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稲葉浩志とスティーヴィー・サラスによるコラボ、INABA/SALASが3rdアルバム『ATOMIC CHIHUAHUA』を完成させた。
2020年に開催予定だった【INABA/SALAS “the First of the Last Big Tours 2020″】が中止となってから、5年ぶりに活動を再開させたINABA/SALAS。アルバムには、メロウなリフが鳴り響く「EVERYWHERE」や1stアルバム、2ndアルバムのダンサブルなグルーヴを踏襲しているかのような「Burning Love」や「LIGHTNING」など、研ぎ澄まされたリリックとサウンドによる全7曲が収録されている。今回のインタビューでは、5年ぶりに再開する思いやアルバムの制作など、話を聞いた。
――今回、5年ぶりに活動を再開された経緯を教えてください。
稲葉浩志:2020年に、2ndアルバム『Maximum Huavo』が完成してツアー【INABA/SALAS “the First of the Last Big Tours 2020″】をやる予定だったんですけど、コロナの影響で中止になって、その後しばらく会ってなかったんですけど、個人的には連絡を取っていて。お互いの予定が合ったのが今回のタイミングでした。
――当時、YouTubeでセッション動画もアップされていましたね。
稲葉:懐かしい。結局、アルバム『Maximum Huavo』をリリースして世界がクローズしてしまったので、何かもう少し世間に伝えたいなと思ったんです。一緒に同じ場所でセッションするというのはできなかったので、オンラインというスタイルを使いました。
スティーヴィー・サラス:パンデミックで日本から帰ってきても何もできなくて。アルバムをリリースした後にBillboard JAPANの総合アルバム・チャート“Hot Albums”で1位になっても、誰にも知られてないみたいな。家で閉じこもって寝てなきゃいけないみたいな暗い時期だったね。
――今回、アルバム制作はいつ頃から始まりましたか。
稲葉:まず、今回のツアー【INABA/SALAS TOUR 2025 -Never Goodbye Only Hello-】を3月に開催することを決めて、そこに合わせて1曲作ろうという話になったのが、昨年の11月です。でも11月だと、アメリカはお休みが始まる時期なので、連絡を取り合うのが大変でした。それに、スティーヴィーは東京とロンドンの往復でハードスケジュールでした。
――その最初の1曲はどの楽曲でしょうか。
稲葉:まずは楽曲を作ろうということで、コンセプトとして最初に話し合ったのは「ONLY HELLO」です。そのときにはスティーヴィーが作った「Burning Love」と「LIGHTNING」のデモがあって、スタジオに入って最初に取りかかったのは「LIGHTNING」でした。
――率直にアルバムの手応えはいかがでしょうか。
稲葉:この短期間で、よくできたなと思います。もともと1曲しか作らない予定で、全部のスケジュールを組んだんです。なのに、そこで6曲も7曲も全力で歌って。そうすると、普通に考えてスケジュールが合わなくなるじゃないですか。
――確かにそうですよね。
稲葉:なので、僕は普段飲まないエナジードリンクを飲みました(笑)。でも、スティーヴィーはスタミナがすごくて。
サラス:KOSHI(稲葉浩志)の言う通り、アルバムを作る予定じゃなかったんだよね。楽しみながらやっていたのに、いつの間にか、ツアーが始まるのはもうすぐみたいな、本当にクレイジーなスケジュールになって(笑)。でも、もしかしたらこんな機会は二度とないかもしれないし、5年後になっちゃうかもしれないから、今やらなきゃいけないと思ったんだよね。
――前作と前々作は、“自由に、ルールなしで作る“というマインドがあったと思うんですが、今回はいかがでしょうか。
稲葉:大きくは変わらないです。音を出して楽曲が完成に近づいていく中で、INABA/SALASのスタイルはあるんだなと改めて分かりました。
――稲葉さんの中では、INABA/SALASとしてのボーカルスタイルは確立されたと。
稲葉:INABA/SALASのサウンドの中で自分がどう歌うのかというのは、B’zでも自分のソロでもない感じのものができているなと思いましたね。
――サラスさんはいかがでしょうか。
サラス:今回、新しい試みとして、86年~88年あたりのブリティッシュサウンドを求めてみようと思ったんだ。ギターに関しても、KOSHIはザ・クラッシュが大好きなので、ザ・クラッシュっぽい、壮大な感じではなく、ダーティーな感じのサウンドにしていこうとか。なので、変なものが出来上がるんじゃないかなという気持ちで制作がスタートして。あとは、“ビージーズルール”というのがあって。メロディーのアイディアを出して、KOSHIが好きなように形を変えていくんだけど、メロディーが修正されたら、歌詞のためにメロディーは絶対変えないという“ビージーズルール”を決めて。
――匙加減が難しそうですね。
サラス:KOSHIは歌詞も書かなきゃいけないから難しいよね。でも、文句は一度も聞いたことがないよ。
――そんなメロディーにグルーヴ感を意識して歌詞を作るという、難しさは感じていますか。
稲葉:自分の中からは出てこない発想なので、メロディーをグルーヴの中で生かすために、結構細かくリズムに合わせています。INABA/SALASは、そこに一番気を使います。
サラス:いつもグルーヴ感を必ず出すように意識してメロディーを作っていて、KOSHIが「それがいい」って言ってくれたら、そこからさらにメロディーを広げていく感じだね。
――日本語と英語の音節の違いも難しいところですよね。
稲葉:そうですね。でも、最近のJ-POPは色々なメロディーがあるので、そんな珍しくはないと思うんですけど、とにかく、スティーヴィーが作ったグルーヴにうまく乗ることで楽曲としての説得力が倍増するので、そこが一番重要なところです。
――今回のアルバムで、お互い新しい気付きはありましたか。
サラス:新しい発見というよりは、忘れていた80年代後半のヒップホップのサウンドを思い出したね。というのも今回、ティム・パーマーがミックスで参加することになって。彼は、ティアーズ・フォー・フィアーズとか、シスターズ・オブ・マーシーのミックスも手掛けているので、当時のノリとかサウンドを思い出したんだ。
――稲葉さんはいかがでしょうか。
稲葉:アルバム2枚で、完全燃焼じゃないですけど、もう持っているものは出しきったかな、みたいなところもありました。でも、まだまだこうやって、時間のない中でも作ってみて、INABA/SALASのポテンシャルは結構すごいなと思いましたね。
――ソロのツアーが終わって、すぐに制作に入られた感じですよね。
稲葉:そうですね。B’zもソロも同じ音楽ではあるんですけど、やっていて飽きることはないですね。
――今回の『ATOMIC CHIHUAHUA』というタイトルには、どういう意味が込められているのでしょうか。
サラス:お互い、常に笑わせるのが好きなんだ。『CHUBBY GROOVE』の時は、「KOSHI、君はさ、世界で最も年を取っているティーンアイドルだよね」みたいなことをジョークで言っていたら、その言葉が入ったTシャツがグッズで作られたりとか(笑)。なので、タイトルに深い隠れた意味はなくて、ノリで楽しくやっているだけなんだよ。
――くだけているところと、音楽への姿勢のバランスがいい感じですね。
サラス:若い頃って、現場がシリアスであんまり音楽を楽しんでなかったんだ。だから、しばらく音楽を楽しむことを忘れていて。でも、年を取ったら、音楽さえよければ、くだけてもいいんじゃないかなというバランスの考え方に変わってきた。
――続いてアルバム収録楽曲についても聞かせてください。1曲目が「YOUNG STAR」ですね。
稲葉:「YOUNG STAR」というのは、自分の田舎にあったレコードショップの名前なんです。情報量の少ない田舎でも、そこに行けば、いろんなものが聴ける場所でした。街のロック好きが集まる場所だったんです。
サラス:昔はみんな、レコード店でたむろしていたことを忘れちゃうんだよね。若い頃は、分かんないけど1日中レコード店にいて、知らないバンドの表紙を見たり、店員にイケてないバンドについて聞かれたときの対応が難しかったりとか(笑)、時折そういうことを思い出すと、そんな時代もあったなと思うんだよね。
――当時を思い出しながら、歌詞を書かれたのでしょうか。
稲葉:細かく思い出して、具体的に書いているわけじゃないです。どこの街にもそういう場所はあっただろうし、そこから大人になっていく過程で夢を見て、社会の荒波にのまれていく手前の勢いを、この1曲に閉じ込めたいなと思ったんです。
――2曲目はリード曲「EVERYWHERE」ですが、最初聴いた時に、ポリスへのリスペクトが込められているのかなと思いました。
稲葉:僕はポリスがすごく好きですけど、意識はしていないかな。
サラス:ポリスを意識はしていなくて、この曲は、ザ・サイケデリック・ファーズについて考えながら作っていたね。
――続いて3曲目の「Burning Love」。こちらの聴きどころを教えてください。
サラス:今、ローリング・ストーンズが、よりモダンでフレッシュな曲を作るとしたら、「Burning Love」みたいな曲ができるんじゃないかなと。ローリング・ストーンズはグルーヴ感があるし、ミック・ジャガーと一緒に演奏したこともあるので、自分たちでやっちゃえというノリと勢いでできた曲です。
――そういうことを考えて作られたんですね。特にサビの<涙よ野となれ山となれ>という歌詞、裏を取っているような稲葉さんの歌い方にすごくグルーヴ感がありました。
稲葉:デモのメロディーはそういう感じじゃなかったんですけど、自分でアレンジしました。そうやってフックになっていればいいなと思います。
サラス:常にシンプルなアイディアを提示するんだけど、いつもKOSHIは考えられない次元のものを出してくれる。だから、「Burning Love」はローリング・ストーンズ感がなくなったかな。ただ、グルーヴやノリは、昔のキース・リチャーズっぽいところが感じられるかもしれないね。
――アレンジで稲葉さんが苦戦された箇所はあったりしますか。
稲葉:やっていくうちに、ここのパートは要らないかなとか、構成を考えていくので、最後まで二転三転しているところもありました。
――それは他の楽曲でも?
稲葉:大なり小なりはありますけど、「Burning Love」、「YOUNG STAR」、「LIGHTNING」もそうです。ノリのいいタイプの楽曲は、パートが付け足されたり、カットされたりと、色々変わりました。
――4曲目「DRIFT」には、ストリングスが入っていて、今までのINABA/SALASにないような感じがしました。
サラス:この曲は自分にとっては実験的だった。うまくいかないんじゃないかなと思っていたけど、KOSHIが歌った瞬間、ソウルみたいなものを感じて。まるでシャーリー・バッシーが「ゴールドフィンガー」を歌っているような、本当に大きな発見があって驚いたね。
――稲葉さんはどういう思いで、歌われましたか。
稲葉:最初のデモの時、R&B色がすごく強くて。こういう曲を歌うのは僕はあんまり得意じゃないだろうなと思ったんです。だけど、とにかく歌ってみて、どうなるかやってみようという、スティーヴィーが言ったように実験的な感じでした。それで歌ってみたら割とスムーズに歌えたので、これはもしかしたら、INABA/SALASの新しい側面を見せられるかなと思って。確かに、これだけちょっと毛色は違いましたね。
――サビでギターが寄り添っている感じもいいなと。
稲葉:あれも独特ですよね。裏でハミングもユニゾンしています。
――続いて「LIGHTNING」ですが、こちらは前作、前々作に通ずるバンドアンサンブルを感じて、ライブの定番曲になりそうな予感がします。
サラス:80年代のアルバムによくある、ファンのための楽曲と位置的には近いかなと。これもまた自分の想像よりもすごくよくできて。KOSHIの歌唱は、デヴィッド・ボウイ的なサウンドになったよね。
――最後の「ONLY HELLO part1」「ONLY HELLO part2」。こちらを2曲に分けた意図はありますか。
稲葉:もともとはメインのパートがあって、色々と構想もあった中で、それなりのボリューム感というか、もう1曲独立してもよいぐらいの重みを持ってきたので、2つに分けたという感じですかね。
――part1<We won’t say goodbye>、part2<There is no goodbye>と、言い方をちょっと変えていますよね。
稲葉:もともとあったのがpart1メインのパートで、スティーヴィーのアイディアに合わせて僕が歌ってみたら、「それはそれで面白いから、別パートでやろう」みたいなやり取りから生まれたのがpart2。なので、<We won’t say goodbye>は<There is no goodbye>とメロディーが合うように、フレーズを書いたという感じです。
――そうなんですね。
サラス:ビートルズでも楽曲の繋ぎ目となる楽曲が1曲としてクレジットされていたりするし、そういうのもいいんじゃないかなと思って。
――最後に、3月からのツアーに向けての思いを聞かせてください。
サラス:前より大きな会場も決まって、この5年間で忘れられていなかったんだなって、ほっとしたところもあって。思いっきり楽しみたいです。
稲葉:前回のツアーが中止になって、今度こそツアーをやろうという話が、今回の再始動のきっかけになったので、やっと実現できるという喜びが大きいです。あとは1stアルバム、2ndアルバムを通してINABA/SALASを好きになってくれた人たちへの感謝を込めて、めちゃくちゃ楽しいライブにしたいなと思っています。
Interview & Text:Tatsuya Tanami
Photo:@ogata_photo
◎リリース情報
アルバム『ATOMIC CHIHUAHUA』
2025/2/26 RELEASE
全曲配信中
<初回生産数量限定盤(CD+ミニトートバッグ)>
BMCV-8071 3,850円(tax in.)
<初回限定盤(CD+DVD)>
BMCV-8072 4,400円(tax in.)
<初回限定盤(CD+Blu-ray)>
BMCV-8073 4,400円(tax in.)
<通常盤>
BMCV-8074 2,970円(tax in.)
◎公演情報
【INABA/SALAS TOUR 2025 -Never Goodbye Only Hello-】
2025年3月10日(月)愛知・・Zepp Nagoya
2025年3月12日(水)大阪・Zepp Namba (OSAKA)
2025年3月15日(土)兵庫・ワールド記念ホール (神戸ポートアイランドホール)
2025年3月16日(日)兵庫・ワールド記念ホール (神戸ポートアイランドホール)
2025年3月22日(土)東京・LaLa arena TOKYO-BAY
2025年3月23日(日)東京・LaLa arena TOKYO-BAY
2025年3月26日(水)宮城・SENDAI GIGS
2025年3月29日(土)神奈川・横浜BUNTAI
2025年3月30日(日)神奈川・横浜BUNTAI
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