<ライブレポート>小室哲哉×オーケストラ【ELECTRO-ENCORE-】出身地・府中での凱旋公演が終演 ゲストに西川貴教、母校合唱部を迎えて

2025年5月12日 / 19:00

 昨年全国5都市6公演で開催された【billboard classics ELECTRO produced by Tetsuya Komuro】は、小室哲哉の壮大な音楽“実験”だった。22名のオーケストラ(Premium Orchestra ELECTRO)と電子音、そしてゲストボーカルの歌が「共鳴」し、「共生」できることを証明したライブだった。そのライブで“豊かな刺激”を感じたファン、そして残念ながら観る機会に恵まれなかったファンから再演を望む声が多くあがっていた。その声に応え【billboard classics ELECTRO -ENCORE- produced by Tetsuya Komuro】が5月1日、小室の出身地・府中市の府中の森芸術劇場リニューアル後のこけら落とし公演として行われた。

 この日のライブは「東京多摩振興 特命 武蔵國府中大使」として、出身地・府中市の魅力を発信し続ける小室にとって、リニューアルのため一年間休館していた府中の森芸術劇場のこけら落とし、さらに母校である府中市立府中第四中学校の合唱部の生徒ともコラボが実現した、まさに“凱旋公演”になった。

 オープニングナンバーは「Traffic Jam」。小室のソロアルバム『JAZZY TOKEN』(2022年)に収録されている、短いパッセージの繰り返しが印象的なコンテンポラリージャズナンバーだ。右手でピアノ、左手でシンセを弾く小室。打ち込みと、オーケストラ、力強いパーカッション、そして小室のピアノの生の音が重なりこのコンサートが“目指すもの”を提示する。

 小室が「8か月経っての再演、去年、東京文化会館でのファイナルからビルドアップし、音も研ぎ澄まされた感じになっていると思います」と伝えると、大きな拍手が起こる。そして「府中ということでリラックスしすぎていて緊張感がない(笑)。みんな煽って、緊張させて」と語ると爆笑が起きる。そして「寒いとか暑いとかない?」と客席を気遣うなど、“ホーム”でのライブを楽しんでいる。

 そして「約束の丘」へ。小室が2016年にアイドルグループX21に提供したナンバー。管楽器が主メロを奏で、光が交錯し、静から動へドラマティックに展開していく。小室のシンセの音がサウンドに光を当てるように響き、全体を立体的にしている。globeのアルバム『Lights』(2002年)に収録されている「Many Classic Moments」は、性急なリズムと美しいメロディが印象的なナンバー。チェリストが昨年のツアーの徳澤青弦からロビン・デュプイに変わったところが、このアンコール公演の大きな変更点だ。この日も小室のピアノとロビン・デュプイのチェロで終わる曲が数曲あり、いずれも深い余韻を作り出していた。

 小室は「今日はカメラが入っていないのもリラックスしてできている原因かもしれませんね(笑)」とご機嫌な笑顔を見せ、オーケストラとの演奏を心から楽しんでいるのが伝わってくる。第1部のクライマックスは「元々オーケストラでやってみたくて作った」という「CAROL組曲」だ。

 “森の向こう側”への入口は、ストリングスとシンセだけでスタートした「A DAY IN THE GIRL’S LIFE(永遠の一瞬)」。どこかオリエントな薫りも漂わせながら、気持ちを解き放ってくれる。「CAROL(CAROL’S THEME I)」が管楽器の美しい音色から奏でられ、「CHASE IN LABYRINTH(闇のラビリンス)」ではマーチのようなポップなリズムとポップな照明が展開し、ストリングスと管楽器の掛け合いにひきつけられる。コンガの音が闇を切り裂くように鳴り響き「GIA CORM FILLIPPO DIA(DEVIL’S CARNIVAL)」へ。全ての音が一体となり客席に降り注がれる。「IN THE FOREST(君の声が聞こえる)」から「 CAROL(CAROL’S THEME II)」と展開の美しさがさらに際立ち、楽曲同士のハーモニーも堪能できた。そこから照明が激しく交差するダンサブルな「JUST ONE VICTORY(たったひとつの勝利)」へ。希望に満ちた勇壮なメロディとサウンドは、思わず腕を天に突き上げたくなる。小室がこの組曲に込めた思いや空気が、オーケストラの壮大で繊細、美麗な音の重なりによって客席一人ひとりの心に伝わる。

 インターミッションをはさみ第2部へ。冒頭、リニューアルオープンした府中の森芸術劇場について触れる。「一年以上閉まっていたけど、楽屋周りとか全然変わってなくて、さっき市長に「どこが変わったんですか?」と聞いてみました(笑)」と、来場したことがある人、地元の人たちが誰もが気になっていたことを市長に直接聞いたことを明かすと、客席は爆笑だ。「インフラを整備したそうで、これからも安心して使えるそうです。安心しました」と、観光大使としてのアピールも忘れない。

 第2部のオープニングは「Internet for Everyone」から。小室が2015年に作曲したGMOインターネットグループの社歌だ。同社の思いや言葉を音楽として形にし、【第2回NIKKEI全国社歌コンテスト】『心に残る音楽部門』で入選。指揮の藤原いくろうがピアノを弾き、小室のシンセとオーケストラと雄大なハーモニーを作り上げる。この曲のダンスMIXを作りたいと語っていた。

 昨年の【ELECTRO】ツアーでは各公演にTM NETWORK宇都宮隆、木根尚登、そして野宮真貴、満島ひかりというゲストボーカルを迎え、この日は西川貴教が登場。まず「FREEDOM」(西川貴教 with t.komuro『機動戦士ガンダム SEED FREEDOM』主題歌)を披露。西川の力強いボーカルに小室のコーラスが重なる。小室が「素晴らしい」とその歌を絶賛する。「二人ともスーツで、(漫才)コンビみたい」という小室の言葉通り、「今日ははるばる滋賀県から」「通ってないから」「僕は府中市の観光大使なんだけど」「マウントを取るつもりはないですけど、僕は滋賀県のふるさと観光大使です」と、二人の漫才のような絶妙な掛け合いに客席は大喜びだ。小室は「(最近は)ガンガン言ってきてくれる人がいないから、彼は貴重な存在」と、西川との掛け合いを自身も楽しんでいた。

 続いてTM NETWORK「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」(『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)主題歌)でも会場の壁を突き破りそうな圧巻の歌声を披露。オリジナルの「FREEDOM」アウトロのギターフレーズと「BEYOND THE TIME」イントロのギターフレーズは繋がっているとして、作品としても強くシンクロしているこの2曲。この日は特別な組み合わせで、勇ましいストリングスの音色が印象的なオーケストラサウンドと、ガンダムの世界観をより浮かび上がらせるパフォーマンスになった。

 「Coexistence」は小室のアタックの強いピアノと、厚く、強いパーカッション、激しいストリングスと打ち込み、管楽器のスケール感のある音が交差し、熱を帯びて伝わってくる。最後はクールダウンするように小室のピアノと、艶やかな色彩を添えるロビン・デュプイのチェロの音が静かに重なる。

 “一回として同じにならない曲”として「Get Wild ELECTRO Mix」を演奏。手拍子も起こり、改めてその強いメロディに引き込まれる。誰もが知るこの曲も、聴きなれた数々の名曲も藤原いくろうをはじめとする、アレンジャー陣のアプローチの面白さでまた違う表情を堪能できるのがこのライブの魅力のひとつだ。

 本編ラストは「South Beach Walk」。小室のソロアルバム『Hit Factory』(1992年)に収録されている夏らしい爽やかなインストゥルメンタル。レコーディングで訪れたマイアミの海岸のストリートの名前がタイトルになっているように、ストリングスの音色が風を運んでくるようだ。その気持ちがいい風の中を歩いている、そんな気分にさせてくれる。この曲もアウトロはピアノとチェロ。極上の心地よさを残し、本編は終了。

 鳴りやまない手拍子に応え、小室が再びステージに登場すると「今日はリラックスできて本当に楽しかった」と笑顔で客席に語り掛ける。そして「漫画家の浦沢直樹さんが同じ中学の1学年下だった。『20世紀少年』の冒頭に中学校が出てくるけど、四中(府中第四中学校)に激似で驚いた。あとから後輩だと知って納得した」と、意外な後輩の存在を教えてくれた。小室の音楽家としての原点は同校の授業だったと話し、その同じ“DNA”を受け継ぐ後輩、同校合唱部について紹介。「今日は孫みたいな後輩と音楽で繋がれるなんて、こんな素晴らしいことはない」と、総勢57名の混声合唱団を呼び込む。

 そして「BOY MEETS GIRL」を披露。優しいメロディを57人が合唱すると、クワイアが歌う讃美歌のようになって感動を連れてくる。これまでに【NHK全国学校音楽コンクール】【TBSこども音楽コンクール】等の各種コンクールで多くの賞を受賞し、さらに令和5年度の【全日本合唱コンクール全国大会】では、金賞・文部科学大臣賞も受賞するなど、府中市の誇りである四中合唱部の実力を見せつけた。その歌声に涙する人も多く、感動に包まれた会場には最大級の拍手が鳴り響いた。

 さらに「(自分がボーカルを取る曲は)これが一番しっくりくる」と「GRAVITY OF LOVE」を歌った。小室の歌にストリングスが寄り添うように重なり、優しい世界が広がる。小室の打ち込み音源を支えるTK song mafiaの二人とPremium Orchestra ELECTROのメンバーを紹介して全員を送り出し、ステージに一人残った小室が最後にピアノソロで披露したのは「SEVEN DAYS WAR」だ。雨上がりの青空を思わせてくれるようなピアノの音色。このライブは電子音とオーケストラの融合の実験の場であると同時に、小室の美しいピアノをじっくり堪能できる時間でもあることを実感した。客席がラララと口ずさむとそれがまるでオーケストラのような存在になって、全員で一曲を作り上げたようなラストナンバーになった。

 小室哲哉という稀代の音楽家が次に何を仕掛けるのか、そんなワクワク感を残してくれた【ELECTRO】というスペシャルなライブだった。

text:田中久勝 photo:石阪大輔

◎セットリスト
<第1部>
1.Traffic Jam
2.約束の丘
3.Many Classic Moments
4.CAROL組曲
  A DAY IN THE GIRL’S LIFE(永遠の一瞬)
  CAROL(CAROL’S THEME I)
  CHASE IN LABYRINTH(闇のラビリンス)
  GIA CORM FILLIPPO DIA(DEVIL’S CARNIVAL)
  IN THE FOREST(君の声が聞こえる)
  CAROL(CAROL’S THEME II)
  JUST ONE VICTORY(たったひとつの勝利)

<第2部>
5.Internet for Everyone
6.FREEDOM Guest 西川貴教
7.BEYOND THE TIME Guest 西川貴教
8.Coexistence
9.Get Wild ELECTRO Mix
10.South Beach Walk
EC1.BOY MEETS GIRL Chorus 府中市立府中第四中学校合唱部
EC2.GRAVITY OF LOVE
EC3.SEVEN DAYS WAR

◎公演情報 ※終演
【billboard classics ELECTRO -ENCORE- produced by Tetsuya Komuro】
2025年5月1日(木)
府中の森芸術劇場 どりーむホール
OPEN 17:30 / START 18:30

出演:
音楽プロデューサー・編曲:小室哲哉
ゲストボーカル:西川貴教
指揮・オーケストラアレンジ・合唱アレンジ:藤原いくろう
管弦楽:Premium Orchestra ELECTRO
チェロ:ロビン・デュプイ
合唱:府中市立府中第四中学校合唱部

オーケストラアレンジ:
徳澤青弦、神坂享輔、水野蒼生、和仁将平

公演公式サイト:
http://www.billboard-cc.com/archive/electro-tetsuyakomuro-encore

◎リリース情報
LIVE Blu-ray『billboard classics ELECTRO produced by Tetsuya Komuro』
2025/2/12 RELEASE
MHXL-160 12,000円(tax in.)

https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&cd=MHXL000000160


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