GLAYがロックバンドであるという当たり前の事実に『THE FRUSTRATED』は追い討ちをかけてくる

2024年1月3日 / 18:00

あけましておめでとうございます。本年も『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』をよろしくお願いします。

2024年最初の邦楽名盤は、今年デビュー30周年を迎えたGLAYの作品を取り上げる。昨年末、全国ツアーのファイナルで、漫画家の尾田栄一郎が手がけた30周年のロゴと共に、ニューシングルリリースやベルーナドームライヴ開催、GLAY初の夏フェス出演など、2024年の活動予定が発表されたことをご存知の方も多いことだろう。元旦の朝刊に掲載された30周年アニバーサリー広告では何か新しい発表があったのかもしれない(年末進行、ご理解くださいm(__)m)。今回はそんなGLAYのアルバムから『THE FRUSTRATED』をピックアップ。4月に同作の“Anthology”の発売されるというので、その予習(?)にもなると思う。
前作の反動か、ロック色が前面に

GLAYのヒット曲には「誘惑」や「口唇」というバリバリのロックチューンがある一方で、「HOWEVER」や「Winter,again」、あるいは「BELOVED」、「BE WITH YOU」というミドル~スローなナンバーも多いため、ファンではないライトユーザーには、柔らかいロックバンドとか、優しいロックバンドといったイメージがあるかもしれない。とりわけ、今回紹介する8thアルバム『THE FRUSTRATED』(2004年)以前、2001年から2003年にかけてのシングルタイトル曲を振り返ると、26thシングル「またここであいましょう」(2002年)はバンド然としたサウンドではあるものの、アップテンポではないし、24th「ひとひらの自由」(2001年)はレゲエで、25th「Way of Difference」(2002年)はビート抑えめ、27th「逢いたい気持ち」(2002年)はバラードというラインナップであって、この時期、パンクやハードロック、俗に言うビートロックは鳴りを潜めていたと言っていい。

無論、だからと言って、GLAYは優しいだけのロックバンドではない。2002年前後のシングル曲が前述のようになったのは、この時期に発表された7th『UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY』(2002年)が、(やや乱暴な捉え方をすると)まんまGLAYの作品というよりも、リーダーであるTAKUROのソロ作品をGLAYとともに作ったというような性格のものだったからであって、それというも、『UNITY~』の前作6th『ONE LOVE』がバンドサウンド、ロック寄りの楽曲が中心だったというのが専らの見方である。振り子の理論のような感じである。激しいもののあとは優しいものが欲しくなるし、優しいものを得たあとはそれだけじゃ物足りなくなって、また激しいものを求めてしまう。柔らかく、優しいナンバーも手掛けるが、そのあとは反動で、ダイナミックなバンドサウンド、疾走感あふれるギターロックを欲したということだろう。特にこの『THE FRUSTRATED』は、その振り子の反動が強く出たアルバムではないかと個人的には思う。理屈はどうでもいいというか、考えるより先に音と言葉が出ているような印象がある。楽曲の中で感情を描いてはいるものの、それをじんわりと紡ぐのではなく、ダイナミックにぶつけていたり、何なら、言葉や音階での表現以前にシャウトやノイズを発している。そんな感じだ。煽情的という言い方をしてもいいかもしれない。

アルバム前半は特にそう感じる楽曲が多い。順に見ていこう。オープニングはM1「HIGHCOMMUNICATIONS」。この楽曲のタイトルはそのままGLAYのコンサートツアーのタイトルにも流用されており、2003年のアリーナツアー『GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2003』から始まって、昨年の『HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost Hunter-』まで、何度も使われている。つまり、20年来の重要な楽曲と言えるだろう。昨年の同ツアーの本編ラストで披露されたのも「HIGHCOMMUNICATIONS」だった。楽曲の中身に話を絞ると、M1はギターサウンド全開の実にエッジーなナンバー。3rd『BELOVED』の「GROOVY TOUR」や4th『pure soul』の「YOU MAY DREAM」のスケール感の大きさとも、5th『HEAVY GAUGE』の「HEAVY GAUGE」で示したサイケデリックかつダークな雰囲気とも異なる、ロックの尖ったカッコ良さを凝縮したような楽曲である。ギターは相当にフリーキーで、まさに感情に任せて弾き殴っているような印象すらある。歌詞カードには《HIGHCOMMUNICATIONS!》しか載ってないものの、それ以外の英語詞があるようだが、それにしても意味はあまりないようだ。意味よりも語感を優先しているように思われるし、どこか粗暴な感じもある。『HIGHCOMMUNICATIONS』を冠したツアーは、いわゆるレコ発ツアーではなく、ノーコンセプトであったり、普段あまり披露されない楽曲をセットリストに入れたりと、自由度の高い内容であり、その信条はM1の楽曲とも符合しているのかもしれない。
初期衝動と原点回帰を感じる歌詞

タイトルチューンであるM2「THE FRUSTRATED」もまたイントロからエッジーなギターサウンドが全開。うねりのあるベースラインも何とも雰囲気があるし、M1からカッコ良さが継続している。前半は比較的淡々としていて、《LOOKING FOR THE REAL ENEMIES》とか《GIVE ME A REASON/WHY?》とか、タイトル通り、確かにイライラして感じではありながら、サビでは《FRUSTRATED/FRUSTRATED/I WILL GO/I WILL FIGHT/I WILL DO ROCK N’ ROLL》とキャッチーかつ開放的に展開していくのが何ともGLAYらしい。やはりは聴き手を惹き付けるメロディーあってのGLAYである。M2にはそれを改めて思い知らされるところがある。M3「ALL I WANT」はギターリフもので、これもロックのダイナミズムにあふれている。「誘惑」の路線…というと若干語弊があるかもしれないけれど、ギターフレーズ、歌のメロディーともに手癖っぽい印象を感じる。無論それに終始するのではなく、全体的には過去曲と比べてもかなりハードではあって、特に2番以降のワイルドさは圧倒的に聴きどころだろう。サビの疾走感も実にいい。TERUの歌が少しきつそうな箇所もあるが、むしろそこはライヴっぽくて完全肯定すべきだと思う。《幻なんて誰もいらない/目の前にある裸が見たい》という歌詞も理屈抜きの衝動という感じで、これまたロックを感じさせるところである。

M4「BEAUTIFUL DREAMER」は今もGLAYライヴの定番曲となっている。改めて聴いてみるとそれも納得で、メロディー、サウンド、歌詞のバランスが良く、間奏のギターソロも含めて、イントロからアウトロまでほぼ完璧といっていい展開だと思う。もちろん島健によるストリングスアレンジも素晴らしい。バンドサウンドの躍動感を損ねることなく、それでいて、かなりの存在感を発揮しているストリングスはお見事のひと言。サザンオールスターズの「TSUNAMI」などと並んで氏の仕事を代表するものとして推しておきたい。また、《夢のペテンに鎖をかけろ/「俺はZEROだ」そういたいと願う/着慣れたシャツを脱ぎ捨てて》という歌詞は今も興味深い。本作以前の2001年には、1999年7月に20万人を動員した『GLAY EXPO ’99 SURVIVAL』に次ぐライヴイベント『GLAY EXPO 2001 “GLOBAL COMMUNICATION』を東京、北海道、九州で開催。同年11月からは5大ドームツアー『GLAY DOME TOUR 2001-2002 “ONE LOVE”』を行なった上に、2002年には『日中国交正常化三十周年特別記念コンサート GLAY ONE LOVE in 北京』を実現させていたGLAYである。そんなGLAYが《「俺はZEROだ」》であったり、《着慣れたシャツを脱ぎ捨てて》であったりと、現状に甘んじない姿勢を表明していることにも、否応なくロックを感じるところである。

続くM5「BLAST」はスカ。本作が発表された当時、GLAYがスカをやったことに軽く驚いたものだが、東京スカパラダイスオーケストラが客演しているのはそれ以上に驚いた。スカパラのライヴを観て感動したTERUが“GLAYでもスカを…”と作った楽曲で、そこまでは理解できる話だが、その楽曲のホーンセクションをスカパラに依頼するというのは法外なことだろう。TAKUROが“それがTERUらしいし、GLAYだよね”と笑っていたのを思い出す。聴き直してみると、爽やかな感じが多いTERU作曲のナンバーとは若干趣きが異なる気がする。Aメロもやや暗めだし、歌詞も《一人になりたい夜もあるだろう》とか、《風は夢を攫ってく/風は愛を攫ってく》と閉塞感がある。サビはキャッチーだし、間奏のギターソロも柔らかめで、そもそもスカパラホーンズを含めてスカの躍動感はあるので、100パーセントダークというわけでもないのだが、その辺も面白く聴いたところではある。
HISASHI、JIROの存在感

というわけで、M1からM5までロックなナンバーのつるべ打ちの『THE FRUSTRATED』である。ワイルド。ノイジー。スピード。感情の赴くままのような演奏は、GLAYがロックバンドであることをダメ押ししている。前半だけで『THE FRUSTRATED』は勝ったと言っていいと思う。ただ、それだけで終わらないのもGLAYの懐の深さではある。アコギ基調のミッドチューンM6「あの夏から一番遠い場所」。ブルージーなバラードM7「無限のdéjà vuから」。サビが壮大かつ美麗なM8「時の雫」。いずれもテンポが落ち着き、それこそM8の前半ではリズムには同期を用いるなど、一見、バンドサウンドから離れたようにも思える。しかし、聴けばお分かりの通り、M6ではしっかりHISASHIのギターが自己主張しているし、M8では長年GLAYのサポートをしているTOSHIの躍動感あふれる素晴らしいドラミングも聴こえてくる。アルバム作品の流れとしてずっとエッジーなものを続けるのも憚られたとか、メロディアスさも強調しておきたいと思ったのか分からないけれど、中盤では趣きを変えつつも、バンドらしさは失われていないところに、ロックバンドとしてのプライドが垣間見えるところである。

アルバム後半、M9「Billionaire Champagne Miles Away」からは、誰が聴いてもロックと認識するであろうナンバーが再びズラリと並んでいる。明るく派手なM9もさることながら、まず後半の注目はHISASHI作曲のM10「coyote, colored darkness」とM11「BUGS IN MY HEAD」だろう。GLAYのメインコンポーザーはリーダーのTAKUROだが、それ以外のメンバーも作曲を手掛けているのはGLAYのアドバンテージで、本作ではそれが実にいい具合に発揮されている。M10は歌詞の世界観も含めてファンならHISASHI節を感じるところだろうし、パンキッシュに迫るM11もJIROらしいと思うところだろう。つまり、ロックはロックでもTAKUROとは別物であるし、聴けばそれがはっきりと分かる。タイプがまったく違うのである。アルバム前半のつるべ打ちはそれでそれで問題ないのだが、M6~M9でクールダウンするにしても、後半もこれと似たようなものが続くと、さすがに聴く方も食傷気味にもなるだろう。これらに続くM12「Runaway Runaway」では、Aメロやサビの後半でGLAY節全開というか、TAKUROならではの叙情的なメロディーがあるので、もしM10、M11なかりせば、やや単調になったのかもしれないとは思う。まぁ、なかったらなかったで、曲順が変わったり、他の楽曲が入ってきたりしただろうから、完全なる余計なお世話なのだが、ここでのHISASHI、JIROの存在感は、言うまでもなく、本作において相当に重要なのである。

M13「STREET LIFE」は2nd『BEAT out!』での「軌跡の果て」や5th『HEAVY GAUGE』での「生きがい」がそうであったように、GLAYのアルバム終盤で見られる、TAKUROの人生観が色濃く出たナンバーである。《見守っていてくれた温かな人の輪の中から/もう旅立つ時なんだろう》や《想い出ひとつも残さずに明日出てゆこう》と、M4同様にゼロ地点を標榜しているようでありつつ、《僕はこの歌を歌う/いつか声が嗄れても/僕は少しだけ心を燻して そして庇いながら/様々な季節を探して この街で生きるんだ》との所信表明が力強い。本作がロックサウンド、バンドサウンドを強めに打ち出していることを思うと、TAKURO個人というよりは、GLAYを続けていくという宣言だったと見ることができるだろう。

このM13で終わらせるアイディアもあったそうで、歌詞の内容からはそれもアリかと思わせる。だが、もしそうだったらちょっと作品のトーンが重かったような気がしないでもない。前述の2nd『BEAT out!』と5th『HEAVY GAUGE』とともにラストは、各々、落ち着いた「Miki Piano」、軽やかな「Savile Row 〜サヴィル ロウ 3番地〜」で締め括っている。本作は、本作中、最もポップと言っていいダンスチューンのM14「南東風」がフィナーレを飾っている。ゲストコーラスにGLAYメンバーと同郷のYUKI、宮迫博之と山口智充によるユニット“くず”が参加しているのが何ともいい。先ほども述べた通り、『THE FRUSTRATED』はロックバンドの作品であることが強調されているし、GLAYがメンバー4人で作った作品であることは間違いないのだけれど、M14は、バンドをやることでその周りに人が集まってくることを暗に示しているような気がする。もちろん、バンドだけで完結するのも悪くはない。だが、こうした広がりがあることで、アルバム全体がさらに希望に満ちた雰囲気に包まれるように思う。《楽園よりもあなたがいるこの地上から/風を運んで世界一のI love youを》という歌詞も、より地に足が付いているように感じられる。この大団円感は、間違いなく、『THE FRUSTRATED』を秀作にしているところだろう。
TEXT:帆苅智之
アルバム『THE FRUSTRATED』
2004年発表作品

<収録曲>

1.HIGHCOMMUNICATIONS

2.THE FRUSTRATED

3.ALL I WANT

4.BEAUTIFUL DREAMER

5.BLAST

6.あの夏から一番遠い場所

7.無限のdéjà vuから

8.時の雫

9.Billionaire Champagne Miles Away

10.coyote, colored darkness

11.BUGS IN MY HEAD

12.Runaway Runaway

13.STREET LIFE

14.南東風


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