『マダムX』マドンナ(Album Review)

2019年6月17日 / 18:00

 1982年にシングル「エブリバディ」でデビューし、40年近いキャリアをもちながら未だ第一線で活躍し続ける、正真正銘の“ポップ・クイーン”マドンナ。本作は、2013年に発表した『レベル・ハート』から約4年振りとなる新作だが、これが通算14枚目のスタジオ・アルバムということには驚かされた。というのも、間髪あけず立て続けにアルバムを発表している印象があったから。

 先日、ニューヨーク・タイムズ・マガジンのインタビューで、女性記者に年齢のことをしつこく指摘したことに立腹していたマドンナだが、長いキャリアもさることながら、やはり「60歳」という年齢に触れずにいられない。もちろんネガティブに捉えたワケではなく、サウンド、ビジュアル、ダンス・パフォーマンスすべてが還暦とは思えない仕上がり、という意味で。常に新しい流行を取り入れ、批判を恐れない言動をし続ける姿勢には感服する。

 本作では、彼女の貫く生き方や考え方、人間としての権利・平等についてを、これまでの作品以上に、より鮮明に強調しているように思える。サウンド面でも、ラテンやレゲエ、アート・ポップにトラップと様々なジャンルを取り入れ、「人にも音楽にもラインを引かない」ことを主張した。昨年、4人の子どもと共にポルトガルの首都リスボンに移住したマドンナだが、そこでの生活もアルバム制作に大きく影響しているという。トータル・プロデュースは、『ミュージック』(2000年)以降のアルバムに携わってきたミルウェイズが担当。

 4月にリリースした1stシングル「メデジン」からして、その色が濃く出ている。同曲は、コロンビアのレゲトン・シンガー=マルーマをデュエット・パートナーに迎えた、この時季らしいカリブの風吹き抜けるラテン・ポップ。 両者とも終始リラックスしたボーカル・ワークで、サウンドとの相性も良く、聴き心地も最高。フックの「ワン・トゥ・チャ・チャ・チャ」が耳にこびりついて離れない。歌詞の中には、シンガーになることを夢見た頃のマドンナが登場し、キャリアを振り返るようなフレーズも登場する。マルーマとは、「ビッチ・アイム・ロカ」でも共演。この曲も「メデジン」の続編ともいえるラテン・ソングで、いずれも英語とスペイン語が織り交ざっている。

 アルバムの1週間前にリリースされた「ダーク・バレエ」は、 前編が遠くで響くピアノの奏が不気味さを演出するダーク・ポップ、後編がチャイコフスキーの「くるみ割り人形」をサンプリングしたバロック・ポップという斬新な創りで、トランスジェンダー・ラッパーのミッキー・ブランコが出演したミュージック・ビデオも衝撃だった。同曲は、ジャンヌ・ダルクにインスパイアされたとのことで、ビデオも彼女のストーリーに沿った内容になっている。ラストシーンでは、ミッキーによる「私はブラック、クィア、そしてHIV陽性者として生きている。でも、どんな侵略があろうと希望に勝ったものはない」というメッセージが表示され、メッセージにフィーチャーして欲しいということが伝わってくる。

 3曲目の「ゴッド・コントロール」も、前半がゴスペル風のコーラスを響かせるクリスチャン・ソング、後半は代表曲「ヴォーグ」(1990年)を彷彿させるラップを絡めたハウス・トラックという2部構成。トラヴィス・スコットやカニエ・ウェストなどのヒップホップ・アーティストを多数手掛ける、マイク・ディーンがプロデュースを担当していて、今どき珍しい6分超えの長編という本作最大の大ボリュームとなった。ラストはゴージャスなゴスペルのコーラスで締めくくっている。

 前月にリリースされた本作からの2ndシングル「フューチャー」は、米アトランタのヒップホップ・トリオ=ミーゴスのクエイヴォをゲストに、ディプロをプロデューサーに迎えたレゲエ・ソング。ディプロが手掛けた各ヒット曲やメジャー・レイザーの作品とはまた違う、フュージョン風の“オトナ系”レゲエで、マドンナの長いキャリアの中でも、聴くことのできなかったタイプの曲といえる。ポスト・マローンと組んだ「サンフラワー」が大ヒット中のスウェイ・リーとデュエットした「クレイヴ」も、良い意味で“マドンナらしさ”を取っ払った傑作。前述にもあるように歳のハナシはするべきではないが、御年60にしてトラップも難なく自分のモノにしてしまうあたり、さすが女王の業と言わざるを得ない。

 マーチング・バンドのようなドラムライン、アフリカン・ビートを取り入れた「バトゥーカ」では、ポルトガルやアフリカ音楽の要素、各国のアーティストたちによるボーカル、演奏を盛り込んでいる。たしかにリズムの刻み具合が細やかで、長い時間を要したという作業工程も納得できる完成度の高さだ。タイトルはパーカッションの名前なのだそう。その他にも、【第58回グラミー賞】で<年間最優秀プロデューサー>を受賞したジェフ・バスカーとの共作「エクストリーム・オクシデント」や、【リオデジャネイロ・オリンピック】の開会式でパフォーマンスした女性シンガー、アニッタとのデュエット曲「ファズ・ゴストーゾ」など、民族音楽やサンバといったワールド・ミュージックを取り入れたタイトルが目白押し。

 サウンドのみならず、歌詞にも一切の妥協を許さないマドンナ。本作の中でも特に難易度が高く、規模が大きいのが6曲目の「キラーズ・フー・アー・パーティーイング」だ。「同性愛者がやけどをするなら、私は同性愛者になる」というフレーズではじまるこの曲では、マイノリティや無意味に攻撃を受けている人種も、自分たちも皆同じと平等を強く訴えた。歌詞の中には、一部ポルトガル語も含まれている。ずっしり重たいサウンドも、このメッセージを理解すれば“ただの暗い曲”とは捉えないだろう。前作『レベル・ハート』でも活躍したジェイソン・エビガンとの共作「クレイジー」でも、大々的にポルトガル語が使われている。

 慈悲を神に祈る「ルッキング・フォー・マーシー」、「私が求めているのは平和だけ」とシンプルに訴える「カム・アライヴ」、悲劇に陥った人たちと立ち上がろうと歌う「アイ・ライズ」など、壮大なメッセージが込められたナンバーが続き、ちょっと一息つきたくなる瞬間もあるが、それだけメッセージ性に富んだ作品ともいえる。「アイ・ライズ」では、米フロリダ州高校銃撃事件の生存者、エマ・ゴンザレスさんのスピーチを引用し、すべての人に発言権を与えることを目的とした。

 90年代初期のハウス・ブームを彷彿させるダンス・トラック「アイ・ドント・サーチ・アイ・ファインド」もあるが、往年の“マドンナ節”は影を潜め、このテの音を期待していたファンには少しお茶を濁された感も否めない、かもしれない。たしかに『ミュージック』や『コンフェッションズ・オン・ア・ダンスフロア』のような華やかさには欠けるが、ブラック・ミュージックに特化した『ベッドタイム・ストーリーズ』や、メッセージ性の高い『アメリカン・ライフ』のような、時間を掛けて良さが評価される意欲作といえるだろう。大衆受けや好き嫌いは別として、ひとつの作品としては質が高く、コンセプトもしっかりしている。

 マドンナは、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”での首位獲得曲数が12曲、TOP10入りした曲数では、全アーティスト歴代最多の38曲という記録をもつ。アルバム・チャートでは、1983年のデビュー作『マドンナ』(最高8位)から前作『レベル・ハート』(最高2位)まで全14作のオリジナル・アルバムがTOP10入りし、うち8作がNo.1に輝いた。本作で、通算9枚目となる全米首位獲得となるか。チャート・アクションにも期待したいところだが、彼女ほどの域に達すると、もはや数字での評価も必要ない……か?

Text:本家一成


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