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「どうする家康」第22回「設楽原の戦い」物語を動かす織田信長の圧倒的な存在感【大河ドラマコラム】

 「信康よ、なぜここに来たのかと聞いたな。教えてやる。俺は、武田を追い払いに来たわけでも、長篠を救いに来たわけでもない。武田を滅ぼしに来たんじゃ。よう見ておれ。これからの戦を」

 NHKで放送中の大河ドラマ「どうする家康」。6月11日に放送された第22回「設楽原の戦い」では、織田・徳川連合軍と武田軍が激突した“設楽原の戦い”が描かれた。

織田信長役の岡田准一 (C)NHK

 前回、織田信長(岡田准一)は、臣従を拒む主人公・徳川家康(松本潤)と一触即発の状態に陥りながらも、家康の妻・瀬名(有村架純)の機転で、武田に包囲された徳川方の長篠城への援軍を約束した。

 ところが、設楽原に布陣した後、武田軍を兵力で圧倒しているにも関わらず、一向に攻撃する気配を見せない。

 その様子にしびれを切らした家康たちが進言に行ったところ、信長は言葉巧みに、鳶ヶ巣山(とびがすやま)にある武田軍のとりでに危険な奇襲攻撃を仕掛けるよう、家康たちを誘導する。

 これをきっかけに、両軍は動き始める。そして、徳川方の奇襲攻撃が成功すると、逃げ道をふさがれた武田軍は、当主・勝頼(眞栄田郷敦)の決断により、織田・徳川軍に向けて突撃を敢行。

 これを迎え撃つ信長は、用意していた三千丁もの鉄砲を使って武田軍に壊滅的な打撃を与える…。冒頭に引用したのは、このとき信長が家康の息子・松平信康(細田佳央太)に向けて放った言葉だ。

 以上が合戦のあらましだが、戦場描写のすさまじさや演じる岡田の重厚なたたずまいも効果的で、合戦に革命をもたらした信長の飛び抜けた才能を強く印象付ける結果となった。

 番組公式サイトの登場人物紹介にある「さまざまな常識を覆し、常人離れした思考回路を持ち革新的な戦術を生み出していく孤独なカリスマ」という人物像をそのまま表現したような回だった。

 だが、今回を改めて振り返ってみると、ここまでで信長が登場したシーンはそれほど多くない。家康たちが鳶ヶ巣山のとりでへの奇襲を進言した場面と、鉄砲隊に武田軍の迎撃を命じた場面を中心に、わずか5シーンのみ。にもかかわらず、その存在感は圧倒的で、敵味方双方を思い通りに動かし、合戦の行方を支配してしまった。

 しかも、「武田を滅ぼしに来たんじゃ」と語った通りの大勝利を手にしただけでなく、それが家康に力の差を思い知らせ、臣従を受け入れさせることにもつながった。

 さらに信長は、この後、自分の娘で信康の妻・五徳(久保史緒里)に徳川家の監視を命じ、合戦を繰り返すことになった信康を精神的に追い込むなど、物語にいくつもの転機をもたらした。

 ことあるごとに「どうすりゃええんじゃ!」と悩む家康に比べると、最小限の行動で物語を大きく動かす信長の有無を言わせぬ存在感は際立っている。

 これまでも信長は、「鷹狩り」と称して家康を呼び寄せて謀反人の存在を伝え(第7回)、姉川の戦いでは浅井軍への攻撃をためらう徳川軍に銃弾を撃ち込んで決断を迫る(第15回)など、たびたび家康に行動を促し、物語を動かす役回りを担ってきた。

 これから“本能寺の変”に向け、その存在はますます大きくなっていくに違いない。信長がいかに物語を動かし、その中で家康はどう立ち回っていくのか。その行方を期待して待ちたい。

(井上健一)

徳川家康役の松本潤 (C)NHK