日本のエンターテイメント大手エイベックス、S10と提携しグローバル展開に踏み出す

2025年7月8日 / 19:00

By: Lyndsey Havens  / 2025年6月5日 Billboard.com掲載
Photo: Hidefumi Hase

 東京の中心部から少し離れた、招待客限定の薄暗いレコード・バーのテーブルの上には、数本のビリヤード・キューが額縁に入れて飾られている。それぞれにネームプレートが付いているが、米国人の名前はブランドン・シルバースタイン(Brandon Silverstein)の一つだけだ。この特等席は、ビリヤードの技量を超えた意味を持つ。シルバースタインのエンターテインメント会社S10と、バーのオーナーである日本のエンターテインメント大手エイベックスとの長年かけて築いたパートナーシップを象徴している。今年3月、両社はエイベックスの米国部門(旧Avex USA)を再編したエイベックス・ミュージック・グループ(以下AMG)を設立し、シルバースタインがCEOに就任することでこのパートナーシップを正式に強化した。

 シルバースタインはAMGを“グローバルな視点を持つブティック型メジャー”と表現している。その精神こそが、5年前に彼をエイベックスに惹きつけた理由だ。2017年にアーティスト・マネジメント会社S10を立ち上げた後、友人でありコラボレーターでもあるライアン・テダー(ワンリパブリック)から出版会社を立ち上げるよう勧められた。シルバースタインは「パートナーを探していたんです。そして違うタイプのパートナーを探していました」と、清潔感あふれるエイベックスの東京本社5階のロビーで振り返る。

 2019年、シルバースタインは当時Avex USAの取締役社長だった長田直己と出会い、意気投合した。2020年にS10 Publishingはエイベックスとの合弁会社として設立され、その後まもなく、シルバースタインは初めて東京を訪れ、エイベックスの創業者兼代表取締役会長である松浦勝人とエイベックス・グループの黒岩克己代表取締役社長CEOと会談した。「最初のミーティングから、私たちは非常に似たビジョンとカウボーイのような物の見方を持っていました」とシルバースタインは語る。現在、S10 Publishingのアーティスト・ラインナップには、Harv(ジャスティン・ビーバー)、ジャスパー・ハリス(テイト・マクレーやジャック・ハーロウ)、Gent!(ドージャ・キャット)など、チャート上位を席巻するソングライター/プロデューサーが名を連ねている。

 今年5月、AMGは急成長中のプロデューサー、Elkan(ドレイク、リアーナ)とグローバルな出版契約を締結し、ヒットメーカーである彼との合弁出版会社Toibox by Elkanと提携したことを発表した。シルバースタインはこの契約が多くの契約のうちの最初のものとなることを願っている。「アーティストは、最も素晴らしい起業家です。彼らには、自分のアイデアを実現するためのインフラ、つまり適切なインフラが必要なのです」と彼は言う。その考え方は、エイベックスの基盤となっている。黒岩は、同社の創作に対するアプローチは“起業家精神”であると述べ、「当社は独立企業ですから。今後も独立を維持していきたい」と語っている。

 最近AMGは、ビーバーのバック・ミュージシャンとして知られるWe the Bandと主要な契約を締結した(シルバースタインは、これが“アーティストが先に才能を見つけている”という自身の理論の証拠だと指摘している)。S10とこのバンドの関係は、2021年にメンバーであるHarvと出版契約を結んだことにさかのぼる。その直後にHarvはビーバーの「Peaches」の共同ソングライター/共同プロデューサーとして、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で1位を獲得した。

 ソニー、ユニバーサル、ワーナーと並んで、日本で“第4のメジャー・レーベル”として知られるエイベックスにとって、S10 Publishingへの早期投資は、本質的には世界的支配に向けた頭金であり、今年AMGの設立という5か年計画の第一歩だった。(シルバースタインの新しい役職の就任に伴い、エイベックスはS10 Publishingの楽曲カタログの100%を取得し、S10 Managementの株式を追加取得した。エイベックスは、シルバースタインおよびロック・ネイションと並んで、S10 Managementの最大株主となった。

 1988年の設立以来、エイベックスは常に業界に目立った変化をもたらしてきた。その大きな要因は松浦の独創的なビジョンとリスクを恐れない姿勢にある。2001年にエイベックス・グループに入社し、2020年にCEOに就任した黒岩は、「設立当初は、非常にニッチなジャンルであり、市場もごく限られていたユーロビートに全力を注いでいました。他のレコード会社が選ばないようなことをやった。それが今の私たちを形作っているんです」」と振り返る。これは会社のモットー“Really! Mad + Pure”にも反映されている。

 500人以上のアーティストを擁するエイベックスのレーベル部門、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴの猪野丈也社長も、「エイベックスがそのような会社でなかったら、私は今ここにいないと思います」」と言う。1995年にエイベックスに入社した彼は、「新しいムーブメントを創り出すことがエイベックスのやり方です。ディスコ・ブーム、ユーロビート、日本のヒップホップなど、これまでずっとそうでした。そして次のステップは何かと考えると、その答えはグローバル市場なのです」と続ける。

 現在、50以上の都市に約1,500人の従業員を擁し、2024年には10億ドル(約1,441億円)の収益を見込む上場企業となったエイベックスだが、”総合エンターテインメント企業”へと成長した原動力は、その小さいながらも力強いマインドセットにあると黒岩は言う。「現在では多くの企業が同様の取り組みを行っていますが、私たちは先駆者でした。自社でアーティストのマネジメント事業を展開し、スカウトやトレーニングを行い、ライブ・イベントの制作・開催を手がけた最初のレーベルの一つです」と彼は語っている。

 これらの柱はエイベックス、特に将来のスーパースターを育成する集中研修プログラムで200人以上の研修生を擁するエイベックス・ユース・スタジオを支え続けている。スカウトが約500の芸術学校を定期的に訪れて才能ある人材を発掘し、採用された研修生はエイベックスが投資対象として捉えているため、授業料は無料だ。

 約4年前、東京世田谷区にあるエイベックス・ユース・スタジオのメイン施設avex Youth studio TOKYOで、新進気鋭の日本のボーイズ・グループONE OR EIGHTが結成された。エイベックスはこの2年間、次のグループを育成するために、現在トップ7に選ばれた14歳から16歳の7人の少年たちが一緒にトレーニングを続けてきた。彼らが影響を受けたアーティストはビーバー、ケンドリック・ラマー、エド・シーラン、モーガン・ウォーレンなどであり、明らかに最初から世界での成功を目指している。

 そのことは、エイベックスがライブ・イベントをプロデュースする方法にも表れている。2021年にAEGと締結した契約により、シーランやテイラー・スウィフトなどのスーパースターを日本へ招き、スタジアム公演を完売させた。黒岩は、「当初AEGXは、日本で公演を希望する海外アーティストを支援するために設立されました。しかし現在はアジアのアーティストが海外で公演し成功する時代に入りつつあり、両方の需要が生まれるでしょう」と説明する。非日本人アーティストの日本公演を手助けしてきたAEGXは、現在日本人アーティストの米国や他国での公演手配も支援している。猪野は、ONE OR EIGHTの目標を米ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンに定めている。

Photo: OOZ

 AEGとの提携がエイベックスとそのアーティストの海外ツアーを後押しているのと同じように、シルバースタインのS10との提携はエイベックスとそのアーティストのヒット曲制作に貢献している。

 2024年8月のONE OR EIGHTのデビューは、エイベックス所属アーティストが米国においてS10でマネジメント契約を結んだ初めての事例となった(エイベックスと共同マネジメント)。そして5月には、アトランティック・レコードとエイベックスがこのグループの今後のすべてのリリースについて提携を結んだ。黒岩は、「このプロジェクトに関わっているスタッフは、日本と米国の両方にいるため、国境を越えた体制が整っています。ビジョンとしては、成功事例モデルを構築することが重要です。このプロジェクト全体の目的は、一つだけでなく、複数のグローバル・ヒットを生み出すことです」と話す。

 このグループの楽曲のクレジットは、黒岩のモットーの一つ“共同制作が鍵”を体現している。ONE OR EIGHTのデビュー・シングル「Don’t Tell Nobody」はテダーが共同プロデュースし、2ndシングル「DSTM」はスターゲイトがプロデュースした(この曲には、スターゲイトがプロデュースしたリアーナの「Don’t Stop the Music」がサンプリングされており、このヒット曲が公式にサンプリングされたのはこれが初めてだった)。「DSTM」には、S10のソングライターであるDavid Arkwrightもクレジットされている。彼は、シルバースタインが自身の出版会社にとって初期の成功作と評する RIIZE の「Get a Guitar」を共同制作している。RIIZEはSM Entertainmentと契約しており、SM Entertainmentは 2001年にエイベックスと提携して子会社SM Entertainment Japanを設立している。

 シルバースタインは、「当社のソングライターたちは、(ONE OR EIGHTの)楽曲制作を早期に打診されています」と述べ、その多くが日本でのコライト・キャンプに参加したと付け加えている。「これは、日本から登場する次のボーイズ・グループやガールズ・グループ、あるいはその他のグループにふさわしい楽曲を制作する、継続的な交流活動です」と彼は話している。

 エイベックスの急成長中アーティストXGもエグゼクティブ・プロデューサーのSimon Parkとの提携による“XGALX”ブランドの最初のプロジェクトであり、黒岩のコラボレーションのビジョンを体現している。韓国を拠点とするこの日本のガールズ・グループは2022年にデビューし、今年4月には【コーチェラ】に出演した。黒岩は、「K-POPのアーティストたちがグローバル市場に進出していく様子を見てきましたが、当時その流れに乗るのにふさわしい日本のタレントがいませんでした。パンデミックの影響もあり5年かかりましたが、スタジオで(XGを)トレーニングし、私たちの側と彼らの側、つまりK-POPの知識と専門性を融合させました。その結果生まれたのは、完全に新しいものでした」と語る。

 猪野にとってK-POPの成功は“外国の音楽が米国市場に進出し、世界的に成功するための道筋を築いた”ものであり、それがJ-POPも同様に世界から受け入れられるだろうという確信の一因となった。

 彼はエイベックスがJ-POPを世界へ広めるきっかけの一つとして日本の“高齢化社会”を挙げ、成長の可能性という観点から海外市場への進出が必要となった最大の要因であると述べている。また、S10以降にエイベックスが米国で築き上げた強固なインフラも指摘している。猪野は、「皆が、今がその時だ、チャンスだ、米国市場に本格参入する機会があると言っていました。その点を最も強調したのは、おそらくライアン(・テダー)でした。彼は、もしかしたらK-POPの時代は終わり、今こそJ-POPの時代だと言いました」と言いつつ、笑いながら、「でも彼はHYBEと仕事をしていますね」と付け加えた。(2月にテダーはHYBEと提携し、まだデビューしていないグローバル・ボーイズ・グループを結成した。)

 J-POPはまさに独自の世界だ。猪野にとってこの包括的な用語は“もっと多様な”音楽ジャンルを表している。「そしてアニメ、マンガ、VTuber(バイラルYouTubeクリエイター)もあります。私たちはこれらのカテゴリーをすべて活用し、その強みを生かすことができます。それらをすべて統合することが、私たちの強みになるだろう」」と彼は付け加える。

 そして今、AMGでその統合はさらに強化されるだろう。S10が2020年にエイベックスと合弁会社を設立した後、2社はイベントやクリエイティブ・コミュニティの構築を目的としたスタジオ・ハウスをウェストハリウッドに建設した。今年4月にAMGは、エイサップ・ロッキーとリアーナが以前所有していた、より広大な新しいウェストハリウッドの邸宅にアップグレードした。この邸宅はコミュニティの構築に引き続き利用されるほか、エイベックスの幹部が日本から訪問した際の宿泊施設としても使用される予定だ。

 シルバースタインは、「クリエイティブな人材は、新鮮で刺激的、そしてグローバルな立場にあるブティック企業を熱望していますが、そのような企業はそれほど多くはないと思います。私たちはアーティストのビジョン、ソングライターのビジョン、プロデューサーのビジョンを支援し、彼らが自分のCEOとして活動できるようにしたい。それが(私たちに必要な)変化だと思いますし、その点において、エイベックス・ミュージック・グループは成功するでしょう」と話す。

 黒岩と猪野は、AMGは過去5年間に慎重に築き上げた基盤により、最終的に勝利を収めるだろうと見ている。黒岩は、「(S10 は)新しいものを創造する上で非常に役立ちました。過去に同じことを試みた日本企業はいくつかありましたが、実現には至りませんでした」と述べている。

 それに対しシルバースタインは、「私たちは適切なチーム、適切な人脈、適切なパートナーシップ、適切なビジョン、そして適切な勢いを備えています。準備は万端です」と、自信に満ちた笑顔で語っている。

 この記事は、2025年6月7日発行の米ビルボードに掲載されている。


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