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NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。10月20日に放送された第四十回「君を置きて」では、一条天皇(塩野瑛久)の譲位を受け、東宮の座を巡る争い繰り広げられた。
体調を崩し、自らの死期を悟った一条天皇は、居貞親王(木村達成)への譲位を決断。ここで問題となったのが、居貞親王が天皇に即位することで空席となる次の東宮に、誰がなるかだった。第一皇子の敦康親王(片岡千之助)を希望する一条天皇に対して、道長は自らの孫にあたる第二皇子の敦成親王(濱田碧生)を推す。
この両者の争いの中で、一条天皇から「敦成親王を東宮に」との言葉を引き出し、道長に勝利をもたらしたのが、藤原行成(渡辺大知)だった。行成は「もはや己のために望むものはない。ただ一つ、望むのは敦康を東宮に。どうかそなたから、左大臣に」と懇願する一条天皇に、文徳天皇の第四皇子だった清和天皇が即位した前例を引き合いに出し、「敦康親王さまを東宮とすること、左大臣さまは承知なさるまいと思われます」と反論。敦成親王を東宮にする承諾を得る。
見応えある一条天皇と行成の駆け引きだったが、そこに厚みを加えていたのが、行成の過去の言動だ。
その一つが、第三十六回「待ち望まれた日」で、中宮・彰子(見上愛)が身ごもった際のやりとりだ。道長を囲んで「生まれてくる子が皇子だったら、どうなるか…」という会話が繰り広げられる中、行成は「これまでのならいによれば、居貞親王さまのあとは、帝の一の宮、敦康親王さまが東宮になられるのが道理にございます」と正論を語る。さらに、藤原公任(町田啓太)から「敦康さまの後見は道長だが、もし道長が後見をやめたら、どうなる?」と問われ、「そのようなことを、道長さまがなさるはずはございません」と断言していた。
この言葉を行成は完全に覆したわけだが、それによって道長に対する忠誠心が一層強く印象付けられた。そして、道長に対する行成の忠誠心を裏付ける過去の言動が、もう一つあった。それは、第二十八回「一帝二后」でのことだ。
愛する定子(高畑充希)が傷つくことを恐れ、一度は承諾した彰子の立后を渋る一条天皇に対し、行成は「一天万乗の君たる帝が、下々の者と同じ心持ちで、妻を思うことなぞ、あってはなりませぬ」とそれまでになく強い態度で迫り、彰子の立后を決断させる。
今回の行成の言動は、このときと重なって見え、より説得力が増していた。普段は生真面目で規則を重んじ、立場や身分をわきまえた言動をとりながらも、親友でもある道長への忠誠心は、時にそれを上回る。そんな人柄に基づく言動をここまで積み重ねてきたからこそ、この回、次の東宮を巡って一条天皇に決断を迫る場面が一層強く印象に残った。
回を重ねることで深みが増す大河ドラマの魅力を象徴した行成の言動だったといえるのではないだろうか。この回はほかにも、かつては「おおせのままに」としか言えなかった彰子が、父・道長に強い口調で反論する場面や、かつての主人公・まひろ(吉高由里子)と直秀(毎熊克哉)を思わせるまひろの娘・賢子(南沙良)と双寿丸(伊藤健太郎)の出会いなど、ドラマの積み重ねで深みを増す大河ドラマらしい見どころが凝縮されていた。これから終盤に向かう中、さらに深みを増したドラマが見られることを期待したい。
(井上健一)