【週末映画コラム】異民族が暮らすロンドンを舞台に描いたラブストーリー『きっと、それは愛じゃない』/映画好きなら思わずニヤリとさせられる『枯れ葉』

2023年12月15日 / 07:00

『枯れ葉』(12月15日公開)

(C)Sputnik Photo: Malla Hukkanen

 フィンランドの首都ヘルシンキ。理不尽な理由で失業したアンサ(アルマ・ポウスティ)と、酒に溺れながらも工事現場で働くホラッパ(ユッシ・バタネン)は、カラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま引かれ合う。しかし不運な偶然と過酷な現実が邪魔をして、なかなか2人を交わらせない。

 フィンランドの名匠アキ・カウリスマキが5年ぶりにメガホンを取り、孤独を抱えながら生きる男女の出会いを描いたラブストーリー。ヤンネ・フーティアイネン(ホラッパの同僚役が傑作)、ヌップ・コイブが共演。今年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した。

 カウリスマキ監督による『パラダイスの夕暮れ』(86)『真夜中の虹』(88)『マッチ工場の少女』(90)の労働者3部作に連なる4作目に当たり、適度なユーモアと皮肉を交えながら、厳しい生活の中でも生きる喜びと誇りを失わずにいる労働者たちの日常を映し出す。ラジオから頻繁に流れるウクライナ情勢がアクセントになる。81分の小品の佳作。

 興味深かったのは、映画に関するネタだった。2人が一緒に見た映画はジム・ジャームッシュのゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』(19)。映画館から出てきた観客の1人が「(ロベール・)ブレッソンの『田舎司祭の日記』(51)のようだった」と言うと、もう一人が「いや、(ジャン・リュック・)ゴダールの『はなればなれに』(64)のようだ」と応じる。

 また、ホラッパがアンサの電話番号のメモを落とし、なかなか会えない2人が、1人で所在なく映画館の前にたたずむシーンは、背景のポスターが次々に替わって面白い。

 例えば、デビッド・リーンの『逢びき』(45)、ドン・シーゲルの『殺人者たち』(64)、ゴダールの『気狂いピエロ』(65)、ジャン・ピエール・メルビルの『仁義』(70)、ジョン・ヒューストンの『ゴングなき戦い』(72)、フー・マンチュー、ブリジッド・バルドー、恐竜もの…。

 そしてアンサの犬の名前はチャップリンで、ラストシーンは『モダン・タイムス』(36)を思わせる。これらはカウリスマキの趣味を反映したものだろうが、映画好きなら思わずニヤリとさせられる。

(田中雄二)

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