ギヴィオン、深みのある低音ボイスとほろ苦い歌世界で日本のファンを魅了した特別な一夜

2026年1月23日 / 17:00

 【第68回グラミー賞】の〈最優秀R&Bアルバム賞〉にもノミネートされているギヴィオンが初単独来日公演を2026年1月21日に東京・豊洲PITで開催した。

 「みんなに伝えたいのは、自分が歌う曲は全て実話と本物の感情に基づいているってこと。ひとりの人間について書いた曲ばかりだったのが、いつの間にか誰かがそれらをこんなにも大きくして……」と、筆者の記憶が正しければショーの途中でそんな話をしていたギヴィオン。そう話す喋り声のままの深いバリトン・ヴォイスで失恋をテーマにしたバラードを歌うR&Bシンガーだ。悲壮感と情熱が綯い交ぜになった、鬱屈としながらも包容力のあるスケールの大きいヴォーカル。心痛を歌で表現させたら、今この人の右に出る者はいないのではないか、と思う。

 2025年にリリースした最新作『BELOVED』(2作目のフルアルバム)では、ストリングスやホーン、エレキシタールなどを用いたリッチなサウンドでクラシック・ソウルのフィーリングを感じさせる懐かしくも新しいR&Bを歌唱。ジャスティン・ビーバー「Peaches」への客演も含めると過去に7度の【グラミー賞】ノミネートを誇るが、来る【第68回グラミー賞】でも『BELOVED』が〈最優秀R&Bアルバム〉にノミネートされている。その最新作にちなんだ【DEAR BELOVED THE TOUR】のアジア編、韓国はソウルでの2公演に続いて東京で行われた初来日公演は、まさに上昇気流に乗る中で実現した。

 会場の豊洲PITには、今年2月で31歳になるギヴィオンと同世代か、それよりも若い世代と思われるファンが多く詰めかけていた。開演時間の19時ぴったりにスタイリッシュなブラックスーツで固めた演奏陣が登場。ギヴィオンの語りを交えたドラマティックなイントロに導かれ、ストリングスの音色も艶やかな「MUD」でショーはスタートした。丈長のファーコートを着てステージに現れたギヴィオンは、70年代の(映画ジャンルの)ブラックスプロイテーションに出てくるピンプを思わせ、それを真似た往時のソウルシンガーのようにも見える。深いバリトン・ヴォイスは音源で聴く以上に迫力があり、バリトンだがオペラのテノールにも通じる芯の強さと張りがある。

 「MUD」で始まり、アル・グリーンへのオマージュを感じさせる「RATHER BE」へと続く流れは『BELOVED』序盤の展開と同じ。その後、簡単な挨拶を挟んで歌ったのは「The Beach」。カリフォルニアのロングビーチで荒廃した地区に育った彼が裕福な地域で育ったガールフレンドに地元のダークサイドを見せる歌で、ここでは自身の出自を伝える曲として自己紹介的に歌ったのかもしれない。「Still Your Best」を歌い終えたところで少しインターバルがあったが、今回のショーは3パート(Act 1~3)で構成。Act 1は挨拶がわりのコーナーだったのだろう。

 Act 2は、アイザック・ヘイズ版の「The Look Of Love」をバックで流し、「恋をしながら多くのことを学んだ」と話すモノローグのような曲解説を前置きに「BACKUP PLAN」で始まった。このパートではバックコーラスのふたりとギタリストとともに椅子に腰掛け、ネイト・フォーリーのアコースティック・ギターを伴奏にしたメドレーも披露。サンファの声に間違われたというエピソードも懐かしいドレイクとの共演(客演)曲「Chicago Freestyle」、1stアルバム『Give Or Take』からの「dec 11th」をそれぞれ東京ヴァージョンにして歌い、「Lost Me」で着地したこのメドレーは本公演屈指の見せ場だったはず。

 最新作からのバラード「DON’T LEAVE」、1st EPからの「Favorite Mistake」を丁寧に歌い、再び最新作からアルバムの曲順通りに「STRANGERS」と「NUMB」を続けて歌った頃には、すっかりギヴィオンの失恋物語に引き込まれていた。『BELOVED』の着想源のひとつだと思われるテディ・ペンダーグラス「Love T.K.O.」の演奏をバックにしたトークから滲み出る色気と粋には“ソウル・スタイリスト”という言葉も浮かぶ。思えば、80年前後のフィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ作品に通じる雰囲気を纏った『BELOVED』も、アルバムカバーにおけるスーツの生地や背景の色合いなどが「Love T.K.O.」を収録したテディのアルバム『TP』(80年)を強く連想させた。そうして最新作のムーディーな音世界に誘う中、2018年に自主リリースしたデビュー・シングル「Garden Kisses」を披露したことで、彼の音楽的なコンセプトが初期から一貫していることも伝わってきた。

 「Garden Kisses」ではデナード・ワトソンの流麗な鍵盤ソロも披露されたが、最終パート(Act 3)に入る前、ギヴィオンはバンドへの歓声をオーディエンスに求めた。今回のツアーバンドは、キーボード、ドラム、ベース、ギターに、ふたりのバックコーラスからなる6人編成。大半のメンバーは昨年12月に公開された「Tiny Desk Concert」でもギヴィオンをサポートしていた。なかでも目立っていたのが、ドラムのジョージ“スパンキー”マッカーディー。ジル・スコットとの仕事やレディー・ガガのツアーでも知られるフィラデルフィアの敏腕ドラマーで、高速のタム回しなどで強靭なグルーヴを生み出す、いわゆるゴスペル・チョップスで知られる彼が随所でその超絶テクニックを披露する姿に目を奪われる。

 「DIAMONDS FOR YOUR PAIN」から「KEEPER」へと、これまた最新作の流れに沿って披露された2曲もテディ・ペンダーグラスやオージェイズが歌っていたフィリーソウルのバラードやスロウジャムを彷彿させ、それはまるでゆっくりと燃える炎の如し。そこから初期のヒット「Like I Want You」をエモーショナルに歌い上げて大きな炎になるような展開も見事。サビでオーディエンスが合唱したこれは、初めての全国ヒットになった曲としても忘れ難い。

 以降も「Stuck On You」「AVALANCHE」「Are You Even Real」とファンにはお馴染みのナンバーが続き、曲のストーリーを前置きにして歌った「I CAN TELL」、「For Tonight」のバラードで静かにクライマックスへ上り詰めていく。そして、観客にスマホのフラッシュライト点灯を呼びかけて歌い始めたのが『BELOVED』最大の人気曲「TWENTIES」。30歳の誕生日直前に発表したこれは、「20代の半分(6年間)を君に捧げた自分はいったい何だったのか……」と後悔の気持ちを綴ったバラード。感傷的だが、それでいてロマンティックな気分にもさせるギヴィオンの美点を詰め込んだこの曲を歌い終えて稀代のバリトン・クルーナーはステージを去った。が、“あの曲”をまだやっていないことに誰もが気づいている。「Heartbreak Anniversary」だ。“失恋(の痛みを思い出す)記念日“を謳って名声を確立したこれは、ギヴィオンのシンガーとしての出世記念としても語り継がれていくはずのバラード。彼のビタースウィートな歌世界を象徴するこの名曲をワイングラス片手にオーディエンスとのシンガロングで盛り上げ、去り際にファンのサインに応じ続ける姿には、すっかりスーパースターの風格が漂っていた。

 ダンスもしなければ、派手な演出もなし。強いて言えばバンドメンバーのシルエットを浮かび上がらせ、コーラスのカムリ・ジャクソンとの、ジェイムズ・ブラウンのマントショウを思わせる寸劇が挿まれた程度。90分のショーをバラードとスロウジャムだけで熱狂させることができるのはギヴィオンの“歌ぢから”あってこそだろう。クラシックなソウル/R&Bのフィーリングやエナジーを新しいものとして現代に呼び起こすとはこういうことなのだと、そのお手本を示してくれたようなステージ。そこにはソウルレジェンドの継承者といった気負いもなく、まったく新しい存在として自分の世代のソウルを歌うという心意気に溢れていた。

 “ギヴィオン以降”と呼びたくなる若手シンガーも続出している昨今。今後はギヴィオンが後進たちのロールモデルとなっていくのではないかと、今回の公演を見て改めて思った。

Text by 林剛
Photos by Kazumichi Kokei


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