エンターテインメント・ウェブマガジン
呼び名は何でもいい――「フラッディング」「シーディング」「大量投稿」「トレンド・シミュレーション」「バーナー・ページ」、あるいはあるデジタル・マーケターが冗談で呼んだ「2025年の偉大なるミーム戦争」。新しいデジタル・マーケティング戦略が登場し、誰も正式名称を知らないが、どうやら誰もが試している。
この新興戦略は従来のTikTokマーケティングを完全にひっくり返すものだ。トップクリエイターに数千ドルを支払って特定の楽曲を投稿に組み込んでもらう代わりに、今や抜け目のないマネージャー、レーベル、そしてChaotic GoodやFloodifyのような新興デジタル・マーケティング企業が、自ら運営、もしくは密かに協力して、何百、何千もの小規模TikTokアカウントの軍団を動かしている――その隠れた目的は、投稿に楽曲をBGMとして仕込むことだ。
「5年前、TikTokには画一主義的な文化がありました。誰がトップスターかは皆が知っていました。だからこそ、レーベルがラジオで曲をトップに押し上げることができたように、デジタル・マーケターもトップダウンでTikTokのトレンド曲を作ることができた。今はそれをボトムアップでやろうとしているのです」とRange Media PartnersのA&Rディレクターであり、ディラン・ゴセットの共同マネージャーであるフェデリコ・モリスは語った。
TikTokが成熟するにつれ、多くの業界関係者は、トップTikTokクリエイターに大金を払って動画を投稿してもらうことが、次第に効果的でなくなってきたと気づいた。トップクリエイターの料金は高騰し、オンライン・トレンドは細分化し、コンテンツがあふれ、レーベルにとって投資回収は疑わしいものになった。2022年頃から、専門家は「マイクロ・インフルエンサー」に注目し始めた。フォロワー数が5,000~50,000人程度のユーザーは費用が安く、トップクリエイターのアカウントに仕込むよりも自然に見えるからだ。
しかし2024年末、TikTokのコンテンツ量が指数関数的に増加する中、デジタル・マーケターは新しいキャンペーン手法を模索し始めた。高額で気まぐれなクリエイターに頼るより、大量のアカウントに投稿さればバイラルになるチャンスがあるのではないかという発想だ。
ワーナー・レコーズのシニアVP/バイラル・マーケティング責任者ウィル・モローによると、アカウント・ページを構築するのは突破口を生んだ戦術のひとつであり、ソンバー、ベンソン・ブーン、テディ・スウィムズのキャンペーンが特に効果的だったという。「フォロワー20人のページがアーティストについて投稿し、それが数百万回再生されるのを目にしました。大物クリエイターだけではなかったのです」と語ったモローはこの手法を「バーナー・ページ」と呼び、2023年頃から他社に先駆けて採用していた。
この新分野で最も需要の高いデジタル企業のひとつ、Chaotic Goodを今年2月に共同設立したアダム・タルシアは「このトレンドの台頭は非常に早く起こりました。このマーケティング手法の基盤は以前から存在していましたが、昨年末から今年初めにかけて、誰もがこれをやろうとしているように見えるほど臨界点に達したのです」と説明した。
この記事で取材した10人のマーケティング専門家はそれぞれ具体的なアプローチが異なるが、現在作られているいわゆる「バーナー・ページ」にはいくつか共通点がある。典型的には、これらのアカウントには個性や顔はなく、投稿には共通のテーマだけがある。そのためマーケターは通常のSNSユーザーの目をすり抜けることができる。これらのページはミーム・アカウントであったり、トラックやATVの動画を載せて、そのマーケターが宣伝している音楽を合わせたカントリーテーマのアカウントであったりする。別の例では、同じコーヒーカップの画像を繰り返し投稿し、その上に毎回新しい引用文を重ねる――それがとても共感しやすく、シェアされやすいように作られている。
コーヒーカップ・アカウントの場合、引用文はすべて恋愛に関するものだ。「カップルはスウィートな言葉をお互いに共有するのが大好きで、こういったアカウントは本当にうまくいくんです。投稿をシェアする人が増えれば増えるほど、アルゴリズムが強化されるのです」と、このアカウントの背後にいる匿名希望のデジタル・マーケターは語る。アーティストのチームが推している楽曲は、その投稿の背景にシンクロされ、潜在意識に刷り込まれるように流れる。
これらのキャンペーンは、一見「壁にスパゲッティを投げて何がくっつくか見る」ようなものに見えるかもしれないが、実際には心理学で知られる「単純接触効果」を活用している。これは、人が何度も接触するもの(音楽や靴のブランド、インテリア・デザインのスタイルなど)を好きになる可能性が高い、という現象だ。
アーティストのチームは、このサービスをワーナー・レコーズのようなデジタルに精通したレーベル内で提供してもらうこともできれば、Chaotic Goodのような外部企業やその競合に曲ごとに依頼して利用することもできる。2人のアーティスト・マネージャーは米ビルボードに対し、この分野の異なる企業から1曲あたり約5,000ドル(約73万円)という見積もりを受けたと語った。価格は大きく異なるが、見返りとしてこれらの企業は通常、その楽曲を含む投稿のターゲットビュー数を提示する。
「自分たちのアカウントを使えば、他人が運営する30のアカウントをマーケティング・キャンペーンのために予約する必要がなく、迅速かつ正確に大量のコンテンツを配信できます。他人のアカウントを利用すると、それぞれのアカウントが異なるタイミングで投稿するのを待たなければならず、中には信頼できるものもあれば、そうでないものもありますから」と、Range Media Partnersのモリスは述べた。
これらのキャンペーンも、その緻密さには差がある。単純に「できるだけ多くの人々の目に楽曲を触れさせること」に集中する企業もあれば、よりきめ細かく仕立てられたアプローチを取る企業もある。Chaotic Goodが「トレンド・シミュレーション」と呼ぶ、よりオーダーメイドの方法では、楽曲のターゲット・オーディエンスを特定し、その層を引き付けやすいアカウントで投稿を行う。たとえば、R&Bのラブバラードならコーヒーカップのアカウントではうまくいくが、トラックのアカウントではうまくいかないかもしれない。アーティストが構築したい物語やオーディエンスをさらに強固にするために、マーケターが「ファンページ」を運営することもある。そこでは、通常のファンを装い、アーティストのコンサート、インタビュー、ミュージック・ビデオのコンテンツを再投稿して拡散する。狙いは、ファンを直接アーティストが推したいコンテンツや物語に誘導することだ。
「みんな曲をヒットさせたいと思っているけれど、同時にアーティストもブレイクさせたいんです。私たちの焦点の多くは、アーティストの物語をインターネット上に創り出し、彼らを時代精神に組み込むことにあります」と、Chaotic GoodとMutual Friends(マネジメント会社兼レーベル)の共同創設者ジェシー・コーレンは語った。
この分野で取材された他のマーケターがインハウスでアカウントを構築しているのに対し、Hundred Daysは少し異なるアプローチを取っている。Hundred Daysの共同創設者ベン・クラインとショーン・ケインは、Discordサーバーの「クリッピング・コミュニティ」から着想を得た。これは、クリエイターのチームが何百人、何千人ものTikTokユーザーを集めて、クリエイターのTwitch配信の短い断片を再投稿させ、その再生回数ごとに報酬を支払うオンライン・コミュニティだ。すでに一部の音楽マーケターがこうしたクリッピング・コミュニティを利用してクライアントの楽曲を動画のBGMとして流そうとする事例はあったが、Hundred Daysは音楽専用の独自のコミュニティを作ろうと考えた。
「私たちは、自分たちのDiscordサーバーを立ち上げ、歌詞アカウント、映画/テレビの切り抜きアカウント、名言や美的要素を扱うアカウント、そしてスポーツの切り抜きアカウントと、4種類のクリエイターを集めました。サーバーにはそれらのカテゴリーに属するクリエイターが約2,000人いて、そのほかにもミームやアニメの切り抜きなどに属する少数の参加者がいます。クライアントから依頼が来て、“歌詞アカウントと名言アカウントに5,000ドル(約73万円)を使いたい”と言われたら、そのリクエストをサーバーに投稿して、該当カテゴリーのクリエイターに通知するようタグ付けします。通知を受け取ったクリエイターは、そのキャンペーンに参加できると知らされるのです」とクラインは説明した。
社内でアカウントを作成すれば最大限のコントロールが可能になる一方で、1つの電話番号やメールアドレスで作成できるアカウント数には制限があるため、リスクも伴う。Floodifyの創設者ジョー・リムは、その難しさを身をもって学んだ。「最初に7,000アカウントを作ったんです。ところが、ある編集者がミスをして、1本の動画を7,000すべてのアカウントに送ってしまった。その結果、すべてのアカウントがダメになり、価値がゼロに落ちました。あれで3万ドル(約441万円)相当を失ったと思います」と、2025年2月に会社を立ち上げたリムは語った。
リムは、その不具合のあった動画アップロードによってアカウントがTikTokにフラグされ、以後これらのアカウントのバイラル獲得力を損なったのだろうと推測している。現在、Floodifyは新しい方法を採用している。彼は「世界中のユーザーが作成した2万のSNSアカウントの艦隊」を保有していると主張する。小規模なデジタル広告を出して、同社にアカウントを貸して投稿を代行させたい人を募ったところ、すぐに副収入を得たいユーザーたちが応じ、自分のアカウントをFloodifyに提供するようになったという。参加者は再生回数ごとに報酬を得る仕組みだ。
「私たちはすべてのアカウントで投稿を試しますが、10回以上再生されなければ支払いはしません。同じアカウントで5回投稿してすべて失敗したら、もうそのページには投稿しません。最高のアカウントにしか投稿しないのです。これは、アカウントごとの再生数を改善し続ける永久サイクルなんです」とリムは説明した。現実的には、2万のアカウントにアクセスできるとはいえ、実際に使うのはそのうちの3,000~5,000に過ぎないという。リムの試算では、彼のチームは「毎日およそ5,000から15,000本の動画を投稿しており、すべて異なるアーティストの音楽を宣伝している」とのことだ。
こうしたキャンペーンの成功をどう判断すべきかは難しい。すべてのビューに価値があるのだろうか? ケインは懐疑的だ。「単に楽曲を投稿に載せるだけの“空っぽの成果”に価値を置いてしまうのが、人々が間違うところです。ターゲット・オーディエンスにどのように結びつくのか、意図や計画がなければ、それは単なる虚栄の指標に過ぎません」とケインは話した。代わりに、ケインとクラインは、すべてのマーケティングと同様に「一般的な認知を作ること」が成功の定義だと述べ、「とはいえ、キャンペーンがストリーミングの成功に結びつくのが常に最良の成果です」とクラインは付け加えた。
バーナー・ページは、一部にはTikTokのますます深刻化する飽和状態を打破するために考案されたものだが、専門家たちは、その戦術が同時にその状況を助長していることにも同意している。「バーナー・ページの目的は、飽和の問題に対抗することではないと思います。“勝てないなら仲間に入れ”という発想なんです」とモローは語った。今や、生成AIや自動化ツールの台頭により、ソーシャル・コンテンツの未来はさらにスピード感を増す運命にあり、それらは多くのマーケターが今後もこの手法を継続する上で鍵となる要素である。
モローによると、「AIはすでにこの分野全体の大きな一部です」という。しかし、今日さまざまなマーケターがAIを利用している方法は多岐にわたる。コーヒーカップ・アカウントの背後にいるデジタル・マーケターは、現在AIを活用したシステムを開発中であり、自ら手を動かさなくても自動的にミームを生成し、複数のページに投稿できるようにしていると認めている。彼らはすでに投稿プロセスの多くを自動化しているという。リムによれば、Floodifyは音楽クライアントに「適応型AIインフルエンサー」を提供している。「私たちは基本的に楽曲の周りにストーリーを作るAIインフルエンサーを提供しています。たとえば、カントリー・ソングを扱うときには、そのインフルエンサーをトラックに乗せるかもしれませんが、次のキャンペーンでは別の楽曲を扱い、その同じAIインフルエンサーが水泳やゴルフなど別の活動をしている映像を出すのです。その曲に合った活動を選びます」とリムは説明した。
Chaotic GoodおよびMutual Friendsの共同創設者アンドリュー・スペルマンは、彼らが「AI生成コンテンツを個人的に試したことはある」が、「現時点では実際のプロセスの一部ではない」と述べつつ、「将来的にはデジタル・マーケティングのより大きな一部になるだろうと考えている」と付け加えた。
とはいえ、この記事で取材された全員が一致して認めることがひとつある。それはキャンペーンの中で際立つのはやはり「楽曲」だということだ。「最終的には、良い音楽こそが本当に人々に響くんです。どんなに史上最高のマーケティング戦略を打ち立てても、あらゆる手を尽くしたとしても、音楽自体が良くなければ意味はないのです」」とモローは述べた。
J-POP2025年8月25日
秋山黄色が、新曲「ネイルイズデッド feat. 100回嘔吐」を配信リリースし、ミュージックビデオを公開した。 新曲「ネイルイズデッド feat. 100回嘔吐」は、秋山黄色が作詞・作曲を行い、ボカロP・100回嘔吐が大胆にアレンジを施 … 続きを読む
J-POP2025年8月25日
BE:FIRSTが、新曲「Secret Garden」を配信リリースし、ミュージックビデオを公開した。 新曲「Secret Garden」は、2010年代R&Bをルーツに持つBE:FIRSTが、そのサウンドを現代的に昇華させたトラックの … 続きを読む
J-POP2025年8月25日
IVEが、新曲「XOXZ」のミュージックビデオを公開した。 新曲「XOXZ」は、2025年8月25日にリリースとなった4th EP『IVE SECRET』のリード曲。クラシックヒップホップとポップの質感をクロスさせたトラックに、808ベ … 続きを読む
J-POP2025年8月25日
2024年8月27日公開(集計期間:2025年8月18日~8月24日)のBillboard JAPAN週間アルバム・セールス・チャート“Top Albums Sales”で、大神ミオ『My Sparkle』が当週15,699枚を売り上げて … 続きを読む
J-POP2025年8月25日
2025年8月27日公開(集計期間:2025年8月18日~8月24日)のBillboard JAPAN週間シングル・セールス・チャート“Top Singles Sales”で、BOYNEXTDOOR『BOYLIFE』が初週431,795枚 … 続きを読む