Album Review:2作目で見せてくれた珠玉のメロディを追い続けるノエル・ギャラガーの姿

2015年2月28日 / 17:00

 ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズの2作目となるアルバム『Chasing Yesterday』が、この2月25日に全世界に先駆けて日本で発売された。タイトルからして唸らされる、一点の曇りも無いノエル節に満ちた傑作アルバムである。セルフ・タイトルのデビュー・アルバムがUK1位と好セールス&高評価を博してから約3年半。希代のソングライターによる新章は、我々に一体何を見せてくれるのだろうか。

 初のソロ・アルバムを発表した直後、ノエルはもうひとつのアルバム製作に取り組んでいた。それは彼の同郷・英マンチェスター出身のグループであるアモルファス・アンドロジナス(ザ・フューチャー・サウンド・オブ・ロンドンの変名ユニット)とのコラボレーション作品となるはずだったのだが、当初2012年リリースとアナウンスされていたこのアルバムは、残念ながら製作中止となってしまった。そちらに収録される予定だった楽曲がどれだけ今回の『Chasing Yesterday』で日の目を見たのか、或いはすべてお蔵入りとなったのか、今となっては分からない。ただひとつだけ言えるのは、オアシスを離脱(結果的にバンドは解散)したノエルは、もの凄い勢いで新たな創作活動に打ち込んでいたということだ。

 人気グループを脱退、或いは解散したアーティストたちの多くがそうだったように、ノエルもデビュー作やツアーが好評を博す一方で、オアシス再結成を求める声を浴び続けて来た。『Chasing Yesterday』は、そんな声に対するノエルからの回答のようなアルバムである。まるでロード・ムーヴィーのように人生の逃避行を描いたデビュー・アルバムの、その終わりのない旅の続きを語り出すように、「Riverman」で新作は幕を開ける。離別や、決して楽なものには成り得ない人生を受け入れて歩を進める、重厚なロック・チューン。ただしそこには、あのノエル・ギャラガーの芯の強いメロディが鳴り響いている。

 新作からのリード・シングルとなった「In the Heat of Moment」は、長い人生の一場面に巻き起こる興奮を<お前が隣にいてくれるって分かってる>と歌い、<Na Na Na…>という人々の盛大な歌声を誘うナンバーだ。「Lock All the Doors」は燃え上がるようにセクシーな情熱を鳴らす、アルバム中でも1、2を争う豪快なロックンロールであり、続く「The Dying of the Light」もロマンチックな一夜の情景を浮かび上がらせるグッド・メロディの1曲となっている。そして、多重コーラスやピアノ、ホーン風のサウンドが織り成すサイケデリック・アレンジが秀逸な「The Right Staff」が起点となって、アルバムは怒濤の後半へと傾れ込んでゆく。

 痛みを引き摺りながらも勇壮に響く「While the Song Remains the Same」の中で、ノエルは<俺たちは過去に捕われながら(chasing yesterday)、怒りの中で愛を見失ってしまうんだ>と歌っている。アルバム・タイトルにも引用されているこのフレーズこそ、孤独な旅を続けるノエルの現状報告と言えるだろう。ここで思い出されるのは、オアシス時代以降もノエルが歌い続けて来た名曲「Don’t look Back in Anger」だ。取り返しのつかない過去を率直に受け入れ、心の空隙を珠玉のメロディで埋め尽くしてやろうとすること。ノエル・ギャラガーはその点で一貫している。「While the Song Remains the Same」は過去に捕われたすべての人々に対するメッセージでもあるし、もちろん珠玉のメロディ(例えばザ・ビートルズの「Yesterday」)を追い続けるノエル自身の歌でもある。

 そして「Ballad of the Mighty I」が、弛まぬ探求精神と決意に満ちながらまた新しい一歩を踏み出すノエル・ギャラガーの背中を描き出すように、アルバム本編を締め括る。ノエルはその曲で<俺がこの大地を一人孤独に歩く者なら、必ずお前を見つけてやるさ>と歌っている。この4月には、全国5か所7公演のジャパン・ツアーも予定されている。彼が珠玉のメロディを求めて旅する限り、我々は何度でも、彼に出逢うのだろう。

Text:小池宏和

◎リリース情報
『Chasing Yesterday』
2015/02/25 RELEASE
<初回生産限定盤2CD>SICP-4395~6 2,900円(tax out.)
<通常盤>SICP-4397 2,400円(tax out.)


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