【コラム】英雄か、裏切り者か アメリカ政府を敵に回した男を描いた映画『スノーデン』 

2017年1月31日 / 14:48

『スノーデン』(C)2016 SACHA, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『スノーデン』(C)2016 SACHA, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 内部告発。仕事を取るか、自分の考える“正義”を取るか。その“正義”は多くの人の“正義”に成り得るか? 仕事が好きで、熱意をもって働いてきていればなおさら、そういう立場立たされた時の苦悩は想像を絶する。しかもその目的が「テロを防ぐため」だったら? アメリカで、政府を敵に回してその一歩を踏み出した人がいた。エドワード・スノーデン。彼を描いた映画『スノーデン』が公開されている。

 インターネット内での対テロリストのセキュリティー任務を任されたスノーデン(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)は「世界を変える手助けがしたい」という信念と熱意に燃える若者だった。だが、仕事を始めて分かったことは、世界中のメール、SNS、通話を、米国政府が監視していたということ。“危険人物”だけではなく、一般人の生活も、勝手にのぞき込まれていたという事実だった。

 国民が「自由より安全を望んでいる」なら、これも許容範囲と考えることができるのか…。悩んだ末に、暴露を決断するスノーデン。ストーリーは、子細な描写をのぞけば、報道されている通りで、事前に何を読んでいても大筋のネタばれはない。

 だが、どんなにストーリーが分かっていても、この作品を見る価値があるのは、状況が現在進行形だからだ。一つは、今まさに自分の前にあるコンピューターの、向こう側にある世界への視点。もう一つは、人の顔を持たない、“国家”という概念とどう向き合うか、という思考。そして最後に、テロのような形ある恐怖を前にした時にも、冷静な判断力を維持することの大切さを、20世紀の経験から学んだか否か、だ。

 テロへの恐怖は今や、移民や難民の入国を制限するドナルド・トランプによる米大統領令に姿を変えて、世界を混乱に陥れている。移民や難民に対する激しい議論で分断された各国の苦悩を見ていると、まるでテロリストの狙いが達成されたようにさえ見える。

 作品の中で、スノーデンが事実を暴露する前、忸怩(じくじ)たる思いを抱えつつ、同僚たちと酒を酌み交わす場面が印象的だ。そこで語られたのは、第2次大戦後にナチスを裁いたニュルンベルク裁判の話だ。指揮官だけでなく、手を下した個人は処罰されたという話にうつむく彼ら。自らの信念や善悪の判断と「違う」と思いつつ、上に従うことの是非。それは、従順に従ったことが、悲劇につながったアドルフ・アイヒマンの姿をほうふつとさせる。時代が変わっても、個人の信念と“全体の意思”の齟齬(そご)を埋める方法は、簡単には見つからない。

 スノーデンの行為が是か非か、この作品では語られない。各人がそれを考えることこそが、この映画の価値かもしれない。(軍司弘子)


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