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NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。2月18日に放送された第七回「おかしきことこそ」では、主人公まひろ(吉高由里子)が考えた散楽の物語が騒動を引き起こすさまや、藤原道長(柄本佑)らが球技「打毬(だきゅう)」の試合に臨む姿を通じて、まひろ、道長、直秀(毎熊克哉)の関係が微妙に変化していく様子が描かれた。
ここまで好調な本作だが、その面白さの一つに、今までなじみの薄かった平安文化が丁寧に映像化されていることが挙げられる。男性が女性に歌を送って恋心を伝える習慣や、街角で世相を風刺する大衆芸能“散楽”などなど…。第四回にはまひろが“五節の舞”と呼ばれる華やかな舞を舞う見どころもあったが、貴族といえばこれまで、宮中にいるイメージが強かっただけに、道長やまひろが一般大衆に混じって街を歩いているだけでも新鮮だ。
この回のクライマックスとなった「打毬」(劇中では、“ポロの先祖”のような説明がなされていた)の試合も、事前にトレーニングを積んだ役者たちの姿を野外ロケ撮影で捉えた映像は爽快で、開放感あふれる見どころになっていた。
だが、単にそれらを映像にして見せるだけではすぐに飽きられてしまう。本作が見事なのは、それらをドラマチックな物語の一部として巧みに織り込んでいる点だ。この回の打毬も、道長らが試合に臨もうとしたところ、欠員が発生。そこで急きょ、道長が穴埋めのために、貴族ではない直秀を異母弟と偽って参加させる。これにより、そのシーンが道長と直秀の微妙な関係を内包することに。さらに、その2人と微妙な関係にあるまひろが観客として加わることで、より一層の緊張感が生まれ、単なる打毬の試合という以上にドラマチックなものになる。
また試合後、控室で道長や公任たちが、観戦に来ていた女性陣を巡って本音トークを繰り広げる場面は、普段彼らが過ごす宮中とは異なり、直秀や(隠れた場所に)まひろを紛れ込ませることが可能になった。それにより、上級貴族の男性にとって、女性が出世のための道具に過ぎないことを知ったまひろが道長からの手紙を燃やすラストシーンや、直秀の腕の傷を目にした道長が、その正体が盗賊だと察する展開が生まれた。
他にもこの回だけでも、「死は穢(けが)れ」という当時の考えを踏まえ、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)と藤原兼家(段田安則)の丁々発止のやりとりが描かれたり、右大臣家に仕える「武者」と呼ばれる者たちが登場したりと、興味深い事柄がいくつもちりばめられていた。それらがすべて劇中で解説されるわけではないだろうが、気になった点について個人的に掘り下げていけば、平安文化に対する理解が深まり、さらにドラマが楽しめるに違いない。
今後も、いかにドラマチックに平安文化を劇中で描いていくのか。その点でも、本作に対する興味は尽きない。
(井上健一)