ヒューイ・&ザ・ニュースがアメリカのロック界を蘇らせた『スポーツ』

2017年3月24日 / 18:00

『Sports』(’83)/Huey Lewis & The News (okmusic UP's)

1980年代に突入するや否や、世界的にテクノやシンセポップの嵐が巻き起こり、打ち込みによるサウンドが日常的になってしまった。70年代のアメリカンロックやパンクロックの隆盛は陰りを見せ、気付いた時にはイギリスからの侵略が始まっていた。それがブリティッシュ・インヴェイジョン(第2次)であり、アメリカのヒットチャートはあっと言う間にイギリス勢が独占してしまった。確かにカルチャー・クラブ、デュラン・デュラン、ユーリズミックス、ハワード・ジョーンズ、ポール・ヤングなどが世界を席巻したが、当時はデジタル機器が生まれたばかりで、質がいまいちであったためにチャートは似たような音ばかりになってしまっていた。しかし、82年頃になると70年代前半に見られたアメリカンロックのような音作りが戻ってくる。その代表的なアーティストが今回紹介するヒューイ・ルイスであり、本作『スポーツ』は現在までに900万枚以上を売り上げる会心のヒット作となった。

マウスハープの魅力
僕はマウスハープ(要するにハーモニカ)という楽器が大好きで、ブルースをはじめ、ロック、フォーク、カントリーなどでマウスハープが登場する作品があれば、ついつい買ってしまう癖がある。中学生の頃から結構集めていたのだが、特に好きなのはリトル・ウォルター、ジェームズ・コットンらのブルース勢や、チャーリー・マッコイ、ミッキー・ラファエル、ノートン・バッファロー(彼はブルースもやる)らのカントリー系、R&Bのデルバート・マクリントン(彼はジョン・レノンに吹き方を教えている)、ジャズのトゥーツ・シールマンズなど、お気に入りのマウスハープ奏者はたくさんいる。
ある日、レコード店でカッコ良いマウスハープが聴こえてきた。マウスハープには目がない僕なので、すぐにそのレコードを買って帰ったのだが、それはクローバーというサンフランシスコのロックグループであった。そのアルバムは当時、日本ではリリースされてなくて輸入盤だったけれど、内容が良くて結構愛聴していた。そのアルバムでマウスハープ&ヴォーカルを演奏していたのがヒューイ・ルイスという男で、その時ロック系にも良い奏者がいるのだと知った。実はこのクローバーには、後にドゥービーブラザーズに加入する凄腕ギタリストのジョン・マクフィー(矢沢永吉のバックも長く務めた)が在籍していたし、エルヴィス・コステロのデビュー作であり名盤の『マイ・エイム・イズ・トゥルー』(‘77)のバックを務めていたのも彼らなのである。結局、ジョン・マクフィーがドゥービーに引き抜かれクローバーは解散、ヒューイ・ルイスは残されたメンバー数人とともにヒューイ・ルイス&ザ・ニュースを結成することになる。

ヒューイ・ルイスの音楽
80年代に入り、第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンの波が押し寄せ、冒頭で述べたようにブリティッシュ勢がアメリカや日本のチャートの上位に入るのが当たり前になっていた中、スタートしたばかりのMTVで70sアメリカンロックのようなビデオが流れていたのが82年のこと。ジョン・クーガー・メレンキャンプであった。骨太のしわがれた声と人力演奏による彼のシンプルなアメリカンロック・テイストは、シンセポップばかりの耳に心地良さが残った。
それから1年もしない間に、70年代のようなアメリカンロックが増えていった。ジョン・クーガー・メレンキャンプをはじめ、ZZ・トップ、ブルース・スプリングスティーン(彼は70sロックの生き残り派だ…)、スティーヴィー・レイ・ヴォーン(デビッド・ボウイのアルバムに起用されデビューしたブルースマン)、カナダのブライアン・アダムスなどが登場し、ブリティッシュ・インヴェイジョンはあっけなく終焉を迎える。そして、ジョン・クーガーやスプリングスティーンらと同じようなアメリカンロック・スタイルの「Do You Believe In Love」(‘82)がMTVでかかるようになったが、画面を観て驚いた。ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースとなっていたからだ。クローバー解散後、5〜6年が経過してリリースした最初のヒットとなる。ヒューイ・ルイスのことなんてすっかり忘れていたから、慌てて調べてみたら、この曲はザ・ニュースとしての2枚目のアルバム『Picture This』(’82)に収録されていること、デビュー作『ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース』は80年にリリースされていたがまったく売れなかったことなどを知った。
そんなわけで、ザ・ニュースのアルバム2枚をゲットして聴いてみたのだが、ルイスの天真爛漫なしわがれ声と人力演奏が心地良いアメリカンロックであった。クローバー時代と違うのは、収録曲がポップであることとシンセを適度に使用していることである。さすがに70年代そのままのアメリカンロックでは80年代には通用しないと考えたのだろう。そして、その柔軟さが80年代にザ・ニュースのブレイクへとつながることになるのである。

本作『スポーツ』について
ザ・ニュースは1曲目の「ハート・オブ・ロックンロール」(全米チャート6位)からロックンロールで爽快に飛ばす。“元祖アメリカンロック”と言いたいところだが、シンセのピコピコ音も入っていて時代に媚びる姿が頼もしい(これ嫌味じゃなくて良い意味だからね)。曲の後半では名マウスハープ奏者の面目躍如たるプレイが聴けるし、それまでにないアメロク感が素晴らしいのだ。このスタイルは、ヴァン・ヘイレンやボン・ジョヴィらに相当な影響を与えたのではないかと思う。
他にもハードな「ハート・アンド・ソウル」(全米1位)や、映画『ゴーストバスターズ』で使われ大ヒットしたタイトル曲の元ネタとして知られる「アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ」(全米6位)、ロッカバラード「いつも夢見て(原題:(If This Is It))(全米6位)など痛快なアメリカンロックがぎっしり詰まっている。最後を締め括る曲はクローバー時代の盟友ジョン・マクフィーを迎えて、ハンク・ウィリアムスのカントリーナンバー「ホンキー・トンク・ブルース」をロックンロール・スタイルでカバーしている。若者からおじさんたちにも受けようという魂胆がみえみえだが、笑顔で演奏している姿が目に浮かぶような、楽しい作品に仕上がっている。
このアルバムは全米1位に輝き、そしてこの後、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(‘85)の音楽を担当する大役を任され、主題歌の「パワー・オブ・ラブ」が爆発的に大ヒット、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースはアメリカを代表するロックグループとなるのである。結局『スポーツ』は前述の映画のヒットもあって、83〜85年までの長きにわたってチャート内にとどまるロングセラーとなる。もし彼らの音楽を聴いたことがないなら、元気が出ることは間違いないので、ぜひ聴いてみてください。


関連ニュースRELATED NEWS

音楽ニュースMUSIC NEWS

平野紫耀、2年ぶり出演「ムヒシリーズ」新TVCMが放映開始&メイキング映像も公開

J-POP2024年5月7日

 平野紫耀(Number_i)がイメージキャラクターとして2年ぶりに出演する、池田模範堂「ムヒシリーズ」新TVCMの放映がスタートした。  「僕らの夏は、液体ムヒS。」篇では、地元に帰省する“お兄ちゃん”を演じ、麦わら帽子に虫かご、虫捕り網 … 続きを読む

<ライブレポート>りりあ。、等身大の歌で届けた初ワンマン Aru.(ミテイノハナシ)とのデュエットも披露

J-POP2024年5月7日

 りりあ。が初の単独ライブ【First OneMan Live「記録の記憶」】を4月29日、東京・青山月見ル君想フにて開催した。これまで配信ライブや限られたイベントにのみ出演してきたりりあ。だが、彼女が人前に出て本格的なライブを実施するのは … 続きを読む

エド・シーラン、“最初はあまり好きではなかった”『X』収録曲とは?

洋楽2024年5月7日

 「Thinking Out Loud」「Don’t」「Sing」などのヒット曲を生み出し、大成功を収めたエド・シーランの2ndアルバム『X(マルティプライ)』のリリースから10年が経った。  現地時間2024年5月2日、ロサン … 続きを読む

ラナ・デル・レイ、キャリア初となる米単独スタジアム公演を発表

洋楽2024年5月7日

 ラナ・デル・レイによる音楽フェスのヘッドライン・ステージを観たことがあるなら、彼女が多くのオーディエンスを魅了できるのは知っているだろう。そんな彼女が、現地時間2024年6月20日に米ボストンの象徴的なフェンウェイ・パークにて、アメリカで … 続きを読む

【米ビルボード・ソング・チャート】テイラー・スウィフト×ポスト・マローン首位キープ、トミー・リッチマン/シャブージー初TOP10入り

洋楽2024年5月7日

 テイラー・スウィフトの「フォートナイト feat. ポスト・マローン」が2週目の首位を獲得した、今週の米ビルボード・ソング・チャート。  先週(2024年5月4日付)自身12曲目、初登場としては通算7曲目の1位を獲得した「フォートナイト」 … 続きを読む

Willfriends

page top