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今年8月から開催されてきた、マカロニえんぴつのオフィシャルファンサイト『OKKAKE』会員限定ツアー【マカロックツアーvol.20 ~むしろウチらが追っかける!愛を掴んでホールドオン篇~】が、9月24日・25日にわたって東京・Zepp DiverCityで開催された東京公演で幕を下ろした。僕が観たのは24日の公演で、そこでマカロニえんぴつは、普段はあまり披露しないような、はっとり(Vo/Gt)曰く「オタクな曲」たちをたくさん含んだ全22曲を披露。濃密な熱気と、清々しく幸福な空気に包まれたライブだった。そこに広がっていた景色は、たとえばこの日も演奏された新曲「いつか何もない世界で」の歌詞のように、美しくて尊かった。まっさらな世界の真ん中でキスをして、踊り明かす恋人たちのように。思えば、「静かな海」に「いつか何もない世界で」と、最近のマカロニえんぴつの曲の世界観には静けさや空白が歌われる。その静けさは、悲しみでもあるし、安心でもあるのだろうと思う。そういう場所から立ち上がってくる騒々しいロックが、今の僕らにはとても大切なものなのだ。
ザ・ビートルズの「Hey Bulldog」がSEで流れる中、マカロニえんぴつタオルを掲げた田辺由明(Gt)がまずはステージに登場。続けて長谷川大喜(Key)が、さらにこちらもタオルを掲げた高野賢也(Ba)がステージに上がる。そして、サポートの高浦 “suzzy” 充孝(Dr)も登場。この日のMCではっとりは、高浦のドラムを讃え、「普段はあまりいう機会がないけど……」と、感謝を述べていた。最後に、はっとりがステージに姿を現し、観客たちの歓声が一層大きくなる。はっとりはいつも、ステージに上がるとしばらく観客たちを覗き込むように見る。この日もそうで、彼はステージの前方を歩きながら観客たちを見つめて、その体温を感じているようだ。「生きてるかい?」「生きてるよ」――演奏が始まる前から、そんなコミュニケーションがバンドと聴き手の間に生まれているような感じがする。
ライブは「OKKAKE」でスタート。エネルギッシュな演奏に観客たちのクラップも重なり、初っ端から大きな盛り上がり。続けて10年前にリリースされた『エイチビー』収録の「サウンドオブサイレン」、さらに「眺めがいいね」へと演奏は続く。はっとりは、この日MCで何度か「本能」という言葉を使った。「本能剥き出しで楽しんでくれ」と。もしかしたら、人によってこれは乱暴な言葉に聞こえるかもしれない。でも、前にインタビューをしたときに、はっとりが「マカロニえんぴつの音楽を聴いている人たちは、きっと繊細な人たちだ」というようなことを言っていたことがある。そんな聴き手との繋がりと信頼があるから、はっとりは「本能」という言葉を使うのだろう。
高野の饒舌なMCに続いて始まった高野作の「イランイラン」、マカロニえんぴつというバンドの旨味と遊び心が濃縮したようなハード寸劇サウナロック「TONTTU」、癒しと覚悟が混ざり合う温かな空気感に包まれた「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」――激しさも、笑いも涙も生き様もある、つまり「生きてる」ってことのたくさんの表情が、生き生きと音楽になって鳴り響いている、そんなマカロニえんぴつの空間。
「恋人ごっこ」で生まれた合唱、「月へ行こう」で広がった夜空を少しずつ浮上していくような絶景、「春の嵐」や「八月の陽炎」も、歌に込められた心象風景が目の前に広がるようだ。「然らば」から「洗濯機と君とラヂオ」、「哀しみロック」、そして盛大な一体感が生まれた「ワンドリンク別」へとなだれ込んだ後半の必殺アッパーチューンの畳み掛けで、会場は最大級の沸点に到達する。最近体を鍛えているらしい田辺のマッスルポーズも、はっとりのロックスターポーズも忘れがたい景色である(思えば、やたらにポージングが多いバンドである)。
この日は、バンド初期の美しい楽曲「enough」も披露された。事務所移籍前の宙ぶらりんだった時期に知り合いに録音してもらったというこの曲を演奏する前に、はっとりはこんなふうに言った――「しんどいんだけど、取り憑かれた以上はロックバンドというものに呪われていくぞって、覚悟だけはあったんだけど……自分は何者にもなれていないような気がして。でも、こういうときに書いた歌って、今の自分にはないものをたくさん持っていたりするんです。実は『足りないものだらけだ』と思っていたときこそ、十分、満ち足りていたのかもしれない。この曲には、そういうタイトルが付いていました」。
ライブは最後、「静かな海」と「ヤングアダルト」を演奏して締め括られた。どちらの曲でもバンドの演奏に、観客たちの歌声が、お互いを温め合うように重なった。「静かな海」を演奏する前に、はっとりはこう言った、「見えない手で、一生懸命に手を繋ごうと、お互いに手を伸ばしている……そんな気持ちです」。自分の悲しみを産声のように叫んでいたロックバンドは、いつしか、「あなたの悲しみを僕に教えてくれ」と、そんなふうに聴き手に語り掛けるロックバンドになった。今の時代にマカロニえんぴつがいてよかったと、そう思うライブだった。
Text by 天野史彬
Photo by 酒井ダイスケ
◎公演情報
【マカロックツアーvol.20 ~むしろウチらが追っかける!愛を掴んでホールドオン篇~】
2025年8月31日(日)北海道・Zepp Sapporo
2025年9月8日(月)大阪・Zepp Osaka Bayside
2025年9月9日(火)大阪・Zepp Osaka Bayside
2025年9月11日(木)福岡・Zepp Fukuoka
2025年9月16日(火)愛知・Zepp Nagoya
2025年9月17日(水)愛知・Zepp Nagoya
2025年9月24日(水)東京・Zepp DiverCity
2025年9月25日(木)東京・Zepp DiverCity
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