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余命わずかなシングルファーザーと息子の新しい家族探しの旅を描く『いつかの君にもわかること』/人食いの若者たちの愛と葛藤を描く『ボーンズ アンド オール』【映画コラム】

『いつかの君にもわかること』(2月17日公開)

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 窓拭き清掃員として働きながら、4歳の息子マイケル(ダニエル・ラモント)を男手一つで育てる33歳のジョン(ジェームズ・ノートン)。不治の病に侵され余命宣告を受けた彼は、養子縁組の手続きを行い、自分が亡き後に息子が一緒に暮らせる“新しい親”を探し始める。

 理想的な家族を求めて何組もの里親候補と面会するが、息子の未来を左右する重大な決断を前に、ジョンは迷う。それでも、献身的なソーシャルワーカーの助けもあり、何とか息子にとって最良の選択をしようとするのだが…。

 監督・脚本は、『おみおくりの作法』(13・昨年日本で『アイ・アム まきもと』としてリメークされた)のウベルト・パゾリーニ。余命わずかなシングルファーザーが息子の新しい家族探しに奔走する姿を、実話を基に描いたヒューマンドラマだ。

 パゾリーニ監督は、「『おみおくりの作法』は、ある記事から発想を得て、孤独、生と死、人と人とのつながりについての普遍的な問題が含まれていると感じた」と語っていたが、今回も同様に、ある記事から想を得たという。

 また、パゾリーニ監督は、日本の著名な映画監督である小津安二郎を敬愛し、「小津の映画は、たとえば描き方は柔らかく、物静かであっても、テーマをパワフルに伝えることはできると教えてくれた」と語るように、今回も過度の泣かせや感動の押し売りがなく、細かい描写を積み重ねながら淡々と描いているところが印象に残る。

 それでいて、ジョンの息子への愛の深さ、死と向かい合う姿を、ノートンと子役のラモントの好演を通して見ていると、何とも切なくて、やるせない気持ちになってくるのだから、パゾリーニ監督の演出力の高さは本物だ。

 また、ジョンとマイケルは、さまざまなタイプの里親候補の中から、一体誰を選ぶのかというところにも興味が湧くが、『おみおくりの作法』同様、温かい終わり方をみせるところに、この監督の優しさがにじみ出ていると感じさせられた。

『ボーンズ アンド オール』(2月17日公開)

(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

 人を食べたいという衝動を抑えられない18歳の少女マレン(テイラー・ラッセル)は、同じ秘密を抱える青年リー(ティモシー・シャラメ)と出会う。

 自らの存在を無条件で受け入れてくれる相手を初めて見つけた2人は次第に引かれ合うが、同族は絶対に食べないと語る謎の男サリー(マーク・ライランス)の出現をきっかけに、危険な逃避行を迫られる。

 『君の名前で僕を呼んで』(17)のルカ・グァダニーノ監督とシャラメが再びタッグを組み、人食いの若者たちの愛と葛藤を描く。

 第79回ベネチア国際映画祭では、グァダニーノ監督が銀獅子賞(最優秀監督賞)、ラッセルがマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞したが、アメリカでは宗教的な問題もあり、賛否両論が飛び交っているという。

 カニバリズム(人食い)を、マイノリティーや差別、行き場のない者たちのメタファーとして描いているのは分かるのだが、自分は人食いの場面や血の洪水の生々しさが生理的に駄目だった。ところが、試写室の隣の席の女性は泣いていた。これは究極の愛を描いているのか、それとも、げてものの類いに入るのか…。いずれにせよ、評価や好悪は大きく分かれると思う。

 また、これは吸血鬼やゾンビとも違う新手のホラーと呼ぶべきなのかとも思ったが、この映画を見ると、「食べちゃいたいぐらいかわいい」とか「骨まで愛して」などという愛の言葉が、不気味に感じられたりして、ちょっとおかしな気分になる。

 ただ、全米各地を転々とする行き場のない男女の逃避行の様子は、1970年代のニューシネマのロードムービーをほうふつとさせるところがあったのだが、今時は単なる逃避行を描くだけでは成立しないのか…とも思わされた。

(田中雄二)