかかわらず、ここに収録されているM10「未来予想図II」もM1「うれしい!たのしい!大好き!」が今もなおファンに愛され続けていることがよく分かる、まさに名盤中の名盤である。
TEXT:帆苅智之
アルバム『LOVE GOES ON…』
1989年発表作品

<収録曲>

1.うれしい!たのしい!大好き! (‘EVERLASTING’ VERSION)

2.うれしはずかし朝帰り

3.BIG MOUTHの逆襲

4.MEDICINE

5.LAT.43°N〜forty-three degrees north latitude〜

6.自分勝手な夜

7.星空が映る海

8.サンタと天使が笑う夜

9.LOVE GOES ON…

10.未来予想図II


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