<ライブレポート>CLAN QUEEN、問いかけ続ける“自分らしさ”――2ndツアー【NEBULA】で描いた内省の旅、その先の肯定

2025年9月2日 / 19:00

 CLAN QUEENのツアー【CLAN QUEEN 2nd ONEMAN TOUR NEBULA】が8月23日、神奈川・KT Zepp Yokohamaで幕を閉じた。

 yowa(Vo.)、AOi(Gt.)、マイ(Ba.)からなるCLAN QUEENは、“アートロック”を標榜し、作詞作曲、演奏、映像制作、グラフィック制などを自ら行うユニット。彼らの世界観を生で体感したい、没入したいという想いからライブを求める人も多く、公演を重ねるごとに会場の規模は拡大している。この記事でレポートする神奈川公演は、元々予定していた東名阪ツアーの追加公演として、自身のワンマン史上最大規模の会場にて開催された。CLAN QUEENは今回のツアーで、2ndアルバム『NEBULA』でも向き合った「自分らしさ」というテーマを引き続き追求。観客の感情変遷まで計算し尽くした構成でコンセプチュアルなライブを展開し、躍動し思考する観客とともに「自分らしさ」を再定義する共創空間を生み出した。

 入場時にはAOiがデザインしたカードが配られた。そこに書かれていたのは「あなたにとって自分らしさとは?」という問い。カードには来場者一人ひとりが答えを書けるように空欄も設けられていた。開演前には「全神経を研ぎ澄ましてお楽しみください」というアナウンスも流れ、観客の意識は既に特別な体験への準備を整えていた。そしてライブは、「私は孤独だ。人は互いの心を知ることができない」と始まるナレーションからスタート。しかし人が生み出す感情は莫大な情報量を有していると、その声は語る。今からCLAN QUEENのライブを体感し、何らかの感情を抱くであろう観客一人ひとりに問いかけるかのように。

 SEと照明による壮大なオープニング演出を経て、ステージを隠すカーテンが開くと、力強いバンドサウンドが溢れ出した。1曲目は、アルバム『NEBULA』のオープニング・ナンバーでもある「チェックメイト」。スモークが立ち込めるなか、yowaは観客に「CLAN QUEENです、横浜よろしく!」と伝え、AOiとマイはそれぞれの立ち位置から一歩前に出てアグレッシブに演奏する。厚みがあり肉体的なサウンドや、繊細なファルセットから獰猛な唸りまで縦横無尽のボーカルに観客は熱狂。そして楽曲の終盤では、yowaがマイクをフロアに向け、合唱を促す。観客は〈終わらない旅を〉と声を張り上げることで、物語への参加を表明した。

 続いて、「人の心が分かるだけで救世主と呼ばれた」という楽曲の主人公の心の声を元に構成されたVTRを経て、「求世主」が演奏される。この曲で歌われるアイデンティティへの疑問は多くの人が抱える普遍的な悩みであり、観客は自然と感情移入しながら、ステージを通して自分の人生を見つめていたことだろう。3曲目の「サーチライト」では、yowaがサーチライトでフロアを照らしながら歌う演出があった。これは観客と一緒に“本当の自分”を探す行為そのもの。CLAN QUEENが行っているのは、単なるライブではない。観客一人ひとりが自身の内面と向き合う体験空間を、視覚/聴覚/感情の三位一体での演出を通じて創り上げていた。

 「ORDER」終了後、サポートドラマーの河村吉宏がすぐに次のリズムを叩き始めて「紙風船」へ。「紙風船」終了後、曲間を繋ぐバンドセッションを経て「ヘルファイアクラブ」へ。プレイヤビリティが光るライブアレンジによって、内省の旅は途切れることなく続いていった。そして「ファンデーション」から雰囲気が一変。「自分らしさとは何か?」という問いが真ん中にあったライブ冒頭から思考も進み、セットリストは自分の内面を実際に掘り下げていくフェーズに差し掛かった。続く「天使と悪魔」の冒頭は、yowaのアカペラによって届けられる。〈神様/私は/愛を履き違え/信じてた様です〉と始まる懺悔のような歌詞で、愛への疑問を投げかける。逆光の照明を背負ったyowaの震える声は、観客の心に生々しく響いたはずだ。

 一篇の壮麗な物語を紡ぐように、「Bad End」までの9曲を一挙に届けたCLAN QUEEN。コンポーザーのAOiがアルバムやツアーを語ったMCを挟み、ライブの後半に入ると、彼らは「PLAYER01」「SPEED」「踊楽園」「インベイダー」といったナンバーで畳みかけた。AOiとマイが奏でるギターとベースの音色は大胆に歪んでいる。熱量高く艶やかな世界を描くCLAN QUEENの音楽は、複層的な感情を抱えながら戦うように生きる人間の姿と重なる。観客はメンバーの魂の昇華というべきそのエネルギーを浴び、心を突き動かされながら、思い思いに踊っている。

 「“私”は二律背反だ」と始まるVTRが転換点となり、ライブ終盤では、複雑性や矛盾も含めた自己受容への道筋を辿っていく。「禁断の森」から「自白」「APPLE」へと展開することで、神話的な“堕落”のプロセスを辿りながらも、完璧ではない人間の本質を受け入れた、真の“自分らしさ”へと到達する。「APPLE」演奏後のMCでは、AOiが「自分は空っぽだと思う」「ずっと何かに飢えていて、満たされることはないんだろうなと今も思っている」と語った。しかしこれは敗北宣言ではない。彼の言葉は「だけどこの活動は無駄じゃない」「無駄だとしても、その無駄さえも愛したい」と続いた。直後に披露された新曲「MONOPOLY」では〈くだらない理想を褒めて頂戴〉と歌われた。彼らは、人間の不完全さを受け入れた上での新たな自己肯定の形を提示したかったのだろう。傷や痛みにそっと寄り添うバラード「Apophenia」はどこまでも美しく響いた。

 ライブの冒頭、千数百人で〈終わらない旅を〉と宣言した通り、私たちの旅はきっと一生終わらない。思考と悩みの夜は深まるばかりで尽きないだろうし、朝日に促されて、新しい答えを探したくなる日もきっと訪れるだろう。CLAN QUEENはライブのエンディングに「PSIREN」を鳴らし、フィードバック・ノイズを残してステージを去った。残響は会場に漂い続け、観客一人ひとりの心に新たな問いを刻み込んでいた。

 そして次なるライブ【2MAN LIVE ”MIRAGRAM”】の開催も決定している。「MIRAGRAM」とは、「mirror」(鏡)と「~gram」(記録)を組み合わせた造語であり、「鏡(対バン相手)との対話の記録」をイメージしたツアータイトルとのこと。CLAN QUEENと観客が紡ぐ自己発見の旅は新たな章へと続いていく。

Text:蜂須賀ちなみ
Photo:エドソウタ

◎公演情報
【CLAN QUEEN 2nd ONEMAN TOUR NEBULA】
2025年8月23日(土) 神奈川・KT Zepp Yokohama


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